第189話 ルル、ずっとありがとう!!

2日目の戦いが始まった。

くそっ、今日は悪魔化したプレイヤー7000人にたった2人で挑めと来やがった。

これまでのイベントでも悪魔を200程度の敵しか置かなかったのに桁違い過ぎて話にならない。

そもそも俺たちがトセトでプレイヤーを守った時も800対3だったんだ。

それなのになんだ桁違いの展開は。


「だが千歳達は頑張っている」

「東!」

突然現れた東に俺は不満を露わにする。


「死なないプレイヤーとの戦いではなく倒せば消える相手だ。精神的に楽なはずだ」

「だが6時間で倒せなければ意味がない」

こう言う時の東は苛立ちを助長させる相手でしかない。


俺はキヨロスに目配せをすると頷いてくれた。


「キヨロス、「紫水晶の盾」を持ち出したね。でも援護もダメだよ」

「念の為です。命あっての完全解決だ。

死んでいい完全解決なんてない。

致命打から守るくらいさせてください」


よし、東は昨日のやり取りは気付いていない。

援護を期待できるなら神の力はありがたいが、いちいち見破って注意をする神の力ほど邪魔なもんはない。


その後、何とか戦っていく2人は残り時間1時間まで粘る。

そこで千歳が撤退を意識するがトラブルに見舞われる。

千歳が飛べないと言い出した。

目的地に使いたいメリシアの実家が見つからないと慌てている。


「練習不足だ。…チトセの事だ。多分練習はしたんだけど、本人達を近くに感じての練習でここまで離れての使用は初めてだからイメージがうまく出来ないんだ」


「私が行きます!!

私が行くのは今です!!」


「メリシア!?」

メリシアは我慢できずに次元球で通信をしてしまう。


「千歳様、私が!!」


そう言ったが何も知らない千歳がメリシアを止める。


「ダメだよメリシア!まだ早い!まだ2日あるんだ!今出て行って対応されたらそれこそ隠し球が無くなるよ!!」

「マリオンさん!でも助けないと!!」


俺はキヨロスを見る。

俺なら一瞬でも身体が動けば2人を抱いてタツキアにでも飛べる。


キヨロスも頷く。

よし、ここが俺の命を使う所だ。


「ありがとうルルお母さん!!」

次元球から聞こえる千歳の声。


「千歳?」

「朝渡した予備の次元球を目印にしておる!これなら逃げられる」

そして千歳は何とかタツキアに逃げた。


「ふぅ…、良かったね。何とか逃げられたよ」

「ギリギリだったな…」


「お姉さんにはわからないけど、これで残り2日はどうするの?」

「それも問題だけど…」


「キヨロスくん?」


「それも問題だけど、僕がジョマなら今日の結果には不満だ。

チトセ達が5時までの戦いにして明日への余力を残した事。

そしてメリシアの通信で次元球に気付いた事。

後は…」


「後?」

「マリオン、まだイベントの終わりまで時間あるよね?」

「うん、後40分かな?」


「動きを見ていて。イベントの終わり、ジョマが話す時になったら皆を呼んで」


「キヨロス?」

俺は慌ててキヨロスを追いかけて呼ぶ。


「ツネジロウ、出番が近いかも知れない。

覚悟をしておいて」


「それって!?」と言ったところでルルから呼ばれた。


「どうした?」

「ツネジロウ?」


「なんだよ改まって」

「お前、私に隠し事をしていないだろうな?」


…マズい。

ルルの首には千歳が渡したウソを見破るネックレスがある。

下手な嘘はバレる。


「してないだろ?」

「そうか?」


「俺は心から子供達が心配でならないだけだ。

この命を使ってでも助けたいほどにな」

そう言いながらルルの首を見る。


ネックレスの黒い石は薄ら茶色がかってまた黒になる。


よし、嘘はついていない。


「私もそうだがとりあえず今日は乗り切ったんだ。明日のツネツギに任せよう」

「ああ…」


だがすまん。

俺はそれを待てない。

嫌な予感が消えていないんだ。

キヨロスの言葉、俺の勘…そう言ったものが戦闘態勢を解くべきではないと言っている。


「ルル!ツネジロウ!!」

マリオンが俺たちを呼びにくる。

ジョマの実況だ。



「怒ってやがる」

あの顔はマズい。

タツキアを…メリシアを殺した時の顔に近い。


そのまま千歳とツネノリは強制転送をされる。

「東!!何処に飛んだ!」


「フナシだ。今映像を出す」

映像の中でジョマは黒い悪魔を12体出してきた。


「ペナルティってこれ?」

マリオンが訝しむ。


「いや、まだあるはずだ…、なんだ?」

キヨロスも怪しむ。


次の瞬間、俺は目を疑った。

その場に居た全員が息を呑み緊張が走る。

俺だけはツネツギの記憶でしか見たことがない。

だが俺以外の全員はソレを知っていた。


「アーティファクト・キャンセラー?」

「ジョマの奴、あんな物まで用意しておったのか…」


「マズいよキヨロスくん!チトセ達が丸腰になっちゃうよ!」

映像の中の千歳が髪を赤くして必死に逃げようとしている。

だが今の冷静になれない千歳に集中を要する作業が出来るわけがない。


このままだと悪魔に嬲り殺される!

命に替えても2人を守る場所はここしかない!!


「キヨロス!!やってくれ!!」

「ツネジロウ!!!行くんだ!【アーティファクト】」

俺はツネツギの真似をして瞬間移動をする。

不謹慎かも知れないがこれが最後と思ったらどうしてもルルを一目見たかった。

ルルは状況が飲み込めずに映像から俺に目線を変えるところだった。


その横顔向かって「ルル、ずっとありがとう!!」と言ったのだがルルには聞こえただろうか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る