第206話 ダメだな、父さんのように格好良く決められない。

敵プレイヤーの4分の1は倒しただろう。

…まだ沢山残っている事に嫌になったがメリシアが俺の側で一緒に居てくれる事が兎に角嬉しい。


だが、このままだといずれ何かの拍子に押し返されて殺されかねない。

「メリシア、危険になったら逃げるんだ。

折角助かった命なんだ。大事にしてくれ」

万一…いや、高確率で見えるソレから目を背けることはできない。

俺はメリシアにそう言う。


「嫌です」

「いや、そうは言っても多勢に無勢。このままメリシアを守り切れる確証もない」


「嫌です!!」

そう言って飛び出したメリシアが前に居た大男を斬り刻む。


「私は守られるだけじゃありません。

私がツネノリ様をお守ります」


「いや、だがな?

この状況、2人でやれても後300人がいい所だ。その後はまだ300人も残ってしまうんだ」

俺もメリシアを説得しながら近づいて来た眼鏡の小男とこん棒を持った女を斬る。


「だったらお早くアーティファクト・キャンセラーを目指してください!」

メリシアは重騎士風の男を器用に斬る。


「今離れたら大変な事になる。

メリシアが心配なんだ!」

俺も負けじと斬る。


「何でですか?」

メリシアは横も向かずに横から来た女を斬り殺す。


「何でって、メリシアが大事だからに決まっている!」

俺は突撃して来た槍使いの槍をかわして喉に剣を突き立てる。


「鈍感男!」

そう叫んだメリシアが飛びながらナイフ使いのナイフを叩き落としてから斬る。


「…ツネノリ様…私の気持ちを敏感に感じ取ってください」

顔を赤らめながら潤んだ目で俺を見るその顔はとても魅力的だった。

手元は止まらずに足も動いて二刀流使いの剣を器用に避けながら斬り返すのが何とも言えなかった…


「メリシア…」

俺もメリシアを見ながら背後から迫る長刀使いをノールックで斬りつける。


「私、ゼロガーデンでツネツギ様とお母様の姿を見てきました。

ジョマ様との勝負で誰の手も借りられない中、痛みに耐えながら2人で一歩ずつ肩を寄せ合って前に進む姿はとても素晴らしかったです。

世界が離れていても通じ合える2人…


この気持ちが何だかわからない。

それでも今こうして会えて嬉しいし離れたくない。

私はツネノリ様と一緒に居たいんです。

あなたの居ない世界に生きていて何になります?

何の為に願って戦う力を得たと思うんですか?」


メリシアは俺から視線を離さずに熱い気持ちをぶつけてくれる。


この間にも3人のプレイヤーがボロ雑巾になっていた。


「俺だって会えて嬉しい。

離れたくない。


邪魔をするな!


早くこの気持ちが何なのかを確かめたい。

だがそれでメリシアに何かあったら俺はどうすればいい?


目障りだ!」


俺も気持ちを伝えながら邪魔をするプレイヤーを切り刻む。



「何だよこいつら、イチャイチャしながら一瞥もなく切り刻んできやがる」

「運営!なんだよコイツら!特殊能力なんか無くてもヤベーじゃ無いかよ!」


プレイヤーが困惑しているのかゴチャゴチャ煩い。



「メリシア!」

俺はこのタイミングしかないと思い、名前を呼んで左手をメリシアの腰に手を当てて抱き寄せる。


近くにある顔は生前と何も変わらない。

優しい眼差しに柔らかな笑顔。

だが俺は違和感に気付く。


「あれ?背…伸びたのか?」

前と違う位置にメリシアの顔がある。


「人間化の影響です。マリオンさんの経験を頂いたらそれに身体が合わせてしまいました。

スタイルだって良くなったんですよ?」

「そうなのか?」



「ふふ、鈍感男」

メリシアが優しくそう呼ぶ。


「俺はそんなに鈍感か?」

「はい。それはもうとても」


空気の読めないプレイヤーがまた迫ってくる。

俺は空いた右手でそれを斬って、メリシアも右手の剣で反対側のプレイヤーを斬る。


「この気持ちが愛かもしれない。

恋かもしれない。

それが何だかわからない。

でも決して嫌いな気持ちではない。

ツネノリ様はどうですか?」


「俺も嫌な気持ちではない。

だが、恋だか愛だか好意なのかわからない。」

俺はメリシアから目が離せない。


それを邪魔するプレイヤーがまた数人襲いかかってきた。


「邪魔だ!」

「邪魔しないで!」


一瞥もなくそれを斬る。


「私はツネツギ様とお母様を見て素敵だと思いました。

外の世界とゼロガーデン、その隔たりを物ともしない2人の愛。

勿論、ツネツギ様と千明様、ツネジロウ様とお母様。

皆さん素敵です。

そんなものを見て私はツネノリ様とそんな2人になりたいと思いました。

私とツネノリ様ではガーデンの壁を、隔たりを超えられませんか?」


メリシアが顔を赤らめながら必死になって話してくれる。

俺たちの周りには倒したプレイヤーの山ができているがそれどころではない。


ガーデンの壁。

それは、とても分厚くて高い壁。

父さんの苦悩、母さんの悲しみ。

俺はそれを見てきた。


……どうすればいい。

俺の気持ち。

メリシアの気持ち。




「もう!ツネノリのバカ!

女の子が必死になって告白してくれたんだよ!

ツネノリはどうなの?

きちんと答えてよ!!」


千歳!?

空耳かと思ったが千歳の場合それはない。

エテから神如き力で話してきたんだ…


俺は初めてメリシアに出会った日の風呂での事。

そして態度ではなく言葉にする事が大切と言ったメリシアの母親の顔を思い出す。


こんな時だが…、生まれの違いなんかを言い訳にしてはダメだ。


「お前ら邪魔をするな!少し待っていろ!」

俺は周りのプレイヤーに向けて声を張る。


「ツネノリ様?」

「メリシア、聞いてくれ」


「はい」


「まずはありがとう。

とても嬉しい。


ガーデンの壁はとても厚くて高くて、俺はそれこそ今日が終われば自分の世界に帰って二度とここに来られなくなるのかも知れない。


父さんと母さんの事もある。

だからこそ後一歩前に出られない自分が居た」


「はい。知っています」

「俺は父さん程素晴らしい人間ではない。

そしてその俺がこの言葉を言う事でメリシアを傷つけてしまうかも知れない。

だが…言わせて欲しい」


「はい」

「普通ではない事で悲しませる事も苦しませる事も…悩ませる事もあると思う。

だが、俺もメリシアと父さんと母さんのような2人になりたい」


「はい。








……だから?」








「なに?」

「その先をキチンと言葉にしてください」


「なに?なんといえば良いんだ?」


「もう、鈍感男の朴念仁。

私は何があってもツネノリ様と戦います。

敵が何人とか死ぬとか関係ありません。

むしろそんな事で引き離される事が嫌です」

「そうか…」





「そうか?」

「なに?」




「バカ!ルルお母さんの本をあれだけ読んだのにわからないの!?」

千歳?


本?


あ!!

俺は自分が大好きだった部分を思い出す。


「メリシア…」

「はい?」



「今は多勢に無勢だ。

このまま行くと死ぬ事になるかも知れない」


「はい」


「もし良かったら、それでも俺と最後まで付き合ってくれないか?」


「だから一緒にいると言いましたよ」

「あ…、そうだな。

ダメだな、父さんのように格好良く決められない。


俺が最後までメリシアを守る。

だから最後まで付き合ってくれるか?」


「はい、私は先に死んでも最後までツネノリ様をお守りします」


「ダメだ、俺より先に死ぬなんて認められない」

「あら、ツネノリ様こそ私より先に死ぬなんて許しません」


「そうか」

「はい、だから私たちの言葉を形にするならここでは2人とも死ねません」


そう言ったメリシアの真っ直ぐな目をずっと見て居たいと思った。

「そうだな、メリシア」

「はい」


「済まないが最後まで付き合ってくれ。

そして俺が死ぬような時は一緒に死んでくれないか?」

「はい。付き合います。

そして万一その時が来たら一緒に死なせてください」


周りには武器を構えた数百人の敵がいる。

俺もメリシアも武器を持っている。

武器は血に濡れていて、俺達には返り血が付いている。

そんな状況なのにこのままずっとこの顔を見て居たい。

こうして話していたい。

この気持ちがなんだか知りたいと思ってしまった。


「メリシア」

「ツネノリ様」


メリシアが俺の胸に顔を埋めてくる。

相変わらずメリシアが近づくと俺の動悸は早くなる。

やはり動悸の激しさを知られるのは恥ずかしい。

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