第84話 だがてっきり断られると思っていたから。
メリシアが帰って少ししたら千歳が戻ってきた。
何処に行っていたかと聞いたら温泉に浸かっていたと言っていた。
あまり聞きたくなかったが何処から気がついて何処で温泉に行ったのかを聞いた。
「んー、内緒。チューはしなかったんでしょ?だったら見られて困るものも無いでしょ?」
千歳はそう言うと笑った。
「ツネノリ、寝てる間の事は何処まで知ってる?」
俺はボウヌイが壊滅した事を知っていると伝えた。
「私も東さんからそこまで聞いたよ。
ギガントダイルだっけ?ワニの魔物だって」
「ワニ?なんだそれは?」
千歳はワニと言う川や沼なんかに住んでいて大きな口で獲物を仕留める魔物の話をしてくれた。
「ビッグドラゴンより攻撃パターンが少ないイメージだが数が少ないのが気にはなるな」
「私も思った。ボウヌイを襲ったビッグドラゴンが九匹でセンドウを襲ったギガントダイルは三匹でしょ?なんかあるよね」
「2人とも」
「東さん?」
「まだ夜中だよ?一度寝た方がいいと思うよ」
確かにずっと寝ていたから目は覚めたが今はまだ夜中だ。
「そうだね、ツネノリ…もう一度寝ようか?」
「ああ」
俺達は再び布団に入る。
千歳が「腕」と言う前に腕を出すと嬉しそうに腕に頭を乗せてきた。
身体は正直なものであっという間に眠りについていた。
朝、メリシアが俺達を起こしにくる。
「おはようございます。ツネノリ様、千歳様」
「おはようメリシア」
「おはようメリシアさん。メリシアさんは眠くないの?」
「もう慣れました。お二人ともご飯は食べられそうですか?」
「ああ、頼む」
「私もお腹空いちゃったよ。メリシアさん…朝ご飯って少し増やせる?」
「え?多分平気だと思いますけど…、どのくらいですか?」
「2人分、そんなに多くなくて平気だけどちょっとね」
千歳はそんなに空腹なのか?
俺の驚いた顔を見た千歳は少し笑うと「私じゃないよー。賄賂だよ賄賂」と言う。
賄賂?
「ジョマー、見てる?」
「おはよう千歳様。私はいつも千歳様を見てるわよ」
「一緒に朝ご飯食べようよ。ここのご飯は美味しいよ」
!!?
「千歳!?」
「アハハハ、本当千歳様は面白いわね。賄賂って何かしら?興味が湧いたからいくわ」
そう言うと俺達の目の前に魔女が現れる。
だがいつもの姿ではなくもう少し大人しめの格好だった。
「え?」
当然メリシアはこの事態に驚く。
「千歳様?こちらの方は?」
「アハハハ、はじめましてお嬢さん。そうね、ジョマって呼んでいいわよ」
「ジョマはもう1人の神様だよ」
「魔物を呼び出してボウヌイを壊滅に導いた方のだけどな」
「ひっ!?」
メリシアは泣きそうな顔で驚く。
「大丈夫、ジョマは直接何かをしたりしないから。ね?」
「ええ、千歳様の言う通りよ。だから安心していいわよお嬢さん」
「直接手を下さないのは東さんの手前か?」
「そうよお兄様。
東だって1人の神だもの、直接対決なんて危険な真似出来ないわ。
ああ、お兄様は静かに怖い顔をしているわね。
大丈夫よ、そう身構えなくてもお兄様の大切な人に何かしたりなんてしないわよ」
そう言って魔女は笑う。
「じゃあ、メリシアさん。
ご飯持ってきてもらっても良いかな?
ジョマは私の横に座る?前に座る?」
「はい、ただ今」
「ふふふ、千歳様の横も魅力的だけど私は顔を見ながら食べたいから前にするわ」
「おっけー、じゃあツネノリは横ね」
そう言って座る位置を決める千歳。
すぐにメリシアが食事を持ってくる。
「す…すみません。今日はツネノリ様と千歳様の為に胃に優しいモノをと言う事で雑炊にしてしまったんです!」
メリシアが真っ青になって謝る。
「平気だよ、ジョマは美味しかったら何も言わないよ。ね?」
「そうね。急にお呼ばれしたんだからあなたは悪くないわよ。それにこの宿のご飯が美味しいのは知っているから気にしないわ」
「え?前にいらしてくださっているんですか?」
「ええ、東の目を盗んでね。毎回姿を変えて二度ほど遊びに来たの。
一度目はお母様、二度目はお嬢さんが接客をしてくれたわ。
ちゃんとした素敵なおもてなしだったわね」
「それはありがとうございます!」
メリシアが深々と頭を下げる。
そして始まる食事。
少し食べた頃魔女が口を開く。
「千歳様、それで話って何?こうして賄賂まで用意するんだから何かお願い事よね?」
「うん。あ、その前に東さんに聞かなきゃ…、あー、ジョマでもわかるかな?」
千歳を見ているとハラハラしてしまい、美味しい食事なのに何を食べているのか分からなくなる。
「何?少しならこの世界の事もわかるわよ」
「じゃあ、ジョマがわからなかったら東さんに聞くね。
一昨日、ここの宿に来ていたお客さんって何処から来た人?」
「それは細かすぎてわからないわ、お嬢さんならわかるんじゃないかしら?」
「メリシアさん?」
「はい!あのお客様はフナシからのお客様です」
「ありがと。
ねえジョマ?あの人達ってフナシからタツキアまで歩いてきたの?」
千歳は食べながら魔女に質問を続ける。
「あら、さすが千歳様。
そこに目をつけたのね。ふふふ。
この世界の人間、東流に言うならスタッフは皆スタッフカウンターで行きたい場所を申請すると瞬間移動させて貰えるわよ」
魔女が嬉しそうに千歳に答える。
「じゃあ、一昨日はジョマが村から出れなくもしたし、スタッフカウンターも使えなくしたんだ」
「ええそうよ」
当然と言う顔で魔女がそう言うとメリシアがまた泣きそうな顔をする。
「じゃあ、ジョマにお願いね。
魔物が街や村に攻撃できる距離になったら逃げられるようにして」
千歳?
何を言うんだ?
魔女がそんなお願いを聞くわけないだろう?
「あら、そんな事。いいわよ」
ニコニコと笑って魔女がそう答える。
「え?」
「ジョマ!ありがとう!」
「あら、え?ってお兄様は不服かしら?」
「いや…、だがてっきり断られると思っていたから…」
「ツネノリってそこら辺融通きかないよね?」
「本当だわ」
千歳と魔女が2人して言う。
「頼んでもいないで何で決めつけるかな?」
「本当、これだから東や勇者様にお兄様はつまらないのよ」
…なんだ?俺が間違っているのか?
「それはあれか?頼めば良かったのか?」
「うーん、そう言うのとも違うんだけど、わかんないのかなぁ…。
ジョマって用意するイベントに必ず譲歩してくれるポイントがあるの。
この前はトセトの橋を壊しても暴れても許してくれたでしょ?
今回なら最初から逃げるのも、魔物を減らしたり、そもそもイベントをやめるのはダメだけど危なくなったら逃げられるようにするのはOKなんだよ」
千歳が最もらしく俺に言う。
何だその匙加減は?
そんな事がわかるって千歳だけなんじゃないか?
「アハハハ、お兄様は混乱してるわね。
千歳様、大正解よ。
私の事をわかってくれていて嬉しいわ。
お兄様、多分千明様ならわかってくれると思うわ」
千明さん?
そうなのか…確かに千明さんならわかるのかもしれない。
その後も普通に食事をする。
千歳はアレコレと魔女に質問をする。
好きな食べ物や外の世界での過ごし方なんかを聞いている。
好きな食べ物は外の世界なら海鮮丼でガーデンならビッグベアのシチューだと言っていた。
海鮮丼は昔父さんが持ってきてくれて美味しく食べた。
本当に刺身とご飯の組み合わせは最強だと思う。
だが母さんには抵抗があって火のアーティファクトで刺身を焼こうとして父さんに止められていた。
「アハハハ、本当に千歳様と居ると楽しいわ。
ありがとうね千歳様。
こんな私とご飯食べてくれるなんて嬉しい」
こんな私?
何か引っかかる。
「外での過ごし方?本当千歳様は面白い事を聞くわね。休みの日なんかは美術館や博物館にも行くわよ」
「神様なのに?」
「神様だからなのよ」
そんな話をしながら2人は笑う。
俺は話に参加できずにメリシアと困った表情をしながら食事を食べる。
「じゃあ、私はそろそろ行くわ」
そう言うと立ち上がる魔女。
「急なのに来てくれてありがとうジョマ」
「私こそ、呼んでくれてありがとう」
笑顔でそう言う魔女はメリシアを見て「美味しかったわお嬢さん」と言うと消えていた。
「さ、次を呼ばなきゃ」
「千歳?」
「東さん、今度は東さんの番だよ」
その声で俺たちの前、今まで魔女が居た場所に東さんが居た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます