第85話 だからこの事実を知っても何も変わる必要なんて無いんだ。

東さんは呆れた顔で千歳を見ている。

「千歳…、彼女を呼ぶ事は危険だ」

「大丈夫だよ、ツネノリも東さんも心配しすぎ。ジョマは直接何かをするタイプじゃないって」


そんな話の中、メリシアが東さんの分のご飯を用意する。


「ありがとうメリシア」

そして箸をつけて食べ始める。


「それで、千歳が僕を呼んだ理由は?」

「んー、聞きたいことがあって」

聞きたいこと?

なんだと言うのだろう?


「なんだい?言ってみて」

「ボウヌイの人達のこと。

ボウヌイの人達はどうなるの?」


東さんの表情が曇る。

「死者は蘇らない」

「神様でも?」


「ああ」

「やれないの?やると問題があるの?」

千歳は間髪入れずに質問をする。


「問題が起きる」

「そうなんだ。じゃあ死んだらどうなるの?」


俺は東さんの言う問題が気になったが千歳は質問を進める。


「死者の間…死者の世界に送られる」

「そこも東さんが作った世界?」


「そうだよ」

「ツネノリの世界もファーストガーデンにもその死者の間はあるの?」


「ゼロガーデンは独立しているから専用の死者の間があるけど、ファーストとセカンドは共通だよ」


俺はこの会話に何か引っかかり始めていた。


「世界の事を簡単に教えて」

千歳はそう言って東さんを見る。

東さんは千歳に大まかにだが世界の事を教えてくれた。


「命の絶対数…、サーバー内の世界…サンドボックスガーデン…」

千歳は聞いた事を淡々と復唱している。


「そんな…、この世界が別の神様の世界の中で作られた世界だったなんて…」

メリシアはこの世界の事を知って驚いている。


「メリシア…大丈夫か?」

「ツネノリ様…」


「メリシア、だが君達はきちんとした命だ。

二つとない、取り返しのつかない僕の子供達。

大事な存在だ。

それは理解してほしい」

「神様…」


「メリシア…、俺もガーデンの人間だ」

「ツネノリ様は知っていらしたのですか?」


「ああ、父さん達から聞いていた。

それでも生きている。

俺たちは生きている。

だからこの事実を知っても何も変わる必要なんて無いんだ」


メリシアは無言で俺に抱きついてくる。

人前で抱きつかれるとは思っていなかったので驚いたが、それだけショックだったと言う事だ。


俺は千歳が冷やかしてくるかと思ったのだが何も言わずにブツブツと考え込んでいる。


「千歳?」

「あ、気にしないで。ツネノリはメリシアさんを見てればいいの」


千歳はそれどころではないと言う顔で何かを考えている。


「あと少し…、何か知らないんだ私…、だからジョマの考えがわからない…。

ポイントアップキャンペーンはサードガーデンの必要性を示す為。

じゃあvs巨大ボスは…」

千歳はそんな事を言いながらブツブツと考え続ける。


「東さん!多分まだ大事な事が足りないよ。

私聞けてないんだ」

「そうみたいだね。なんだろう?

僕には当たり前で千歳にはわからない事…」


「もう一度おさらいさせて。

命の絶対数…、世界を置いたサーバが壊れない為の限界値。

ツネノリのゼロガーデンで2万人」

「そうだよ」


「ファーストガーデンは?」

「ファーストはプレイヤーを楽しませるスタッフがメインだから命の絶対数は1万5千人だよ」


「じゃあセカンドガーデンは?」

「セカンドは世界をファーストより大きくしたから2万人だよ」


「何だろう…何か足りない。モヤモヤする。

気持ち悪い!」

千歳が頭を抱えて唸る。


「千歳…、それなら魔女に聞いてみるのは?」

「……

……ツネノリはバカなの?

お父さんみたいな事言わないで!

ジョマはそんな事を教えてくれないよ。

んー…、私はこのまま考えるからツネノリとかメリシアさんもなんか東さんに質問して?」


急にそう言われても困る。


「メリシア、何かあるか?」

「え…、すみません…私にはわからないことばかりで…」


「そうだよな」

俺は千歳が凄いだけで俺たちの感覚が普通なんだと思っていた。


「あ、でもお伺い出来るなら神様に聞いてみたい事があります」

「なんだい?千歳も悩んでいるみたいだから答えられる事なら答えるよ」


「あの、私が子供の頃に亡くなったお爺ちゃんとお婆ちゃんは死者の間で元気ですか?

あ、死んだのに元気と言うのもおかしいですね」

「ああ、皆元気に過ごしているよ」


家族を大事にするメリシアらしいなと俺は思う。


「それ!それ聞いてない!!」

千歳が突然叫び出す。


「千歳?」

「東さん!死者の間に居る死者はどうなるの?」

千歳は俺の呼びかけを無視して東さんに質問をする。


「新しく産まれる命、生まれ変わりという奴だね。それがあるまでは死者の間で暮らしているよ」

「死者の間にも絶対数ってあるの?」


「ああ、勿論ある」

「それは何人?」


「2万人だよ」

「2万…、今は大体でいいの何人居るの?そして限界値を超えた人はどうなるの?」


「大体…1万3千人…、ああボウヌイのスタッフが亡くなったから1万5千人かな…、絶対数を超えないように死者には順番に生まれ変わって貰うんだよ。

限界値を超えないようにある程度になったらこちらの世界で子供を作った際に必ず生まれるようにしたり双子が多く生まれるようにして調整をしている」


「私わかったかも…。

東さん!ファーストとセカンドで1年間に何人生まれるの?

千人?2千人?違うよね…

仮に今二つのガーデンを足して2万1千人。

男女比を無視してざっくばらんに6分の1として…3500人の女の人が子供を産めたとして…

その中で結婚をしていなかったり子供がもう居る人を除外したら600人くらい?」


千歳が突然計算を始める。

「千歳様…凄い…、学者様みたい」

メリシアは話についていけなくなっている。

外の世界、父さんのいる日本だと沢山勉強をすると母さんが言っていて、俺も少し父さんから習った。

だからまだ話について行けている。


「東さん!もし…もしだよ?それでも死者の間の限界値を超えたらどうなるの?」

「…死者が溢れかえって世界が滅ぶかも知れない」


!!?


「そうならない為には?」

「……」


「ゼロガーデンの死者の間に移す?」

「無理だ、ゼロガーデンとファースト、セカンドでは時の流れから違うから今のままでは移せない」


「それならどうするの?

東さんはもう、わかっているよね?」


千歳は何に気付いたと言うのだ?とても怖い顔で東さんを見ている。


「…多分千歳の考え通りだ。北海はそれを狙っている。

サードガーデンに用意する死者の間に移すしかない」


!!?

俺は驚くことしかできない。


「東さん、じゃあ死者がゼロガーデンに行けるようにするには何日かかるの?」

「多分、1週間かかる」


それではこのイベントが終わってしまう。


「神様の力で無理やりなんとかする事は?

時を戻すとか…、東さんは昔父さんの為に時を戻したって…」

「ダメだツネノリ…、僕が神の力を使えば北海が黙っていない」


「うん、ボウヌイの人達を生き返らせられないのもジョマが居るからだよね?」

「ああ、千歳はそこまでわかっていたのかい?」


「うん…、私の思うジョマなら、そうするって思ったから」


そして千歳が想像で話した今回の巨大ボス戦の意味はこうだった。


イベントで多数のスタッフが命を落とす事で死者の間の限界値を超えさせる。

限界を迎えた死者達の為に世界を滅ぼさせない為に東さんはサードガーデンを容認して死者の間にスタッフを渡すことになる。

その死者は暴力が蔓延るサードガーデンに生まれることになる。

そんな状況の子供達を東さんが見過ごせる事も見捨てる事も出来ないから自らサードガーデンの運営に関わることになる。


「では何故さっきは直前での逃亡を認めたんだ?」

「多分別に村一つ、町一つ全滅しなくても死者が出るだけでジョマからしたら勝ちなんだよ。

イベントはまだ二つも残っているんだから。

逆に早くに目標数に届いても今度はジョマも困るしね」


…そんな事が…。


「千歳、それでも奴が悪人ではないと?」

「うん、考え方の違いとか育ち方の違いなだけで善悪じゃない気がする」


俺には千歳の考えがわからない。

世界を滅ぼそうとするもの、それは即ち悪なんじゃないのか?


「…ありがとう千歳。千歳のおかげで彼女の狙いがわかった」

「ううん、でもどうしよう?今の私とツネノリに出来るのは被害が大きくならないようにとにかく出てくる敵からスタッフの皆を守ることくらいだよね」


そうだ、東さんが何かをすると言う事は魔女が出てくる可能性がある以上、俺達が…何が何でも敵を倒す必要がある。


「今はそれしかない。申し訳ないけど2人にお願いすることになる」

「はい」

「大丈夫、ツネノリは戦いになればしっかりするし!私ももう倒れないように頑張るし」


それを聞いた東さんは申し訳なさそうに帰って行った。

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