第96話 これが気持ち悪さの正体だったんだ。

第二会場に飛ばされた5000人のプレイヤー達。

その前にビッグドラゴンが現れる。


先日と同じ要領で行けば、村の近くで遠距離武器を持ったプレイヤーが遠距離で戦い、近距離武器を持ったプレイヤーが死なないように立ち回ることになると思う。


だが、今回は違った。

大多数のプレイヤーが開始早々にログアウトをしたと言う。


残ったプレイヤー達、その中には佐藤も田中も鈴木も居た、トビーやイクも居てくれた。

みんな最後まで戦ってくれて、1匹目のビッグドラゴンを倒した佐藤達は死ぬ直前の攻撃で火を吹かれて死んだという。


2匹目のビッグドラゴンの進行を残りのプレイヤー達は止めることが出来ずに全滅をしたと言う。

そしてビッグドラゴンが村に足を踏み入れた時、飛ばされた瓦礫が直撃したメリシアさんは瀕死の重傷を負った。


そこにツネノリが現れてビッグドラゴンに攻撃の機会すら与えずに圧倒をした。

そして最後の別れを済ませて泣いている所に私達が現れたと言う話だった。



「これが気持ち悪さの正体だったんだ」

私は東さんに言った。

ジョマが何で成功報酬から参加費に変えたか…、きっと別の街や村でこれをやるつもりだったんだ。


「でも何で一斉にログアウトを?」

「あのプレイヤー達は前々から仕返しの機会を伺っていたんだと思う。今見たらネット上で運営に仕返しをと言うスレッドが立っていた。そして直近の書き込みに「運営がAIを人間扱いしていて気持ち悪いほどに守ろうとしているから、イベント直後にログアウトしてイベントを台無しにしよう」「報酬じゃなくて参加費になったから参加だけしてログアウトだな」とあった」


迂闊だった、私達はセカンドガーデンにしか居ないから外の動きが読めない。

外でこんな話になっているとはとても思えなかった。


「東さん、全部終わってから神様の力で外の世界にあるガーデンの人達の認識を戻して。きっといい事は無い。ジョマが何か言ってきても負けないで。私も一緒に説得する」

「千歳…、ありがとう。僕もそう思っていた所だよ」


「後はジョマが邪魔できない範囲で出来るだけの事をして欲しいの」

「もうやっているよ。事態は逼迫しているからね。僕も今まで以上の本気で取り組むよ」


「ありがとう」

「それで、僕からも千歳にお願いがあるんだけど聞いてくれるかな?」


東さんのお願いは私の想像を超えていたのだけど「私にできる事なら」「私が行けるようにしてくれれば」と伝えた。


ひとまず夜まで時間が取れた私達はメリシアさんをいつまでも外に置いておくわけにはいかないので宿屋の中に連れて行く。


おじさんとおばさんは無事だったが泣いている。

それなのに私達が無事で良かったと言ってくれた。


「ツネノリ君…、娘は君に会えて幸せだったと思う」

「ええ、本当…この数日ありがとう」


その言葉でツネノリはまた泣いた。声を上げて大泣きしている。

そして頭を畳に打ち付けながら何度も土下座をして謝る。


「助けたかった」

「助けられなくてすみません」


そう言いながら何べんも謝る。

おじさん達は泣きながら「そんな事ない、最後に君に会えて娘は幸せだったはずだ!」「看取って貰えて嬉しかったはずよ」とツネノリを抱きしめて泣いていた。


私はその場に居てはいけない気がして「外の空気に当たってくる」と言って人気のない所まで歩いた。


「ジョマ、聞いてる?」

「…聞いているわ」

そう言って現れたジョマはさっき以上に悲しそうな顔をしている。


「私に嫌われたと思った?」

「ええ、そうね。ただでさえ感情に任せた暴走をしてしまった所に、そう思ったら悲しくなったわ」


「ジョマは謝らないよね」

「ええ、私は自分の行動に自信と責任を持っているから」


「先にいい?」

「ええ、何?」


「「東さんにお願いして皆を生き返らせたい」って言ったらどうする?」

「千歳様ならわかっている癖に」


「ジョマが言って」

「…許さないわ」

ジョマは不貞腐れた顔でそう言う。


「そうだよね。もしそれ以外で出来るだけの事が思いついたらやるから。その時はいいよね?」

「ええ、東が神の力で蘇生を行わないで、千歳様達人間が何かを思いついて行動するなら私は何も言わないわ」


「ありがとう」

「わざわざそれの確認?」


「まあね。後はジョマの顔が見たかったの」

「なにそれ?」

そう言うとジョマは少し笑う。


「きっとジョマは傷ついていると思ったから励ましたかったの」

「今は私なんかよりお兄様じゃないの?」


「ツネノリの事も励ますよ。でもジョマも励ましたかったの」

「ふふ、ありがとう」


「急に呼んでごめんね。あと握手しようよ」

「え?」


「握手、うまく言えないけど…立場が違うだけで敵じゃないでしょ?」

そう言って私が手を出すとジョマは顔を赤くしてモジモジする。


「もう、はい!」

そう言って私はジョマの手を取る。


「あ…」


「はい、握手!じゃあね!もう嫌な事があってもイベントに八つ当たりしちゃダメだよ!!」

「ええ、そうするわ。千歳様ありがとう」

そう言うとジョマは少し気が晴れた顔で帰って行った。

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