第60話 俺が何に怒っているか、何を言いたいか、何を聞きたいかわかるな?
ツネノリがゆっくりだが立ち上がった。
「ツネノリ、無事か!?」
「…」
「ツネノリ?」
「…」
まずい目に光が無い。気絶している状態に近い。
無意識に立ち上がったと言う感じだ。
そんなツネノリがボソボソと言葉を喋っている。
何だ?
夢遊病に近い感じか?
「はい、せんせい。たたいいちのたたかいかたはおぼえました。
せんせいがおしえてくれたみたいにたくさんうごきまわります」
また先生だ。
いったい何があった?
今のツネノリは「はい、先生。多対一の戦い方は覚えました。先生が教えてくれたみたいに沢山動き回ります」と言ったのか?
「はい、せんせいのくれたひかりのけんをたくさんれんしゅうしました。もうすぐにはたおれません。みていてください」
何を言っている?
先生のくれた光の剣?沢山練習した?倒れない?
「【アーティファクト】」
起き上がったツネノリは夢を見ているのか?
目の前の敵を見ていない。
だが、立ち上がったツネノリはアーティファクトと唱えた。
そして腕には二刀の剣が精製されていた。
二刀?
そしてツネノリは自身の身体に傷なんかついていないように動いて敵に向かって走っていく。
身を低くしてあっという間に二刀で敵を斬り刻む。
「二刀…まるでガクじゃないか…」
ガクと言うのはゼロガーデンに居る俺の仲間の1人。
西の国に居る王様だ。
だが、ガクとは明らかに動きが違う。
ガクはもっと力強く荒々しい太刀筋だ。
今のツネノリは遠心力を使った舞うような戦い方で敵を次々に斬り伏せていく…
「アーイ!?」
アーイはガクの嫁さん、元々は北の国に生まれたお姫様だ。
ツネノリの動きはアーイによく似ている。
一緒に戦った俺にはよくわかる。
俺は何を見ている?
俺の息子は何をしている?
ガクやアーイにツネノリを合わせたことは確かにあるが、俺達の家からは遠い道のりなので今までに2回しかない。
しかも稽古をつけて貰うタイミングなんてない。
「せんせい、わかりました。たたかいかたをかえます」
戦い方を変える?
何を言っている?
次にはツネノリの動きが荒々しくなって重騎士風の槍使いをこれでもかと叩き伏せる。
これこそガクに近い動きだ。
だが何かが違う。ガクの動きとも違う。
だが強い。
本当にツネノリは強い。
元々知っていたような動きで次々に敵を斬り伏せる。
俺はツネノリから目が離せなかった。
後ろで千歳の声がした。
まだ生き残りが居たようで千歳はなくなく生き残りの始末に向かっているみたいだ。
「はい、つぎはアーティファクトをつかいます」
またツネノリが喋った。
アーティファクトを使う?
「きょうはかぜとかみなりですね。わかりました」
腕に着いているアーティファクト砲の人工アーティファクトの事を言っているのか?
「【アーティファクト】」
ツネノリには俺の混乱なんか見えていない。
次々に敵を斬り伏せて、ついに光の剣にアーティファクトを纏わせ始めた。
左手の剣に雷、右手の剣に風だ。左手の剣は雷で光っていて、右手の剣は風が渦巻いている。
ツネノリは先に左手の剣を振るい、敵を感電させていく。
そして動けなくなったところに右手の剣を振るって風の刃を敵に飛ばす。
風の刃は切れ味がすごくて防いだプレイヤーの盾ごと切り裂いていた。
見ているうちに俺の回復は大分進んでいて、腕が治ったので治りの悪い場所から鉛玉を取り出す。
滅茶苦茶痛い。
だが、これで回復が一気に進む。
俺が回復する頃には目の前に居た300人は80人くらいまで減っていた。
「…う…嘘だろ?こっちは300人居たんだぞ?
なんであんな気絶していた…けが人にこうまでやられんだよ!」
全くだ…、それに関しては俺も同意しかできない。
プレイヤー達は何とかしてツネノリを突破して200人の保護対象を殺す相談をしはじめた。
「お父さん…」
俺の後ろに千歳が来た。
「千歳…」
「ツネノリどうなってんの?何で二刀流になってんの?」
「わからない。それにツネノリは夢を見ているみたいだ。さっきから子供の頃の喋り方で何かを話しながら戦っている」
「止めなきゃ」
「ああ」
「ツネノリ!」
「もう大丈夫、お父さんと私が来たから後は変わるから!ツネノリは休んで!!」
俺と千歳がツネノリの元に駆け寄って肩に手を置いて語り掛ける。
「とうさん、かあさん!きてくれたんだね!!
だいじょうぶだよ。
せんせいがおしえてくれたからおれがふたりをまもる」
「ツネノリ!!」
「目を覚まして!!」
「だいじょうぶ、おれがつぎのゆうしゃだから。ふたりもみんなもまもる。とうさんみたいなすごいひとになるんだ!!」
次の勇者?
何を言っている?
だが、勇者という言葉、この戦い方…俺には何かがわかった気がした。
「せんせい、わかりました!とうさんとかあさんがみているからほんきでやります。たおれたらごめんなさい」
遠くを見てそう言ったツネノリは千歳を見て「かあさん!おれのほんきみててね!!」と笑った。
「お母さん?」
「ツネノリには千歳がルルにみえているのか?」
「【アーティファクト】!!!」
次の瞬間、ツネノリの光の剣は4メートル近く長くなった。
何だこの出力は!?
そのままツネノリは右手を振り落とし、流れるように左手、そして最後に両手を交差させた…
その先に生き残ったプレイヤーは誰も居なかった。
全員、マキアの牢獄に転送をされていく。
そして宣言通りツネノリは倒れた。
俺は急いでツネノリを受け止めて抱きかかえる。
「あっらー、あっという間に決着ね、お疲れ様。」
北海が現れてそう言った。
「これで今日は保守派の勝ち。でも楽しかったでしょ?私達改革派はガーデンにはこう言う刺激が必要だって言っているのよ?わかる?」
「…お前…」
俺は今心に居る怒りの向け所に困っている。
そこに北海が居る。そうなればつい睨んでしまう。
「あら、違うでしょ?勇者様は話さなきゃいけない。
相手が他にもいるでしょ?
保護対象の解放とセンターシティへの保護は私がやってあげるわ」
そう言うと北海は200人の所に行って動けるようにした後でログアウトも可能にしてからセンターシティに送り届けていた。
「ツネツギ…。遅くなった。ようやく北海の妨害が止んだ。もうこの邪魔はさせない」
北海が居なくなってすぐに東の声がする。
その声が俺を苛立たせる。
「東、ログは見たか?」
「ああ、全部見ていたよツネツギ」
「俺が何に怒っているか、何を言いたいか、何を聞きたいかわかるな?」
「ああ、全部覚悟の上だ」
「それならいい、俺達を転送させろ」
「わかっている。場所はセンターシティにあるホテルの最上階にする」
そして俺達の足元が光った。
さて、東の言い訳…説明を聞くとしよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます