ツネノリの章⑦アーティファクトの奇跡と可能性。

第81話 メリシアは俺が守るんだ!

くそ、気を抜くと倒れそうになる。

それは別に限界までアーティファクトを使っているからでも疲れているからでもない。

単純に身体の記憶に自分を持って行かれそうになるからだ。


正直魔女の攻撃がこれで止む保証はない。

ここで俺まで後先考えない全力行動をしてしまって倒れたらメリシアがどうなるかわかったものではない。


身体の記憶も俺のもの。

今の記憶も俺のもの。


そう思う事で自分を保ちながらビッグドラゴンを圧倒する必要がある。


「ツネノリくん、そう。集中して火の指輪で起こした火を散らさないように再度指輪から火を起こして」

「はい。先生!」


「そうだね。君は一度目の修行で光の剣にアーティファクトを纏わせる訓練を積んでいる。

複数のアーティファクトから力を引き出す事は出来ている。でも僕が教えるのはそうじゃない。

1つのアーティファクトから複数の力を引き出す。

1度放つとインターバルが必要になる人が居る。それは表面上しか力を使えていないんだ。

常に力を引き出せるように深い部分までアーティファクトに触れるんだ」


くそ、今のは身体の記憶…、あれがテツイ先生。

アーティファクトの深い部分…


俺は足に纏わせた風のアーティファクトは消さずに高速移動をしている。

これも身体の記憶にあった。

記憶の中の俺は楽しそうに先生と風を纏って高速移動で遊んでいる。


剣は二刀流にした。

風の高速移動と相性の良さそうな二刀流…、舞うように剣を振るったあの人の動きだろう。

俺はそれを真似してビッグドラゴンの周りを舞いながら斬り刻む。

跳躍力も凄いことになっているので背中に乗って縦横無尽に斬りつくす事も出来る。

舞っていると次第に楽しくなってくる。


それは身体の記憶が楽しかった修業時代を思い出しているのだろう。


「ツネノリくん、今日は先生が普通に「炎の腕輪」から出した炎を「氷の指輪」の氷で凍らせるんだ」

「そんな事出来るんですか?指輪はB級、腕輪はA級ですよ?」


「普通に出しただけでは炎に負けて氷は解けるよ。でも君なら深い部分から炎すら凍らせる氷を出せるはずだ。やってみるんだ」

「はい!」


俺は「氷の指輪」に意識を集中する。

イメージは外側の水色でもなく、内側の濃い青でもない。その先の白い部分。

そこから力を引き出す。


目の前の炎を見る。

炎の熱さを飲み込めるような氷…

俺はその氷を探す。



「ツネノリくん、一個でダメなら二個、三個と引き出して」

「…はい」


目の前の炎に一個…

だめだ、負ける。


二個…、急に効果は出たけどまだ勝てない。

相打ちで火は消えたけど氷が解ける。


先生が言ったのは炎を凍らせる氷なんだ…


「見えた!【アーティファクト】!」


そして俺は炎を凍らせる。


「まただ、危ない…。貴重な記憶だけど戦闘中に見るもんじゃない!」

だがこの知識があれば確実にビッグドラゴンにも通用する。


俺はいつの間にか記憶の中に潜り込んでしまう。


「先生!」

「何?どうかした?」


「先生言っていましたよね?俺の母さんなら同時に8個のアーティファクトを使えるって」

「うん、言ったね。ルル様は最高のアーティファクト使いだから色んな種類のアーティファクトから力を引き出せるよ」


「じゃあ、先生は何個まで引き出せるの?」

「僕はルルさんみたいに種類じゃないんだ。僕は一個のアーティファクトから沢山引き出すことが出来るんだ。多分…今は10個…と言うか10回かな」


「先生凄い!!俺も練習したら出来ますか!?」

「うん、ツネノリくんなら出来るよ」


アーティファクトから10回同時に力を引き出す…

俺はそんな練習をしていたのか…


「でも使うと倒れちゃうから複数なら8種類。1個からなら5回くらいにするんだよ」

「はい!!」




見えた!

勝ち方だ!!

俺はさっきの戦い方を思い出す。


またビッグドラゴンの背中に飛び乗る。

そしてそのまま更に跳躍。


頂点で風の力を終わらせる。


「身体の真ん中を目指す!【アーティファクト】!!」

俺は光の剣を1本にして長くする。

その長さはビッグドラゴンの半分くらいの長さ。

それを全力で突き立てる。



光の剣は深々とビッグドラゴンに突き刺さる。


「今だ!!」

俺の腕にある、火、水、氷、雷、風のアーティファクトから力を引き出す。


「【アーティファクト】!!」

引き出した力は剣から放出をする。


雷を全身に流すだけではなく、色んな力を一気に放出する。

物凄い絶叫を上げるビッグドラゴン。


まだだ、倒すには後一歩足りない。


俺は光の剣を一度仕舞うと再度二刀流にする。

「風!【アーティファクト】【アーティファクト】【アーティファクト】【アーティファクト】【アーティファクト】」


俺は風の力を5回引き出して剣に纏わせた。剣の周りは暴風になっていて持つだけで強烈な圧を感じる。


そのまま背中を走って首を目指す。

イメージは前に魔女に見せて貰った映像の中の乱打戦。

「うぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」


俺は首を切断できるまで剣を振るい続けるつもりで止まる事は考えない。


剣が当たった所から皮が裂けて血しぶきが雨のように舞い上がって降り注ぐ。

ビッグドラゴンは身もだえをして苦しむ。


だが知った事ではない。

今は可能な限り首を狙う。


首を落としてこの戦いを終わらせる。

首の太さは大人の男が4人くらいあるがそんな事はどうでもいい。


とにかく今は剣を止めない。

徐々に皮が裂けたお陰で光の剣も中に入っていく。


「このまま死ねぇぇぇっ!メリシアは俺が守るんだ!」


首に全力で斬りつける。

途中、身悶えしたビッグドラゴンの反撃はあったが何がなんでも斬りつける。

しばらくするとビッグドラゴンは動かなくなった?

勝った?


俺はその場にへたり込む。


だがそれは間違いで奴は突然動き出し最後の力を振り絞ってタツキアに向かって火の玉を吐いた。


間に合わない。

タツキアが炎に包まれる!?


だがそれは成功しなかった。

突如空中に現れた父さんが盾を張って火の玉を防いでくれたのだ。


「父さん!」

「コイツは死ぬ直前に攻撃してくるから身構えておいて良かった」


死ぬ直前に攻撃?

「父さん…?」

「ああ…、あっちも何かしらするだろうな…」

俺と父さんは離れた場所にいるスーパービッグドラゴンを見た。


父さんが受け持ったビッグドラゴンは最後に噛み付いてきたらしい。

火だけではないのでスーパービッグドラゴンが何をしてくるのかわからない。


申し訳ないが噛みつき攻撃は俺と千歳と父さん以外なら蘇るので問題はない。


火炎が問題だ。

千歳が倒れている以上あの大きな盾は期待出来ない。


どうにかして奴を倒してメリシアを守らなければいけない。


「父さん、行かなきゃ!」

「俺が行く。ツネノリはまたこれ以上無理をして動くと昏倒する恐れがあるだろう。だから俺が行く。

お前は走れるのなら走ってこい。

ついでにタツキアの中を見ながらくると良い。

彼女の無事を確認して彼女に顔を見せて安心させてやるんだ」


「父さん…」

「じゃあな。また後で!!」


そう言うと父さんは瞬間移動をして目の前から消えて行く。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る