覚醒
「ほれ行くぞムト・ジャンヌダルク! ほっほっほっ!!!」
「ちょっ、ちょっと待って下さいよジュリアスさんっ! まだ食べ終わってないんですけ――」
「心配いらぬ。どうせ吐き出す事になるんじゃからのう。ほっほっほっ!!!」
美味しそうに光り輝く朝食達がどんどん遠ざかって行く。結局俺の健やかなブレックファーストは取り敢えずのお預けになったようだ。恐らく次にこの部屋に戻って来る頃にはランチに変身していることだろう。
今俺は突如女っ気のないロビーノ邸に現れたジュリアス・マーキュリーというエロティシズム溢れる自称デーズリー村村長に首根っこを掴まれ家の外、十中八九ロビーノの元だろう、に連れてかれている所だ。
そしてそう、見ての通りこの美魔女は何故か今大変ご機嫌である。俺にハニートラップを完璧に決めたのがさぞ嬉しかったのだろう、まだ俺が食事に殆ど手をつけていないというのにも関わらずこの有様だ。
それにしても驚嘆すべき美乳だな。ジュリアスが一歩一歩進む度にその均整のとれた乳房がゆっさゆっさと一定のリズムでダンシングを繰り返している。俺は現在、強制的にジュリアスの隣りで歩くことになっているわけだが、もうこれ朝食無しでいいですわ。
「お? やっと来たか!! ……ん? っておい! ジュリアス婆さん何でムトの首根っこ掴んでんだよっ!?」
「ほっほっほっ!! エロ猿へのちょっとした罰じゃよ」
「ハァ、ゴクリ、ハァハァ」
「多分それご褒美になってんぞ」
おおっとビックリ。ジュリアスの上下運動の激しい谷間さんに見惚れていたら知らぬ間にロビーノの言う裏庭とやらに到着したらしい。
ロビーノの立っている場所は村の殆どの場所と違い草が生えて無く、黄土色の大地が剥き出しになっていた。
「まぁそれはともかく。ほらよムト!」
「え? うっ、うわぁぁっっ!?!?」
急に首元の圧迫感が消失し、代わりに背中をドンと押される感触と共に、身体が前方に二三歩弾かれる。そして顔を上げると俺の半身程度の長さの木刀が凄まじい速度でこちらに向かって来るのが見えた。
「あべしっ!」
もちろん取れない。顔面に直撃した。
「……」
「……」
二人の視線が痛い。余りにも恥ずかしいので、「全然痛くありませんよ?」みたいな表情を必死で作って何事も無かったかのように木刀を拾った。 右の鼻からチロリと血が垂れるのが分かるがそれでもポーカーフェイスは崩さない。
「……そんじゃま、始めますか?」
「……ほっほっほっ! お手並み拝見と行こうかの?」
ふぅ。流石空気の読める大人達だぜ。
俺は何を始めるのかもわかってない癖に自信満々な足取りで取り敢えずロビーノの元へ優美に歩いて行く。こんな物騒なもん持って一体何をおっぱじめるのかとても恐ろしいのだが二人の気遣いを無駄にはしないぜ。
「っ痛ぅ!!」
転んだ。
やっとの事で俺と同じような木刀を持つロビーノの所に俺が辿り着くと、ロビーノは嬉しそうな顔で一笑した。
「んじゃま、習うより慣れろだ。お前の体の中の魔法の感覚を俺が無理矢理引き摺り出してやるぜ!!!」
「え?」
無理矢理ってそんな……っじゃなくてだから具体的に何をするつもりだと言うんだこの二枚目。説明不足も甚だし過ぎだろう。
――が、そんな混迷する俺の状況理解への助けをロビーノは全くするつもりはないらしい。
「《
ロビーノが急に何かを声高らかに唱えると、彼の全身から凄まじい威圧感が解き放たれた。
ジリジリと刺々しい空気が俺の肌を包む、そしてその空気を創り出した張本人はというと――これまた嬉しそうに笑っていた。
「どうだムト! これが無属性魔法だ!! 感じるか!? 感じるだろ!!」
「これは! 何ぞや……!!??」
圧倒的な空気の奔流に気圧されながらも目の前の男の方を見れば、ロビーノの傍近から蒼白い闘気が迸っている。
「無属性魔法とは自分の中にある魔力を一旦外へ放出し、そしてそれを再び自分の肉体に纏わせる技術の事だ。この魔法(ちから)は自身の運動能力を桁違いに跳ね上げる事を可能にする!」
「す、凄い」
強烈な魔力の激流は不意に収まった、しかし苛烈な緊張感は消えていない。ロビーノからは薄っすらと蒼白い闘気がいまだに滲み出ていて、その深蒼の瞳はサファイアのように光り輝いていた。
「無属性魔法にはたった一つの魔法しかなく無論階級も存在しない。この魔法の力は総てその魔法を行使する者の魔力量に依存するんだ。さぁムト! 叫べ! 唯一の無属性魔法の呪文、《魔力纏繞》を!!!」
膨大な魔力とやらに当てられる事で俺は完全に思い出した、俺は確か最強の魔法使いなんだ。見ただけで分かる、この魔法は俺にも|使える(・・・)……!
でもこの感情は何なんだ……恐怖? 当たり前か、たとえ前世で俺がマシンガンの使い方を知っていて、そいつを所持していたとしても俺は使う事に恐怖を感じただろう。
それにしても最強の魔法使いの特典なのだろうか? 分かる、分かってしまう、俺の力は異次元に強大でしかも俺はそれを完璧に扱える。でも、怖い、その事実(・・)がどうしようもなく怖い。
って馬鹿か俺は? ただの魔法を使う練習だろ? しかも魔法(それ)が俺は得意らしい。それにも関わらず俺は一体何をそんなに怖れているんだ?
「どうしたんだムト? 早くしろよ。自信がないのか? 心配はいらないぞ。無属性魔法は発動させるだけなら赤ん坊でも多分きちんと詠唱すれば出来るくらい簡単だからな!」
「そ、そうですか」
ほらロビーノも笑ってる。この魔法の世界で魔法を使わず生きて行く事なんて殆ど不可能なんだからさ。ちゃっちゃと特訓とやらを終わらしてご飯にしよう。
――嫌、駄目だ。俺の本能が魔法を使うなって警告している。これはもう俺がチキンとかいう次元じゃない。脳が全力で危険信号を送り出している。
やっぱりロビーノに今日の特訓は無しにして貰おうか――――、
「どうした? やっぱり俺との特訓は嫌か? 確かにレウミカに比べたら頼りないと思うが。無属性魔法にはちょっと自信あったんだけどな」
あぁ駄目だっ! 俺のせいで凄まじい闘気を漲らせながら落ち込む三十路のおっさんっていう謎の生命体生み出しちゃってるよ!!
「すっ、すいません! 今から唱えますんで!」
「ほ、本当か!? よ〜し! 無属性魔法の全てを手取り足取り教えてやるからさっさと唱えてくれ!!!」
これはもう仕方ないだろう。
悪いな危機察知能力には定評のある俺の脳みそ、今回はお前の忠告に従えないみたいだ。
そして、俺は大きく深呼吸して源泉のわからない恐怖心を無理くり誤魔化して、嫌がる本能を必死に押さえつけてその魔法の呪文を唱える。
「――《魔力……纏繞》」
次の瞬間、俺は、俺じゃなくなった。
――――
誰だコイツは……?
ロビーノは、一瞬そんな事を思ってしまった。
彼ははちゃんと目の前にいる青年の名前を知っている。
青年の名はムト・ジャンヌダルク、一昨日レウミカが拾ってきた一風変わった青年だ。
しかし今、目の前にいる青年は余りにもロビーノの知っているムトとかけ離れている。別に姿形が違う訳ではない。
そう、雰囲気が全くの別人だった。
「おいムト……お前……なんだよな?」
「…………」
ロビーノにムトと呼ばれた青年は目をつぶったまま返事をしない。
微動だにせず、ただそこに佇むだけだ。
(こいつは驚いたぜ……! 元々騎士志望で首都で修行していた経験のある俺はこういう奴を知ってる。いざ、闘いになると、魔力纏繞を発動させると、その何というか、モードに入るタイプの奴だ)
もうそこにはいつもの挙動不審にキョロキョロとする、落ち着きのないムト・ジャンヌダルクはいなかった。
「ははっ! まさかお前がそういうタイプだとは思わなかったぜ!!これなら特訓っていう形はとる必要ねぇな! 手合わせっつう形の方がいいみてぇだ!」
「…………」
一見ムトは全く魔力纏繞を発動させていないように見える。
だが、ロビーノは確かに感じた。一瞬だけだが、爆発的な魔力の解放を。
その証拠にムトの体から僅かだが薄っすらと蒼白い闘気が揺らめいている。恐らく相当な魔力濃度のはずだ。
「それじゃあ行くぜ? 言っとくが俺は、無属性魔法だけなら多分魔術師レベルだと思うぞ?」
「…………」
「さて前置きはこれくらいにしていっちょ始める事にするか、俺の思ってた特訓とは全く別のものになりそうだが、それも悪くないぜ」
ロビーノは木刀をしっかりと握り直し、闘いの構えを創り出す。
そして彼が軽い殺気を出した所で、やっとムトが反応を示した。
「ほぉ? お前強いなら強いって先に言えよ」
「…………」
ムトはゆっくりとその瞼を開く、その瞳は普段の明るい茶色では無く、眩しい程に輝く黄金一色に染まっていた。
――相当出来る。
ムトの瞳の力強さと隙のない自然体の構えから、ロビーノがそう判断するのに難しさはなかった。
(これは久しぶりに本気を出せそうだ。こんな辺鄙な場所じゃあもう二度と全力で剣をふるえる事はないと思っていたが……人生何が起きるかわかんねぇな)
ロビーノはにやけそうになる頬を必死で締め直して、地面を踏む力を強める。
「ハッッッッッッ!!!!!!」
そしてロビーノは全力の一撃を繰り出した。
「なにっ!?」
――が、ロビーノの渾身の先制攻撃は見事に空を切る。
予想外の手応えに彼は慌てて後ろに大きく飛び退き、ムトと再び距離をとった。
「…………」
「外した、だと?」
ムトの体勢は先程と全く変わっていないようにしか見えない。その黄金の瞳は相変わらず瞬きすらせず一心に俺を見据えるばかりだ。
だがしかし目を凝らすと、ムトの足元にだけ僅かな変化が生まれていた。
「避けたのか……!」
「…………」
ムトの真下の大地に、さっきまで存在しなかった足跡が確かに現出していた。
ロビーノの額から冷や汗が一滴垂れる。
(あの野郎、俺が全く見切れない速度で俺の俊撃を回避したっていうのかよ…………! ったくとんでもねぇ記憶喪失野郎だぜ!)
「ハァァァァッッッッッ!!!!!」
爆ぜる、そう自分でも錯覚してしまうぐらいの速度でロビーノは一気にまたムトとの間合いを詰めた。
そして、横薙ぎを一閃。
しかし、やはりこの一撃も虚空をつかんでしまう。
(――だが、今度はそれだけじゃ終わらないぜ?)
「オラオラオラオラッッッ!!!!!」
連撃、息をつかせぬ程立て続けに斬撃を繰り出す。
横、立て、斜め、ありとあらゆる角度から絶え間無く斬り続ける。
ロビーノの足は止まない。
一歩踏み出す毎に、痛恨の一撃が放たれる。ロビーノが圧倒的に攻め続けた。
「畜生っ! 何でだ……っ!!!」
「…………」
――それでも当たらない。
ロビーノの容赦無い斬撃の嵐は、ムトに擦りもしない。
まるで幻影と闘っているみたいだった。いくらロビーノが攻撃を加え続けてもムトには一向に届かず、しかも彼にはムトが避けている動きすら見えない。
「どうなっていやがる!? お前は一体何者だよっ!?!?」
「…………」
自然と微笑がロビーノの頬に浮かんでくる。まさかここまでとは思わなかった。
彼の全力が、こいつにとっては微塵も脅威になっていない。
その事が、彼にとってたまらなく嬉しかった。
「最高だぜっ! ムトぉ!!! 《魔力纏繞》!!!!!」
「…………」
ロビーノは魔力纏繞の上書きを行う。
この歳になって限界を超えようとする事になるなんて思ってもみなかった。底が見えない相手に、ロビーノの中で燻っていた剣士としての誇りが再燃する。
「ウォォォッッッッッ!!!!!!!」
「…………」
剣速が限界を超えて加速していく、自分の手と木刀が一体になったような感覚に満たされる。
速く! 速く!!
自分ですら把握出来ない程の剣撃の嵐、宙に浮いているような錯覚すら催してきた。
もっと速く! もっと速く!!!
剣を全身全霊で振り抜ける事の喜び、それをロビーノは完全に思い出す。
至福の時間、この懐かしい没入感。
だがこれほどの出力、そう長くは続かないことを彼は経験で知っている。体感的にあともう少しで魔力切れが起きるのを敏感にも感じ取っていた。
(ちっ……! もう限界か! 俺の腕も鈍ったもんだぜ!!!)
「フッ!!!」
「…………」
ロビーノはここで一歩分、いまだ圧倒的余裕を見せるムトから間合いを取る。
そして、持ちうる全ての力を踏み出す右足に乗せ、最高の一撃を奮うことに決めた。
深呼吸を一つ、眼光鋭い目標に全神経を集中させる。
――そして刹那、ムトの頭上に音速すら超える一閃が縦に振り抜かれた。
「!」
今のロビーノが繰り出す事の出来る最高最上の一撃。
やっとここで彼は初めて、ムトの動きの変化を、ほんの一瞬のゆらぎを、その蒼い瞳に映す事が出来た。
「かっ……!」
「…………」
――ムトの変化を認識したが最後、気がつけばロビーノの握り締める木刀の中央部から先が消え去っていて、喉仏には震える剣先が添えられていた。
「やられたぜ……」
ムトの魔力纏繞はとっくに解除されていて、ロビーノの咽喉に突きつけていた木刀から手を離す。
それに続くようにロビーノの魔力纏繞も完全に消失し、彼は満足気な溜め息を肺から外へ放出する。
久しぶりの完敗だった。
――――――
――ん? ここは何処だ? 一体今俺は何をしている? 遥か空中に浮かんでいるような不思議な感覚、この感覚は何だ?
【最強たる者に、無駄な動きは必要無い】
――え? 今の頭の中に直接響くような声は一体…………?
【最強たる者に、余計な感情は必要無い】
――この声は、俺の声? でも、体がまるで自分の物じゃない様な………。
【最強たる者に、一切の遅れは許されない】
――ん? ロビーノが剣を構えている……それにロビーノだけじゃない、俺も木刀を握っている気がする……そうか俺は確か魔法の練習を……っては!?!? ロビーノが本気で斬りかかって来た!?!?
【最強たる者に、恐怖、動揺は似合わず】
――駄目だ速過ぎて防げな……あれ? 体が勝手にロビーノの攻撃を避けている!? それに良く考えたら自分の体が動かせない!? まるで自分を第三者視点から見ている様な……。
【最強たる者に、容赦は相応しく無い】
――これは……殺気!? 不味い……! 俺が……俺はロビーノを殺すつもりだ!
【最強たる者に――――】
――うるせぇ!! さっきからうるせぇんだよ!! 止めろ! 止まれ!! 俺の体を返せ!!!
【――――最強たる者に、敗北は選べない】
――ヤバい! このままじゃ俺がロビーノを殺してしまう!! くそっ!! たかが練習だろうが! 止まれぇぇぇ!!!
【最強たる者に、立ちはだかる者は亡し】
――畜生畜生畜生!! このままじゃ取り返しのつかない事になる!!! どうすればいい! どうすれば俺を止められる!?
【最強たる者に、勝利は常に約束される】
――魔法だ! この魔法を解除出来れば! でもどうすれば解除出来るんだ!?
糞っ! ロビーノが距離を取った、これは不味いぞ……俺は次のロビーノの一撃にカウンターで返すつもりだ……! これを止めないと、確実にロビーノは死ぬ…………!!
【最強たる者に、情けは不必要である】
ヤバイヤバイヤバイッッッ!!!!! 止まれ止まれ止まれぇぇぇっっっ!!! 解除解除解除解除ぉぉぉぉっっっっっ!!!!!!!! 魔力纏繞解除ォォォォッッッ!!!!!!!!!!
【最強たる者に――――】
「かっ……!」
「…………」
不意に脳裏にフラッシュが炸裂した。
すると、ぼんやりとしていた視界が明瞭に変わり、俺の握り締めていた木刀の剣先がロビーノの喉から数ミリ先で静止しているのが目に入る。
止まった……のか? 間に合ったん……だな?
「やられたぜ……」
俺のぷるぷると震える手から握力がすっと抜け、木刀を思わず握りこぼしてしまった。
凄まじい疲労感が全身を襲う、軽い吐き気を催して俺は地面によろめき座り込んでしまう。
「驚いたぜムト!! お前めちゃくちゃ強いじゃねぇかっ!? まさかこの俺が手も足もでないとは思わなかったぜ。どっちかと言えば俺の特訓になっちまったな」
「はぁ……はぁ……そうっ……ですね……」
ロビーノも満足そうに笑いながら俺の横に座った。だが俺の精神状態はどう考えても彼のように朗らかな笑みを浮かべる事は出来そうにない。
混乱で頭が痛い、まだ自分の身に起こった事を受け入れられていない。
「記憶は失くしても、体は覚えてましたってことか。ははっ!! 無属性魔法には自信があるとか言ったのが恥ずかしいぜっ!!!」
ロビーノは照れた様に頬を掻く、だが申し訳ないが今は彼とのほのぼのとした会話に参加する事も無理そうだ。
まともに頭が回らない、だが一つ、確かにわかった事が一つだけある。
「何じゃ何じゃ? ぼろ負けじゃのう? ロビーノ? まともなのは筋肉だけかと思っとったがその筋肉すらハリボテじゃったようじゃのう」
「うるせぇよ婆さん! 老人は家に引っ込んで茶でも啜ってろっつうんだよ!」
「ほっほっほっ! 愉快じゃのうロビーノ! この田舎に来て力自慢しとったが、所詮は都落ちの落ち武者じゃったわけじゃ!」
「この糞ババア!! 自分の意思でここに来たっつってんだろうが! 全く人が疲れている所に本当迷惑な老いぼれだぜ!」
俺は自称神に、最強の魔法使いにして貰った。いや、して貰ったと思っていた。
だが実際には違ったんだ。俺は最強の魔法使いになったんじゃなくて、最強の魔法使いになれるようになっただけだったんだ。
とんでもない詐欺だ。ふざけるなよ。
魔法を使う時俺は、強制的に最強であるもう一人の自分に変わってしまう。何だそれは。
畜生っ!! 結局俺はこの世界で特別美男子なわけでもなく、俺自身が最強の魔法使いになったわけでもなかったわけだ。
「それにしてもムト? お前本当に何者なんだよ? 今ので記憶が戻ったりしてないか?」
「ほっほっほっ! ただのエロ猿じゃなかったようじゃのう」
「あ、はい。そうですね…………?」
ロビーノが心配そうな顔で語りかけてくる、ジュリアスも心の底の見えない不敵な笑みを浮かべつつ俺をからかう。
しかし上手く言葉を返せない、俺の脳はまだ大混乱の中に有るからだろうか。
それになんだか急に睡魔も重くのしかかってきたようだ。初めて自分の体を別の意識に乗っ取られたし、この動悸を収めるためには少し休息が必要なんだろう。
「おいムト? 聞いてんのか? っておいムトっ!? 大丈夫かムトっ!?!? ムトおま――――」
俺は結局何も変わっていなかった。顔は大分マシになったがあくまでこの世界じゃ標準レベル。そして、新たに手に入れた特別で強力な能力(ちから)は俺自身を抹消してしまう。
どうすればいい、こんなんで俺はこの世界で面白可笑しくいやらしく生きて生けるのだろうか?
答えはやはりでない、大方の予想通りまたもや気を失うだけさ。
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