第17話 なんでアイツがここにいる?

それから少しした頃、俺の足元がまた光った。

「召喚の光…、またどこかに呼ばれるのか」

出た先が戦闘の最中と言う可能性もある。

俺は身構えておく。


だが、呼ばれた先は特に戦闘中ではなかったが、お風呂場くらいの大きさの個室だった。

個室には椅子と見慣れないものが置いてあった。


「これはね、モニターって言うのよ」

そう言って魔女が現れてモニターに触ると人が出てきた。

モニターの中にも魔女は居た。


「2人?」

「ああ、これ…私はセカンドの中なら一人二役なんて簡単にできるのよ。どっちも私よ」


「これから何が始まる?」

俺はそう言って魔女を見る。


「セカンドの楽しい生活を体験してもらうわ」

そう言って魔女がウインクをしてくる。


「やあねぇ、無反応?

まあ、いいわ。

まずはね、このモニターの向こうはコロセウム、決闘場になっているの。

そこでデモンストレーションとして20人の初心者と一緒に魔物と戦ってもらうわ」


いきなり戦闘か…


「それも、その腕輪の剣と盾でね。

ああ、一つ言っておかなきゃ。

本来プレイヤーは怪我をしたリ死ぬこともあるんだけどそれは演出で少しすると復活してまた戦えるの。

でもあなたは違う。

貴方はゼロガーデンから召喚された特別な存在。だから怪我もすれば死ぬわ。アハハハ」

そう言って魔女は嬉しそうに笑う。

やはりそんな所か…、俺は母さんの本で魔女についても読んでいた。

圧倒的有利の時ですらギリギリの条件で追い込む。

そして負けそうになると手を出してくる。

多分、今もギリギリを楽しんでいるのだろう。


「大丈夫、怖いかしら?

一応、周りの人にはあなたがスタッフでもプレイヤーでもない事を下手に悟られないように、別世界から転移してきた人と言う設定の役者さんって事にしておくから普通に振舞ってもらっていいわよ。

それにもしも出てきた魔物に圧勝したとしても私が話術でなんとでもしてあげるわ」


魔女の余裕そうな顔。

多分、圧勝なんて無理なんじゃないか?

死にはしないが大怪我を負う事くらいは覚悟しておかなければならない。


集中をしたいのだが初めて見るモニターはとても興味深かった。

絵がコロコロと変化し声が聞こえる。

これがセカンドの、いや…父さんの住む外の世界の文化。

モニターの中の魔女がセカンドの機能紹介をしている。

綺麗な世界、心躍る凶悪な魔物との戦い、そして美味しい食事。

その紹介をされる度に観客たちが色めきだつ。

そんなに珍しいのか?

俺にはよくわからない。

ゼロガーデンにも素晴らしい景色が沢山ある。

外の世界には無いのか?


そんな事を思っていると20人の初心者が出てくる。


「ごめんなさい、もう時間なの」

そう言って魔女がモニターを停止させる。


「折角だから移動しながら説明をしてあげる」

魔女がそう言って俺の手を引く。


あの20人の初心者は半分が魂をガーデンに連れてきているもので、残り半分は外の世界から自分の分身を操作している存在だと魔女は言った。

「外の世界の人間は強いわよ。攻撃される恐怖が殆どないからね」

そして「バカみたいよね人間って」と言って笑う。


確かにバカみたいだ。

何で無駄に魔物と戦いがしたいのだろうか?

俺は父さんとビッグベアを退治するのも怖い。


「さ、ここで待っててね。これから転送が始まるわ。」

…いよいよ戦闘か。何と戦うのだろうな…嫌な予感がする。


「あ、そうそう。言い忘れてた。

「初心者限定特別招待枠」なんだけどね、ツネノリくんのほかにもう一人招待したのよ。

誰だと思う?」

魔女がそう言って笑う。

とても淫靡な笑い。

見る人が見れば魅力的なのかも知れないが俺にはとても恐ろしく映る。


「わかんないわよね。

ねえ、千歳って知ってる?」


千歳!?

その名前を聞いた時、俺の身体は震えた。


「千歳…?」

「あ、その顔は知っているな~。そう、あなたの義理の妹さんよ。

妹さんも初心者限定特別招待枠だから魂を連れてきてはいるけど怪我もするし死ぬわ。

しかも外の世界は平和で戦闘も何もない世界なの。

やりたくて来ている20人とは違って、無理矢理連れてこられただけだしね。

魔物と戦って無事で済むかしらね?アハハハ」


魔女め、とんでもない事を言い出した。

千歳が居る?

しかも平和な世界から来た?

最悪だ。

自分だけの身だけではなく千歳も守らねばならない。

父さんと母さん、そして向こうの世界にいる父さんの家族の為にも俺が千歳を守る。


「あ、安心してね。千歳にも「勇者の腕輪」は装備させたから。盾さえ張ってツネノリくんが敵を倒せばいいのよ」

簡単に言ってくれる。


「なんでアイツがここにいる?」

魔女は何も答えない。

まるで見計らったように俺の足元が光り始める。

召喚の光だ…


くそ、千歳を見つけ出して守らなきゃだめだ!!

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