第126話 全部を知って考えなければいけないの。

起きるとそこはセンターシティのホテルだった。

ツネノリは律儀に私に腕枕を提供してくれている。

本当に優しい兄だ。


「千歳」

「東さん、ただいま」


「すまなかった」

「何が?」


「僕は途中から眠ってしまったようで何も覚えていないんだ。

どうなったかは千歳から聞くように地球の神様から言われたんだ」


「そうなんだ、何処まで覚えているの?」

「常継がケーキを買ってきた辺りかな」


「じゃあ今はあまり深くは言わないね。

言うとこの先の計画がダメになっちゃうから。

私はその先でジョマの本質に触れたよ。

そしてジョマが創造神ではない事を知ったの。

後は全部のイベントが終わったらジョマと話す事になっているの」


「すごいな千歳は…」

「そうかな?私はただ気持ち悪いのが嫌いなだけだよ」


「何が僕に手伝える事はあるかな?」

「あ、2個あるんだけどいい?

1個目はジョマの事をジョマと呼ぶ事。

あ、お父さんとお母さん、それと東さんは「北海さん」でも「道子さん」でもいいからね。

絶対に魔女とは呼ばない事を徹底してね」


「ああ…それも必要な事なのかい?」

「そうだよ。ジョマは魔女なんかじゃないんだから!」


「それをやれば完全解決に繋がるのかな?」

「完全解決?」


「ああ、全部上手くいくという奴だ。ゼロガーデンに居る南の王様が好きな言葉だね」

「それそれ!その南の王様と話をしろってジョマに言われたの、今日からのイベントを成功させるのに必要なんだって!その王様と話をさせてっていうのが2つ目のお願い!」


「へぇ…、何だろうね?」

「えっとね「革命の剣」の話を聞いて私が閃くと上手くいくんだって」


「「革命の剣」?あれはあまり勧められないんだけど…何を聞くように言われたんだい?」

「12本の光の剣の事だって」


「そう、じゃあ今取り次ぐから次元球を構えて待っていて」


私は起きて言われた通りにする。


「千歳?」


少ししてルルお母さんの声がする。


「ルルお母さん?ごめんね朝早くに」

「気にするな。体はどうだ?」


「うん、平気だよ。ありがとう」

「うむ、それにしても神様から聞いて驚いたぞ?千歳が神の世界に行ってきて完全解決の筋道まで見つけたとは」


「うーん、見つけたって言えるのかな?とりあえずジョマに全力を出して貰って私達が全力で倒すの。

そうしたらセカンドもサードも上手くいくんだ」


「立派だぞ。母としては鼻が高い。

しかしジョマと呼ぶのはなんか変な感じだな」


「そう?それは仕方ないけどお願いだからジョマって呼んでね」


「ああ、わかっておる。

それで神様から聞いたぞ、キヨロスと話がしたいそうだな」


「その人が南の王様?」

「ああそうだ。待っていろ」


「チトセ?」

「はじめまして、千歳です。朝からごめんなさい」


「いいよ。それで僕に聞きたい事があるんだよね?」

「はい。今日から始まるイベントを勝つ為に王様の「革命の剣」が出す12本の光の剣について教えて貰えって」


「あの女がそう言ったの?」

「あの女って…ジョマです」

私はその言い方に嫌な気がして反論をする。


「僕は神様の言う通りにあの呼び名は辞めたんだけどな、ダメかい?」

「ダメです。ジョマで呼んであげてください」


「ふーん、僕はさ大事な奥さんをアイツの使いに殺されたんだよね。それでもその呼び方を求めるの?」

「はい。それが完全解決に必要ですから、我慢してください」


「君、面白いね」

「そうですか?」

顔は見えないがこの人は何か違う。

何処か気持ちが悪い。


「キヨロス!お前はフィルを取り戻したであろう?

それにジョマの使いも滅茶苦茶に痛めつけて倒したんだ!いつまでも20年前の事を引きずらないで水に流せ!」

後ろでルルお母さんの声が聞こえる。


「もぅ、そうやって優しいのってお姉さんは好きだけど、小さい女の子に厳しいのは良くないと思うぞ」

その後ろから女の人の優しい声が聞こえて来る。

「ジチさん、でも…」

「こら、仲間の子供はみんなの子供でしょ?優しくしてあげてよ。


ねぇ、チトセ!」

女の人が私に話しかけてくる。


「え、はい。はじめまして」

「はい。はじめまして。お姉さんはこのキヨロスくんの奥さんの1人でジチって言います。

ごめんね、うちの旦那様は別の奥さんが一度殺された事をまだ怒っているみたい。

本当はみんなの為に怒る優しい人なんだよ。

後、怒りっぽいのは特別なアーティファクトを授かった影響だから許してあげてね」


優しい声の人は優しく私に教えてくれる。


「ジチさん、僕は別にチトセを困らせたいなんて思っていないし、ちゃんと完全解決の為にもあの女の事はジョマって呼ぶよ」

「あら、そうなの?

最初にキチンと言い返したところで見所ありって認めて嬉しくなって鍛えていたのが気になったのよ。

お姉さんはお邪魔だったわね。


チトセ!キチンと大きくなっていて偉いよ!皆が怖がるキヨロスくんにキチンと物申す事が出来て本当立派だよ。

嫌がらずに今度こっちにきたらキヨロスくんと話してあげてね」


「はい、ジチさん」

「うん、よろしい。じゃあ本題に入っちゃいな!」


「それで?なんで12本の光の剣が必要なの?」

「それは教えて貰ってない。

ジョマは深く教えないで後は私に考える事をさせてくれるの。だから全部を知って考えなければいけないの」


「ふーん、そうやって聞くといい奴に聞こえる。僕とは気が合いそうだ。

ルル!「創世の光」を渡した時のやり方は?

うん

大体わかった。」


そういう時次元球から指が出てくる。


「チトセ、僕の指…指輪があるだろう?そこの針に触れて。チクッとするけど我慢するんだ」


「え?触るね」

私は言われた通りに指輪についている針に触れる。


「触ったよ」

「よし、【アーティファクト】」


王様が唱えた瞬間に私には「革命の剣」の形や重さ、使う度に魂を削る事、この剣を手に入れる為に12匹の鬼と戦って使い慣れた剣と別れた事。

そして12本の剣の事。


王様が奥さんを殺された怒りに任せて飛ばし続けて人を斬り殺したことなんかが頭に流れ込んできた。


「どう?イメージ伝わった?」

「うん…、凄い剣。12匹の鬼。「兵士の剣」の技…、ジョマの使いを目にも止まらぬ速さで切り刻んだ…。

12本の剣全てに自分がいる感覚。

剣を飛ばして世界を見る。


見えるよ!凄い!!空が高くて速いの!景色が流れる!


え?昨日…お父さんと戦ったの?」


「あれ?思った以上の情報もチトセに届いている?何でだろ?」


「うん、奥さんを殺された怒りに身を任せて世界中の人を殺した事も見えたよ」


「何でだろう?チトセが凄いのかな?まあコレが「革命の剣」の全てだよ。

何が出来るのかわからないけど僕もここからチトセの活躍を楽しみにしているよ」


「ありがとう王様。

大丈夫、ジョマが教えてくれたんだから絶対にイベントで役立つよ!楽しみに待っていてね!」


「本当、キヨロスくん好みだねチトセは」

「うん、ウチにお嫁に来てくれないかな?」


「ダメだ!千歳はニホンの子供だぞ!」


次元球の向こうではルルお母さんと王様たちが楽しそうに話している。


「ルルお母さん!王様、ジチさん。朝からごめんね。ありがとう。またね!」

そう言って次元球をしまう。


あ、メリシアさんの事を聞けば良かった。

まああの人達ならメリシアさんも大丈夫だろう。


王様の気持ち悪さは多分アーティファクトで性格が怒りっぽくなった事だと思う。

なんか気に入られたとか言っていたけど何でだろ?

まあいいや。


もう少し眠るかなとベッドの上のツネノリを見る。


ん?

ツネノリが横のベッドに移動させられていて私が寝ていたベッドにはジョマが正座をしてウルウルと私を見ている。


「千歳様!」

「ジョマ…、見てたの?」


「はい!」

「それで感極まって我慢できなくて降りてきたの?」


「はい!」

「ツネノリ邪魔だからどかして私のベッドで待っていたの?」


「はい!」

そういうとジョマが私の手を取ってベッドに引き寄せる。


「うわぁっ!?」

ジョマに覆いかぶさる形で私はベッドに乗る形になる。


「ありがとうございます千歳様!!」

そう言ってジョマが力一杯私を抱きしめる。


「ツネノリが起きるから静かにして」

「大丈夫です。私が帰るまで目覚めないように神の力を使いました!」


「えぇ…。そんなに嬉しいの?」

「嬉しいですよ!ゼロガーデンの人達が私の事を魔女って呼ばないんです!

それに千歳様はあの怖い王様相手に戦ってくれました。

それがとても嬉しいんです!」


そう言ってジョマは私を抱きしめて頬擦りをする。


「もう、いちいち出てきてたら大変だよ」

「構いません!」


何か喋り方がジョマと言うより道子さんに近い。


「千歳様、完全解決って何のことかわかりませんが、そこには私も居るんですね?」


「うん」


「私が本気でイベントを盛り上げたら千歳様も私も完全解決ですね」


「そうだよ」


「わかりました!頑張りますね!」

そう言ってジョマは後3分と言いながら私を抱きしめる。

私もジョマを抱きしめる。

何となくそうするべきなのだ。


多分3分経ったところで「そろそろ東が怖いから帰りますね」と言ってジョマが離れて帰る。


「千歳!無事かい!?」

ジョマが離れて1秒も経たないウチに東さんが部屋に飛び込んでくる。


「東さん?」

「北海めぇ…」

その声はちょっと怒っている。


「別に5分くらいだから何もないよ!」

「僕たち神は時間操作くらい訳ないからね。何かあったんじゃないかと思って飛んできたよ!

貞操の危機…もし何かあったら僕はツネツギ達に申し訳が立たないからね!」


「東さん、ありがとうございます」

「いや、ここは僕が見張るから千歳はもう一度眠るといい」


うーん、眠る気にならないんだけど東さんの気迫に押されて私はベッドに入る。


「千歳、可哀想に…まだ心が落ち着かないんだね?」と言う東さんの声を聞いた後気絶するように眠りについた。

多分神の力を使ったんだと思う。


ジョマといい東さんといい、簡単に神の力を使う似た者神様め。

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