第202話 お前だけは何が何でも父さん達の所に帰れるように頑張る。

食事が終わると時間は9時になっていた。

「ツネノリ、作戦どうする?」

「行ってある程度倒して獲得する。それだけなんだがな」


「珍しく短絡発言だね」

「そうか?」


「じゃあ何時にする?」

「3時くらいで良いんじゃないか?」


「その心は?」

「敵も配置後しばらくしているから気が緩むかも知れない」


「成る程、じゃあそうしよう」


「ツネノリはさぁ」

「なんだ?」


「終わったら何処に行きたい?」

「千歳が9人でご飯と言っていたからまずそれをしたいかな」


「おお、ツネノリもそう思うでしょ!?」

そのままそんな話をする。

俺はトイレに行くと言って部屋を出ると女将の所に行く。


「いかがされました?」

「ジョマとの勝負で俺だけが闘技場に行く事になった。

妹には悟られたくない」

「かしこまりました。

それは何時でございますか?」


「1時だ」

「それではお食事をその頃にお持ちさせていただきます」


「よろしくお願いします」


その後、千歳は勝手に俺とメリシアの子供予想とかいって変な事を言っていた。


とても強いのに普段は優しい子で名前はメリノリだそうだ。

「それだけには絶対にしない。断言できる」と返したら「ふふん、じゃあ子供を授かる気はあると言う事だね」と笑われた。


「あーあ、次元球が使えたらメリシアさんも見てて喜んでくれたのになぁ」

「喜ぶのか?」


「女心がわからないなぁツネノリは」

「そうなのか?」


「私にもわかんないよ」

「なんだ、ダメじゃないか」

そう言って笑い合う。


千歳の…今の気持ちは「怖い」「嫌だ」だろう。


それを紛らわす為に日常会話をしていると俺は思う。

安心しろ、お前は行かせない。

俺がお前の分まで敵を倒す。



何、全滅なんて夢のまた夢だ。

アーティファクト・キャンセラーを奪い取ればこの戦いは俺たちの勝ちだ。


ジョマが少数でくれば蹴散らせば良いし、大群を倒せば盛り上がるだろう。


時計を見るともう12時が近い。

「千歳、装備品の確認をしよう」

「おっけー」


「千歳はショートソードと盾だな?」

「うん。普通の武器は重すぎてダメだよ。

ツネノリはそれにロングソードと手甲も持っていくの?重くない?」

「まあな…贅沢だが使い捨てだ」


女将は12時半に食事を持ってきてくれた。

俺は怪しまれないように一緒に食べ始める。


その場で調理するタイプの小さな鍋と鉄板を出してくれて千歳が嬉しそうに調理をしている。


その姿は戦いなんか不似合いな少女だ。


血生臭い戦いは俺がやる。

そして勝つ。

それでお前は無事に日常に帰るんだ。


俺は少し食べたところで席を外す。

「珍しい、またトイレ?緊張しているな?

でも食事中のトイレはお行儀悪いぞー」

「すまない。今日は大目に見てくれ」

そう言って女将のところに行って紙とペンを分けてもらう。


「千歳へ

黙って出かけて済まない。

千歳の性格からしたら到底許せるものではない事は重々承知しているが許してほしい。


俺はジョマとの勝負で一足先に行く。

どんな状況か想像も付かないが。

安心しろ。

お前だけは何が何でも父さん達の所に帰れるように頑張る。


この約20日間、非常に楽しく貴重な経験をさせて貰えた。

千歳が妹で凄く感謝している。


万一俺が死んだ時は父さんと母さんの事をよろしく頼む。

メリシアには千歳から謝っておいてくれ

一応書いておくが、千歳が気に病む事は無い」


「千歳が気付いたらこれを渡してください」

「はい。かしこまりました」


「それと、とても美味しいご飯なのに残してしまってすみません」

「では次回はまた同じ物をご用意いたしますので次こそは最後までお召し上がりください」

そう言うと女将が笑う。


「ありがとうございます」

俺は深く頭を下げて、天を向く。


「ジョマ!これ以上は千歳に悟られる。今すぐ俺を召喚しろ!」


「あらら、ここのご飯美味しいのに勿体ない」

そう聞こえてから俺の足元が光る。


「部屋の外にある装備も頼む」

「はいはい、やるわよ」



光が晴れた俺の前、少し行った所に闘技場が見える。


「はーい!運営のジョマです!!

昨日言った通り、卑怯にも逃げた特別枠の2人。

逃げた上に私達に挑戦状を突きつけてきました。

文面は昨日の説明通りですが、もう一度言うと「物量戦なんて盛り上がらない。

こちらは2人、そちらも精鋭を揃えて正々堂々と戦え!

そして運営アイテムを取り返して我々が勝つ」

でした。

なので昨日は精鋭を募りました!

厳選なる審査やバトルロイヤルを勝ち抜いたプレイヤー、その数800人!

それと初心者枠の20人の820人で迎え討ちます!」


…万からすれば随分と減ったが800人?

まったく…、容赦の無い。


「もう一度今日のルールを説明します!

我々改革派は特別枠を倒すか、深夜0時のイベント終了までこの運営アイテムを守り抜けば勝ちです!

逆に保守派はこの闘技場の真ん中に設置した運営アイテムさえ奪い取れれば勝ちになります!」


真ん中…ここからでは見えないが闘技場にアーティファクト・キャンセラーがあるのか。

それに向けて最短最速で突撃してやる。



「とは言え、こちらは820人で特別枠は2人…。

おっと!?

まさかの1人だ!

男の特別枠しか居ないぞ!?

どうした!?何があった?

仲間割れか?

女の特別枠はどうした!!」


ジョマの声にどよめきが起きる。


「だが我々改革派は手なんか抜かないぞ!

仲間を呼ぶなら今のうちだ!!」


ジョマめ、上手くやる。

まあ良い、800人が相手だろうがやるだけだ。


ジョマのバトルスタートの声で向こうから沢山のプレイヤーが迫ってきた。

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