伊加利 常継、伊加利 千明の章①結婚までの道のり。

第31話 日本での全てを捨ててガーデンで一生を終える覚悟も出来ていたんだ。

現状を理解した千歳に向かって俺は口を開く。

「千歳、お前が聞きたがっていた、どうして俺が千明と…母さんと結婚をしたかと言う話だ。

ツネノリ、お前も聞いていてくれるか?」


俺はツネノリの方をみて聞く。

「うん、俺はちゃんと母さんと父さん、そして千明さんがどう言う話し合いをしたのか知りたい。今日の昼に母さんが教えてくれた言葉が全てだと思うけど、父さんと千明さんの話も聞きたい」


「ありがとう」

俺はそう言って再度千歳を見る。


「俺はガーデンに召喚されて約4年…28の頃に千明、母さんが中途入社してきた」

「私は当時、開発部の補佐として働いていたの。でも開発部と言ってもメインは部長の東さんでお父さんは副部長でガーデンに入ってばかりの日々」


「そんな接点のない毎日だったから俺はまさか母さんが俺に好意を持ってくれているとは思っていなかったんだ」

「お母さんはね、お父さんの年に似合わない言動とか行動が気になっちゃって、気づくとお父さんばかりを見ていたわ」


うん、子供の前でするのは照れる話だ。


「それでね、お母さんはお父さんを見ていても彼女の気配はしないのに、彼女が居る人みたいな余裕を感じて疑問に思っていたの」


…最初の関門だな…


「そして彼女の行動力に僕は驚かされたよ」

「東さん…、あの時を思い出すと恥ずかしいです。

お母さんね、お父さんの事が好きになったから付き合いたかったの。

だから東さんに聞いてしまったの「もしかして伊加利さんとお付き合いしている人って東さんですか?」って…」


「え?お母さん…何でそう言う発想になるの?」

「千明さん、外の世界では男の人同士でお付き合いをするものなのですか?」


子供たちが引きながら千明を見ている。


「だってね、お父さんと東さんはいつも一緒に居るからもしかしてって思っちゃったの。

でも東さんは違うって教えてくれたから、お母さんは帰りにお父さんに付き合ってくださいって告白をしたの」

「え?いきなり過ぎない?」

千歳が更に理解不能な顔で千明を見る。


「で、お父さんはどうしたの?」

「「俺ですか?」って聞いた後でお断りをしたよ」


「え?断ったの?」

「当たり前だろ?当時俺はガーデンで結婚もしていてツネノリも居たんだ」


あの日の衝撃は今でも覚えている。

日本ではロクな恋愛をしてこなかった俺の前に突然現れた可愛らしい年下の女の子。

その子がまさか俺なんかに告白してくるとは思わなかった。


「父さん、その事は母さんには?」

ツネノリが恐る恐る聞いてくる。

「ああ、勿論言ったよ」


「父さんって勇気あるよね」

「そうか?」


「だって、母さんは父さんが大好きだからヤキモチ妬いて大変じゃなかった?」

「ははは、そうだな」

そう言って俺は笑って誤魔化す。


だが実際に起きた事はこうだ、俺が告白をされた事を伝えた時、ルルは落ち着き払っていた。

その事が俺を驚かせた。

そして断ったと伝えると嬉しそうな顔をして抱きついてきながら「馬鹿者が、私達にはツネジロウもおるのだぞ?無理に私達に縛られずに、元の世界で幸せを掴めばよかろう?」と言った後に泣いた。


俺はあの涙を見て、ルルと結婚をした事は間違いでは無かったと思ったし、ルルが望めば俺は日本での全てを捨ててガーデンで一生を終える覚悟も出来ていたんだ。



「それで、どうしてお母さんとお父さんは結婚できたの?」

「それは、私がその後もお父さんにアプローチを続けて、それでもダメだったから理由を聞いても「興味が無い」とか曖昧なもので、困ったから東さんに相談をしたの」


千歳の疑問に千明が答え、「そう、あの時は驚いたんだよね」と東はそう言って笑う。

本当に当時の千明は凄かった。


後でその時の事を東に見させてもらった。

「そんな事していいのかよ?」

「構わないだろ?このくらいの力は使ってもいいって地球の神様に許可を貰っているよ」


そして東がPCのモニターに千明と東のやり取りを映し出す。

今の俺と東は見る人が見れば部下と上司がPCに向かって何かをしているという絵だろう。



「東部長!伊加利副部長がどうやっても付き合ってくれません!!」

モニターに映った千明が東に詰め寄る。


「えぇ、春日井さんはまだツネ…、伊加利くんにアタックしていたの?」

「はい!諦められません。諦めるにしても納得のできる理由が欲しいんです!」

そう言う千明の顔は真剣そのものだ。

そしてちょいちょい気になるのがカメラワークと言うか…視点が切り替わって、東と千明が映ったり、千明だけがアップになったりと手が込んでいる。

東は俺のそんな気持ちを読んだのだろう「演出さ」と言って笑う。


「納得できる理由ね…、どういうのがいいんだい?」

「え?やはり東部長はご存じなんですか?」


「おっと、そうなってしまうか…」

東はしまったと言うリアクションだが顔は嬉しそうで密かに千明を応援しているのがわかった。


「じゃあ、仮に…伊加利くんが別の世界の人間で今後その世界に帰るから君とのお付き合いを断っているとしたら?」

「物語の中みたいですね。私、そう言うの嫌いじゃないです。

でも諦めません。帰るまででもいい。

私は伊加利副部長とお付き合いがしたいです!」


「うん、春日井さんならそう答えると思ったよ。では、その世界に妻子が居るからだとしたら?」

「え?」


「仮にだよ。仮にそうだとしたら?君はその妻子を無視して帰るまで付き合ってくれと伊加利くんに言うのかい?」

千明は何かを察して言葉を詰まらせる。


「わ…、私はこちらの世界で一人ぼっちの伊加利副部長の支えになります。図々しいし、身勝手だし、自分勝手なのもわかります。でも…もしそれが理由で私に問題が無いのならまずはお付き合いして貰って、それで…それから伊加利副部長に判断をして貰いたいです。」


「判断を伊加利…常継に任せるのは卑怯じゃないかな?

春日井さんが常継を嫌になった時、向こうの家族を感じて身を引きたくなった時に常継に判断を押し付けることにならないかい?」


「え…、そんな意味じゃなくて…私は…」

「うん、真剣なのはよくわかった。少し時間をくれないかな?悪いようにはしないよ」


映像はそこで終わる。


そして今千歳とツネノリの前にいる東は当時俺に話した時と同じ事を言った。

「相談を受けた僕は、自身が人ではない神だと言う事。その世界に偶然やってきた常継が仲間達と世界を救った事。そして現在もガーデンの為に尽くしてあることがまとまっている記録を彼女に読んでもらう事にしたんだ」


「そんな事をして、万一お母さんが「秘密をバラされたくなかったら付き合って」とか言い出したらどうするつもりだったの?」

「千歳…お母さんの事をそんな風に思っていたの?」

千明が少し傷ついた顔で千歳に聞く。


「その点は大丈夫だよ。もしも千明がそんな行動に出れば僕は自分の世界を守るために彼女の記憶を消して全く違う人生を歩んでもらうつもりだったからね」

そう言って東は微笑んだが、千歳にはそれが恐ろしかったようで震えていた。

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