第210話 ぬぁっ!イライラする!

ツネノリが4度目のダウンを取られていた。

佐藤達の頑張りもあってツネノリはそこまで追い込まれて居ないのだがどうしても多勢に無勢なのだ。


「王様!ピンチだよ!」

私はたまらなくなって天に向かって言う。


また紙が一枚降ってくる。

このヒラヒラと落ちてくる感じも憎らしい。


「まだだよ。それにいちいち上を向かなくてもいいし」


あぁそうですか!!


追加でまた一枚降りてくる。

「こっちは今忙しくて構っていられないから寂しくても1人で待っていて」


別に寂しくなんかない!

もう天使のエフェクト付いても助けに行くかなぁ…



あ、忘れてた。

「東さん!こん棒出して!私は剣じゃなくてこん棒で戦うから!」

そう言うと目の前にコロンとこん棒が出てくる。


東さぁぁぁん!!?

何この塩対応!!!


そうするとまた一枚紙が降ってくる。


「神様も忙しいんだから絡まないでよ。チトセはそんな事もわからないの?」


ムカつく。

とにかくムカつく。


何この疎外感。


それもこれも全部ツネノリのせいだ!


そのツネノリを見ていると空から赤い影が降ってきた。


「お父さん?また我慢できなかったの?」

そんな事を思ったがそうではなかった。


中から出てきたのはまさかのメリシアさんだった。


そのメリシアさんは瞬く間にプレイヤーを斬り伏せる。


何あの強さ?

「東さん!ジョマ!どっちでもいいから説明して!」

私はイライラして怒鳴り声で神様を呼ぶ。


「はいはい、怒らないの」と言いながらジョマが来てくれた。


「何アレ?説明出来る?」

「ふふふ、あれはね。ビッグドラゴンに殺されたメリシアがルル様とゼロガーデンの仲間達の手で蘇ったのよ。

あの戦闘力はマリオンが今まで培ってきたものをアーティファクトで複製して渡したもの。

まあ、渡して「今日から最強よ」と言っても無理だから相当な訓練が必要だったのだけどね」


よそ様の娘さんを捕まえて、皆して何をしているんだ…?

この中では常識者枠に居そうだったルルお母さんやお父さんは何をやっていたんだ?…ああ、何もできなかったんだろうな。王様あんな感じだし。


「あら、メリシアが望まなければただの女の子で生き返れたのよ?」


「だからってあんな…」

「ほら、黙って見てて。良い所よ!」


ジョマがそう言って私の横で映像を指差す。

映像の中ではメリシアさんがツネノリに想いをぶつけている。


それなのにツネノリの優柔不断な返事。


「ぬぁっ!イライラする!

ツネノリの奴私が言った事わかってない!」


「うふふ、千歳様。髪の色、真っ赤よ?」

ジョマが私に注意をする。


だが腹立たしいったらない。

「だってツネノリってばタツキアで私が言ったこととかわかっていないんだよ」


「ふふ、そうね。

でも立場とか苦悩とか、千歳様は学んだんでしょ?」

それはそうなのだ、お父さんと私の共通点。

ガーデンと外の世界を知った。


その苦悩をツネノリとメリシアさんに押し付けてしまおうとしている。


ん?

映像の中でメリシアさんはお父さんとルルお母さんの姿と言っている。


「ジョマ、ルルお母さんとお父さんはどうしたの?」

「ああ、それは私が隠し勝負を持ちかけたのよ」


なんと言う事だろう、ジョマは勝負としてあの重体で死の淵に居たお父さんに人の手を借りずに9時間以内にベッドに行くように指示をしたし、アーティファクトでの痛みの緩和なんかを禁止していた。

そして見ていられないルルお母さんが痛みを肩代わりして一緒にベッドまで歩いたと言う。


「時間、遅らせますから見ます?」

そう言われて私は見る。


確かにメリシアさんの言う通り、それはとても尊い姿で、改めてよくお母さんはこの中に入り込めたと思った。


「ジョマ?」

「はい?」


「私の勝負でアレたったんだからルルお母さんとお父さんの優遇は…」

「はい、それ以上のとても良いものですよ。ふふふ」


そう言ってジョマが笑う。

私は映像に戻る。



私はすぐに落胆した。

この顔はヘタれた時のツネノリでお父さん達のことを考えてしまっているのが手に取るようにわかる。


私は言ったはずだ。

欲しかったら欲しいと声にしろと。

それをまた悩んでグジグジと情けない。


「ふふふ、千歳様。髪の毛真っ赤よ。

それにしてもお兄様のこの態度は良くないわよね」


「ジョマ!気持ち悪いの!口挟んだらダメ?」

「あら、答えを聞いても行動が決まっているって顔に書いてあるわよ」


そうだ、私はもう決まっている。

別に嫌いあって別れるなら誰も引き留めない。

だかツネノリはメリシアさんが好き過ぎて、自分が変わった自覚も持った。

メリシアさんもツネノリの為に戦闘力を手にして生き返った。

この2人が世界の壁とか下らない事で離れ離れになるなんて許せない。


気持ち悪い!

認められない!!


「もう!ツネノリのバカ!

女の子が必死になって告白してくれたんだよ!

ツネノリはどうなの?

きちんと答えてよ!!」

私は映像に向かって叫ぶ。


映像のツネノリには声が届いたようで驚いている。

よし届いた。


その後、もう一度だけ声を届ける。

それでようやく気がついたツネノリはメリシアさんに告白をした。


ツネノリってばあれだけ好きだったルルお母さんの本を読んでもピンとこないのがなぁ…

普段は自分が自分がなのにこういう時だけ距離を置くと言うか自分に置き換えられないと言うか…鈍感なんだな。


「お見事。流石は千歳様。距離があっても言葉を伝えられる力まで目覚めたわね。

さあ、私は先に行きますね。

千歳様、ここまで見られたからルール変更は受け付けますね」


ジョマ…

もしかしてツネノリとメリシアさんがくっ付くのを待っていたの?


それと同時に上から紙が降ってくる。


「そろそろだよ。準備して」


私はこの間の良さにピンときた。

…王様もジョマとグルなの?


今はまあいいや…出番が近いならやってやる。


とりあえず長丁場は困るからトイレだけ行こうっと。

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