第78話 俺の妻たちの育て方と子供たちの育ち方が良かったんだろう。
セカンドガーデン、タツキアに着いた時の時間は11時を過ぎた所だった。
普段は平和なタツキアの村がピリピリとした緊張感に包まれていた。
何があった?
俺は先にスタッフカウンターに行く。
「どうした?」
「勇者様、先ほど魔女から通達がありました。
本日12時から「vs巨大ボスキャンペーン」を始めると。
セカンドの住人=スタッフは村の外に出る事はできなくなると突然言われました。
ここは温泉村です。昨日も沢山のスタッフの方が休日を利用して宿泊にきています。
その人たちは突然の事にパニックになってしまっています」
そういうことか…
「他のアナウンスはどうだった?」
「はい、巨大ボスの討伐に名乗りを上げるプレイヤーは11時30分にタツキアの外に転送をする。11時30分に足元が光るから行きたくない場合には光に向かって拒否をするようにとの事でした」
この時間にログインしているユーザーは推定で1万人。その中でイベント参加を希望する者は8千人近く居ると思いたい。
もし巨大ボスがビッグドラゴンだったとしたら1匹倒すのに俺なら1人でも倒せるが一般ユーザーなら100~200人は必要だ…。
初めての事で問題なのは村に被害を出さないためにどう動くかが求められると言う事だ。
「スタッフ達は村の中心に集めておくんだ。大きな建物の中に避難でもいいが倒壊には気を付けるようにアナウンスしてくれ」
「はい、勇者様は?」
「子供達と合流して対策を練る」
「わかりましたお気をつけて!!」
「お互いにな!!」
俺は温泉宿に向かう。
宿には千歳とツネノリが居た。
ツネノリは東から受け取ったのだろう。服が冬服になっていた。
デザインは千歳の色違いで白とグレーのジャケットだった。
確かにルルと同じ紫色の髪に良く映えている。
千歳は他の温泉客の子供をあやしている。
「ツネノリ!千歳!!」
「父さん!」
「お父さん!!」
「状況はスタッフカウンターで聞いてきた。迎え撃つぞ」
「うん」
「勇者…様?」
宿泊客が俺に気付いてそう呟く。
「うん、私とツネノリのお父さんだよ。だから大丈夫!私達3人が皆を守るから!!」
千歳がそう言って宿泊客を落ち着かせる。
「一応何があっても良いように服装は整えておいてくれ。スタッフカウンターにも指示は出したが村の中心に皆で固まって集まるんだ。建物の中に居たとしても倒壊の危険がある。油断はしないでくれ」
「はい」
「うわー、お父さんって勇者だったんだね」
「言ってろ」
千歳が驚いて俺を見る。
「ツネツギ様…」
俺を呼ぶ声がして振り返るとそこには温泉宿の主人と奥さん、そしてツネノリの恋の相手、娘さんが立っていた。
「ああ、久しぶり。こんな事態になって居なかったらゆっくり食事でも貰って温泉に入りたいもんだな。
奥さんも久しぶり。子供たちが2日間も世話になって済まなかった」
「いえ、素晴らしいお子様達で主人とも育児でもツネツギ様に敵わなかったと言っておりましたのよ」
「何を、もしそう思ってくれるとしたら、俺の育て方ではない。俺の妻たちの育て方と子供たちの育ち方が良かったんだろう」
「ま、ご謙遜を言って」
そう言って俺達は笑う。
そして娘さんを見る。
「挨拶が遅れたね。初めまして…だよね?
前はよく顔を出したんだが、ここ数年は他の村や街の仕事で忙しくてタツキアには殆ど来ていなかったんだ。
俺はツネツギ、ツネノリと千歳の父だ。2日間、本当に色々とありがとう」
「はじめまして、メリシアと申します。私こそこの2日間はツネノリ様と千歳様のお陰で貴重な体験をさせていただきました」
そう言って頭を下げるメリシアの指にはルルの作った回復の人工アーティファクトが光った。
「その指輪…」
「俺が預かって貰っているんだ」
ツネノリが会話に入ってくる。
「これを貰ったし」
そう言ってツネノリが必勝のお守りを俺に見せてくる。
「そうか、でも指輪は着けるなら左手の薬指じゃなくて良かったのか?アーティファクトだからサイズは何処でも丁度良くなるんだぞ」
そう言うと千歳とメリシアの両親はふふふと笑い、当人は2人して真っ赤になっていた。
「よし、そろそろ集合時間だ。お前達行くぞ」
「「うん」」
俺はスタッフ達を見る。
「それでは行ってくる。流れ弾の危険もある。万一の事もある。出来る限りはやる。お互い気をつけよう」
「勇者様達も気を付けて」
その声を受けて俺達は村の入り口に走り出す。
後ろからメリシアの「ツネノリ様、気を付けて」と言う声がひときわ大きく聞こえてきた。
「ツネノリ」
「何?」
そう言うツネノリは赤い。
「いい子じゃないか。いつも以上に頑張らないとな」
「うん」
「千歳」
「何?」
「2日間色々とありがとうな」
「へへ、お安い御用よ」
そう言って俺達は村の入り口に行くと既に大勢のプレイヤー達が待ち構えていた。
「伊加利さん!!」
そう言って俺達の方に走ってくるメンバーが居た。
佐藤だった。
「やあ、佐藤君」
「伊加利さんのお父さんこんにちは」
「佐藤、おつかれー」
「伊加利さん、元気そうで良かった。さっきあっちでトビーとイクも見かけたよ」
「え、トビーとイク?元気だった?」
「うん。あ、先にこっちいい?」
そう言って佐藤が紹介したのは同じ学年の田中と鈴木だった。
佐藤を呼んでどこまで話をしたのかと聞いたら、外の世界では保守派と改革派の戦いが過熱していると評判になっていて、開発の俺と身内が保守派として巻き込まれている事、改革派のジョマが北海と知られずに暗躍している事も周知されているので安心してくれと言うものだった。
「じゃあ、田中と鈴木も一緒に戦ってくれるんだ」
「ああ、伊加利が居るって聞いて驚いたよ。俺達佐藤にセカンドガーデンで遊ぼうぜって話してたから俺達の方がプレイ時間も長いし、佐藤より役に立つと思うぜ」
「それは心強い!」
「後、俺達の弟とか父ちゃんとかもプレイしているから今日は無理だったけど巨大ボスの最終日は金曜の夜だから参加できると思うからさ」
「佐藤君」
「はい?」
「保守派で号令かけても皆に通じるのかな?」
「はい、多分有名人ですから大丈夫だと思いますよ」
「有名人?」
「はい、伊加利さんのお父さんは運営のベテランプレイヤーでミノタウロスを瞬殺した男って有名ですし、伊加利さんのお兄さんは300人殺しの特別枠って言われていますし。伊加利さんは独創的な方法で敵を破壊する特別枠の女って言われてます」
おいマジか…
「個人情報とかは…」
「あ、それは何故か出てません。大丈夫です」
良かった…
はぁぁぁ…とため息をつく俺の耳に東の声が聞こえてくる。
「そこら辺は神の面目躍如さ。怪しい書き込みとか考えの人にはひと夏の思い出になって貰っているし、多分北海も協力してくれているみたいだ」
なるほど…神様が尽力してくれているのなら心強い。
そういしていると空中に北海、ジョマが現れた。
「はーい!お待たせしました。それではこれからイベント第2弾!
「vs巨大ボスキャンペーン」を開催しまーす!!
あ、自己紹介とかいらないわよね?一応しておく?
私はもうネットで有名になっていると思いますが、改革派のジョマです。
みんなよろしくね!!」
ジョマの自己紹介に声援とブーイングが入り乱れる。
声援を送っているプレイヤーは改革派…多分サードの実装を喜ぶ層だと思う。
「戦い方はお任せするけど、まあそこに保守派の英雄さんが居るので彼の指示にある程度従うのが良いかもしれないわね」
そう言うと俺にスポットライトが当たる。
何処から照らしているんだこの野郎。
「今日から5日間、皆さんに倒して貰う魔物はとにかく巨大。わざわざ私用意しちゃったんだから楽しんでね。それでは最初の魔物はコチラ!!」
北海の指さした先にはとにかく巨大なドラゴンが居た。
「ビッグドラゴン?」「確かにでかいけど俺ビッグドラゴンなら倒した事あるぜ!」「うわ、でかい」そんな声が聞こえてくる。
…比率がおかしい。
それを察した北海が嬉しそうに実況をする。
「惜しい!ビッグドラゴンより大きくしました。
スーパービッグドラゴンです。その幅はビッグドラゴンの2倍!!」
馬鹿じゃないのか?
あの巨体を倍にして何がしたい?ハッキリ言って大きさはタツキアの村と同じくらい大きいぞ。
「大きさはねー、タツキアの村と同じくらいかな。大きいでしょ?」
飛び交う声援とブーイング。
「さて、みんなの気になる報酬は、参加者全員に1人2000エェンと1000ポイント。後はあのスーパービッグドラゴンの皮で作った防具がイベント終了後に期間限定でお店に出荷されます!
もう1つ!VRユーザーしか喜べないけど、とても美味しいお肉だから退治できればセンターシティの焼肉屋さんに明日以降お肉が並ぶから沢山食べてね」
これには全員が大喜びする。
北海め、うまいやり方をする。
「じゃあ、頑張ってね」と言って北海が消える。
俺はガラにもなく全員に指示を出す。
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