第214話 生き返ってからずっとありがとうございます。

キヨロスさんの見立てでは私の出番は1時間くらい先と言うので今のうちに使わせて貰った部屋の片付けと身の回りの片付け、そして軽い食事とトイレなんかを済ます。


「メリシアー、どう?緊張し過ぎてない?って部屋キレイ!!?」

「マリオンさん」


「いやはや、メリシアはいい子だね。

本当にウチのカリンとマリカに見習わせたいよ」

「いえ、部屋を片すのは職業病みたいなモノですから」


「うちの子達もメリシアの家で鍛えて貰おうかなぁ」

マリオンさんが笑いながらそんなことを言う。


それは親の高望みでカリンさんもマリカさんもとても素敵な女性だ。

それにこの顔は本気ではないのがわかる。


ただ少しでも立派になって欲しい親の欲目。


「それで、夜に一度だけご両親に顔を見せてきたんでしょ?どうだった?怒られた?」

そう、私はアーティファクト・キャンセラーさえ使われなければ自分の意思でツネノリ様を助けに行きたくて次元球を使った次元移動を試してみた。


それはツネノリ様と話をした時、お風呂に行くからと次元球を父と母に預けてくれた時に行った。


「お父さん、お母さん」と呼ぶと。

「なんだよ改まって?」

「どうしたの?」


「怒らないで聞いて欲しいの」

「だからどうしたよ?」


「今行くから声出さないでね。

千歳様とツネノリ様に知られない約束で練習させて貰っているの」


「練習?」

「なんだそれ?」


そう言う親を無視して私は次元移動を行った。

「うおっ!?」

「メリシア!」


私の顔を見た両親は泣いてとても喜んでくれた。


だがすぐに「背が伸びてる」「なんかスタイルも…」と始まって小言を言われた。


そこでキチンと2人を見た。


「なんだよ」

「どうしたの?今は少し言ったけど本当はお父さんもお母さんも嬉しいのよ」


「私ね、一つの事だけ願ったの。

この身体はその願いに合わせて変わったの」


「なに?」

「どう言う事?」


「私の願いはツネノリ様の横でツネノリ様を支える事。

守られるだけじゃなくて私もツネノリ様を守りたかったの」


「それって…」

「おい、まさか…」


「ごめんなさい。

そしてその願いをマリオンさんが叶えてくれたの。

マリオンさんは20年の経験を複製して渡してくれた。

その経験と戦いたいと願った気持ち、それのおかげでこの体になったの」


「かぁ〜…」

「もう…」

そう言って呆れ顔の両親は私を怒らなかった。


「死んだのに生きて帰ってきてくれたんだから、この先は好きにしろ」

「ええ、ツネノリ君に気持ちが伝わるといいわね」

そう言ってくれた後で「仕方ない」って笑って許してくれた。

ただ「大怪我をするな」「傷をつけずに帰ってこい」と父に真顔で言われて3人で笑った。


ツネノリ様と千歳様の気配は何となくわかるし感覚強化も済んでいるから安心してくれと言って少しだけ手伝った。


その頃には2人の機嫌も良くなっていて「高いところの荷物を軽々と取れてありがたい」「重たい荷物も平気で…」と感動してくれた。

4人が夕飯を食べている間に2人の布団を敷いてからコソッと帰った。


そのことを思い出しながら

「最初は小言を言われました。でも最後には笑って許してくれました」

とマリオンさんに伝える。


「そっか、優しいご両親で良かったよ。

でもさ、ルルじゃないけど怪我なんてしないでね。ご両親に顔向けできないからさ」

「はい。

マリオンさん。生き返ってからずっとありがとうございます」


私はそう言って頭を深く下げる。


マリオンさんが優しく抱きしめてくれる。

「何言ってんの?全部メリシアの努力でしょ?」

「ありがとうございます」


「メリシアは良い子だ。ツネノリに気持ち伝わると良いね」

「はい」


「ねえ、ある程度落ち着いてくれているならちょっといいかな?今しか言えない事とかあるんだよね」

「はぁ…」


そして私はマリオンさんに連れられるままに広場に行く。

広場ではツネノリ様の映像が出ていて、820対1と言う無茶苦茶な状況に陥っていてお母様たちが真剣な眼差しでそれを見ていた。


「マリオン!お前はまたメリシアの邪魔をして!」

「ルル、ごめんって、でも今じゃないとちょっとね」


「マリオン?」

訝し気なお母様を無視してマリオンさんが私を見る。

その眼はとても優し気でまるで母のようだ。


「?」


「メリシア、私の経験を貰ってくれてありがとう。

誰にでもって訳じゃなくてメリシアに貰ってもらえて良かったと思っているんだ」


「私ですか?」

「うん。メリシアで良かったよ」


「あのね、さっきアイツから言伝を頼まれていたよね?」

「はい」


「じゃあ、私からも頼まれてくれる?」

「はい…」


「ツネノリにね「私が仕込んだ10年に比べたらこのくらいは簡単なんだから根を上げない!忘れていても動けるでしょ?アーティファクトが使えなくされても問題ないようにどんな武器でも使えるように仕込んであげたんだから頑張りな!」って言って」


え?

それって…


「言っちゃったんだマリオン」

キヨロスさんがマリオンさんを見て微笑みながら聞く。


「あ、やっぱり知っていたんだ。この前は黙ってくれていてありがとう。

ルル、ツネジロウ。私が3番目の先生だよ。

今日の日の為にって言い方も変だけど、ゼロガーデンの人間ってアーティファクトが無くなると一気に弱体化しちゃうからさ、私はアーティファクトに頼らない身体にしてあげたんだ」


マリオンさんがツネノリ様の先生だったのか…


「この前、目が眩んだ時にメリシアが指示を出したでしょ?あの時の指示は私の経験だからツネノリも自然に受け入れられたと思うよ。

私が仕込んだツネノリと私の経験を持って生き返ってくれたメリシア。この2人の先生になれた事はもう運命だと思ったんだよね」


「マリオンだったのか…」

ツネジロウ様が驚いている。


「あははは。ツネジロウわからなかったんだ!」

「ああ、俺はてっきり道を示す者だと思っていたんだ」


「ああ、師匠のお爺ちゃんね…」

「ああ、道を示す者はちょっと問題があってね」

神様とマリオンさんが「ははは」と乾いた笑いで申し訳なさそうに話す。


「東?何が問題なんだよ?道を示す者はカムカも仕込んだし、マリオンの事だって平和になってから無手の技を仕込んだんだろ?」


「…道を示す者に声をかけた時に「カムカ以上の筋肉質にしていい?」と聞かれてね」

「師匠のお爺ちゃんに修行を頼むとすぐ筋肉をつけようとするからさ…、それで私に声がかかったんだよね」


お母様とツネジロウ様は「なるほど、それでマリオンか」と納得していた。


「お母さん」

「ちょっといい?」

カリンさんとマリカさんが嫌そうな顔をしてマリオンさんに詰め寄る。


「何?別にツネノリと一緒に10年居たからってアンタ達への愛情は何も変わらないよ!」

そう言ってマリオンさんが笑う。


凄く深い愛情だと思っていたのだが、カリンさん達は違っていた。


「ねえ、キヨロスさんの事を聞いた時から嫌な予感がしていたんだけどさ」

「もしかしてお母さんもツネノリの才能とか真面目さに影響を受けたんじゃないの?」


「さっすが私の娘達!!わかっているねぇ。

いやぁツネノリの可能性ってば凄かったんだよ!散々連携の練習をしてから8時間鬼ごっこをしても頑張るしさ!よその子が出来るんだから私とカムカの子供が出来ないわけ無いって思ってさ!家に帰ってから即カムカと話してね。子供たちの育て方を見直したんだよ!」


「またか…」

「ツネノリめぇ…」

カリンさん達は憎々しくツネノリ様の名前を呼ぶ。

そしてそのまま私の顔を見る。


「覚えていたらでいいからツネノリに言ってくれるかな?」

「うん、覚えていたらでいいんだけどね」


「お母さんから聞いた。アンタがやれる子だったからウチのトレーニングが過酷になったんだってね」

「この、バカ優等生。手を抜くとか覚えてよね!」


「って言っておいてくれるかな?」

「本当、覚えていたらでいいからね!!」


私は「はい、必ず」と言う。


「…マリオン…」

「何、ルル?」


「お前は私の息子を殺すつもりか!!」

「えー、ツネノリは大丈夫だったから安心してよ!」


「何が鬼ごっこ8時間だ!死ぬわ!!」

「うーん、最初は何回か神様に泣きついたけど、すぐに慣れてくれたよ!」


「そうじゃない!!」

そう言ってお母様が怒っている。

親心からしたら子供が大変な修行を積んだ事は心配でたまらないだろうがその経験でツネノリ様が生きてくれていて私はとても嬉しい。

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