第82話 多分駄目だ。起きたら身体がボロボロかも知れない。
俺は自分を凄いと思った。
千歳に言ったら「気持ち悪い」と言われるかもしれない。
俺は父さんの指示通りにタツキアの中を抜けて行くことにした。
村の真ん中、スタッフカウンターの周りに村中の人が集められていて、みんな怖々とスーパービッグドラゴンを見ている。
俺はその人混みの中からすぐにメリシアを見つけ出したのだ。
「メリシア!」
「ツネノリ様?」
俺はメリシアに駆け寄って無事を確認する。
「ツネノリ様、どうされたんですか?
まだ戦闘中ですよね?」
「反対側に出たビッグドラゴンを父さんと倒していたんだ。
父さんは一足先に戦闘に戻った。
俺は村を抜けてくるように言われたんだ」
メリシアは俺の話を真剣に聞いてくれる。
「千歳様は?」
「千歳は巨大な盾を張って村を守った反動で倒れている。
俺も本当なら早く戻りたいのだがこれ以上力を使うと倒れるかもしれないからと父さんに釘を刺されたんだ」
「そうだったんですね」
「だがそろそろ戻るよ。メリシアは俺が守るから。安心して待っていてくれ」
メリシアが「はい」と返事をしてくれた時、スーパービッグドラゴンは咆哮…、いや絶叫をあげた。
まさか…断末魔…
天を仰いだスーパービッグドラゴンは天高く火の玉を一つ吐き出した。
その火の玉の着弾地点は間違いなくこのタツキアの村だ。
父さんは対応できなかったんだ…
落ちてくるまでに何秒ある?
そんな事は関係なくスタッフ達はパニックになる。
「ツネノリ様!」
そう言って抱きついたメリシアが次の瞬間には俺を押す。
「メリシア?」
にこりと笑った彼女は「ツネノリ様は逃げられますよね?どうぞご無事で」と言った。
俺の頭は一瞬で真っ白になった。
真っ白になったが思考は続く。
盾を張る…
ダメだ、俺の出力では防ぎきれないかも知れない。
そもそも俺だけ助かるなんてダメだ。
氷のアーティファクトで屋根を作ってその中で盾を張る…
メリシアと俺ならなんとかなる。
ダメだ、彼女はスタッフや彼女の両親を見捨てて生き残っても喜ばない。
死なせない!!
彼女を喜ばすならタツキアも守る!!
彼女の家族もスタッフも全て守る!!
その時俺の中にテツイ先生とザンネ先生の言葉が思い出される。
「ツネノリ君、アーティファクトの同時使用は5個までにするんだよ?
いくら君がツネツギ様とルル様の子供でもって生まれたモノが凄くても、それ以上は身体が保たなくて倒れてしまうだろう」
「ツネノリ、テツイから聞いたからこうして再び会いに来た。
お前なら俺には出来なかった剣にアーティファクトを纏わせる事の先も出来るだろう。
テツイから限界についても聞いた。だが一度倒れるのもいいだろう。
右に5個。左に5個…、それ以上が出来るなら試してみろ!」
「メリシア!」
「ツネノリ様!逃げて!!」
「安心しろ!俺が君を守る!この村も君の大切な人も守りきる!!
危ないから離れて!!」
メリシアは俺の言葉を受けて離れる。
そして他のスタッフ達も離れる。
「出し切る!
倒れるのはその後だ!
倒れた後はどうとでもなれ!!
まずはあの火の玉を砕く!
両腕に時のアーティファクト!
【アーティファクト】【アーティファクト】
次!
二刀に風のアーティファクト!
【アーティファクト】【アーティファクト】
【アーティファクト】【アーティファクト】
【アーティファクト】【アーティファクト】
【アーティファクト】【アーティファクト】
【アーティファクト】【アーティファクト】」
俺の直上に見える小型の太陽と言ってもいい火の玉に向けて剣を振るい風の刃を飛ばす。
剣を振るう度に五つの刃が飛ぶ。
一発では火の玉はびくともしないが知ったことではない。
打ち返すどころか全てを切り裂いて細切れにしてやる。
その為に時のアーティファクトを使った。
俺の手は目では追えない速さで動く。
動く度に風の刃が火の玉を削っていく。
だが辛い。
放っておくとあっという間に意識が持って行かれる。
不謹慎だが途中途中にメリシアを見る。
彼女を見ると力が湧き上がる気がする。
「うぉぉぉぉぉっ!!」
火の玉は大分小さくなってきたがこれでもタツキアに落ちたら大惨事だ。
周りからは歓声が上がる。
だが俺の耳に届くのは俺を呼ぶメリシアの声だけだ。
「後の事は後の話だ!
やり切る!!
俺を使い切る!!」
俺は更に力を入れて剣速を上げる。
恐らく魔女に見せてもらった先生の剣速に追いついたと思う。
先生はやはり凄い。
時のアーティファクトが無くてもこの速度になるとは…
そしてようやく火の玉は全て散った。
次だ、今は続々と松明大の火の粉が降ってきている。
このままでは火事は免れない。
「うっ!?」
だがここで力が抜けた俺は膝をついてしまう。
手には光の剣も無い。
「ツネノリ様!」
メリシアが俺の元に駆け寄ってきてくれる。
「メリシア…、火事になる…俺が…」
「大丈夫です。火事はみんなで消します。
みんな生き残れます。ツネノリ様のおかげです」
そう言って俺の顔を覗き込んでくるメリシア。
その顔には涙が伝っていた。
ダメだ…
まだだ…
俺は足を震わせながら立ち上がる。
「ツネノリ様、これ以上無理をしないで!」
「まだだ!メリシア…済まない。
まだやる…、済まないけど身体…支えて」
「え?」
「火事にさせないから身体を支えて」
俺はメリシアが背後に回って俺を支えてくれると思ってそう言ったのだが彼女は何を思ったのか前から抱きしめてくる。
昔、母さんが「創世の光」を使う為に父さんに支えて貰った時に思ってもいない支えられ方をして驚いたと言うのを思い出した。
「メリシア…?」
「どうぞ!やってください!!」
俺の鼻にメリシアの匂いが届く。
身体を支えるメリシアの温もりと力強さ。
そんな物を感じながら俺は腕を上げる。
再度二本の剣を出す。
「【アーティファクト】【アーティファクト】
【アーティファクト】【アーティファクト】
【アーティファクト】【アーティファクト】
【アーティファクト】【アーティファクト】
【アーティファクト】【アーティファクト】」
右手に風のアーティファクトを5個。
左手に水のアーティファクトを5個。
今回は剣を振るうと言うより剣を中心にして暴風と水で局所的な台風を引き起こす。
「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ」
台風は物凄い水と風で村を覆う。
「メリシア…、俺の声が聞こえる?」
「はい!聞こえますよ!!ツネノリ様!聞こえます!!」
「済まない、倒れそうだ…村は…火事はどうなった?」
「大きな火の粉は落ちてきても水で消えています!!その前に大体が落ちてくる間に消えてますよ!!」
よかった…俺の身体は限界に近い…
「もう、止めても平気か?」
「はい!もう大丈夫ですよ。ツネノリ様ありがとうございます!!」
俺はその声を聞いて力を抜いてその場に倒れこむ。
メリシアでは俺の体重を支えられなかったのだろう。俺と一緒にメリシアが倒れこむ。
「メリシア…」
「はい、ツネノリ様。大丈夫ですよ。村は守られました。ありがとうございます」
「良かった……、すまない…ずぶ濡れにしてしまった…」
「そんなの気になさらないでください。ツネノリ様こそ大丈夫ですか?」
「…多分駄目だ。起きたら身体がボロボロかも知れない」
「またマッサージさせてもらいます!!」
「ありがとう…」
そこで俺の意識は遠のいた。
さっき薄っすらと思い出した中で先生達が言っていた言葉を思い出す。使いすぎると倒れるって…何日倒れるんだろう…
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