外伝1 vsポルトガル
秀徹の体調はあの試合以降は絶好調。あの試合で無理やり動いて体温を上げたのが良かったのか、次の日には元気になっていた。ついに心身ともに万全の彼が見れる。
ワールドカップ準々決勝の相手はポルトガルに決定した。ここまでで秀徹は6ゴールを決めている。唯一の得点王の対抗馬となりそうなナバッペも6ゴールと奮戦しており、ここで得点をあげてそちらのレースにも勝ちたいところだ。
ポルトガルはクリストファー・ローガンが抜けた後も戦力を維持し続けた。ポジションは3-5-2。
昨季、FCドルトで21ゴール5アシストを記録したCFのアンドリューとアスレチックマドリードのエース・フェレックスが2トップを担当し、OMFにベテランのフェレナンデス、右にカンセル、左にグエレスを置いている。秀徹と同世代、もしくは少し上の世代ぐらいの選手たちが中心を担っている攻撃的なチームだ。
一方で2ボランチには優秀なアンカーも配置しており、CBにはプレミア1のDFと名高いディアルもいる。総合力の高いスカッドを組んでいる。
さて、そんな相手に対して日本はサイドアタックを中心とした攻撃をすることにした。4-2-1-3のフォーメーションを取ることとし、OMFに北野、3トップには左から秀徹、下田、久木を置く。
ポルトガルのサイドの選手は守備力をほとんど持ち合わせていないので、サイドからの攻撃にボランチの選手が対応することで帳尻を合わせている。しかし、それは中央の守備の厚みを減らすことでもあり、日本はそれを上手く利用して点を取らねばならない。
そこで、中央に北野を配置している。彼はボールをさばくのが上手く、ベテランなだけあってポジショニングが巧みだ。この3トップ+北野という発想は、完全に当たりの戦術であった。
ポルトガルにはカウンターアタックを主戦術とするチームに所属する選手が多いので、それがナショナルチームとしての戦術にもなっているが、日本はディフェンスラインを低く保ちながら守り固めているのでまともにカウンターを食らうことはなかった。
逆に、相手の攻撃が一段落した時、日本の攻撃陣は猛威を奮った。神出鬼没の北野がボールをCMFの選手などから供給され、サイドの久木や秀徹にボールを散らす。そこでテクニックのある彼らが相手DMFを引きつけながらDFも剥がしたりして前へ出て再び神出鬼没の北野にボールを渡す。
その後、サイドでの役割を終えたアタッカーは中央へと流れ込み、数的優位を作りながらゴールを目指していく。見事な連携であり、相手のフェルナンデス監督も、3バックで挑んだのは間違いだったと後悔するほどであった。
前半20分、良い流れで攻撃していた日本にあの男が理不尽すぎるゴールをもたらす。相手のカウンターが一段落し、北野から左サイドの秀徹にボールが渡った。
秀徹はさきほどから相手をサイドに引きつけるために中央へのカットインを控えていたが、これによって相手のカットインへの注意力が下がっていたのを感じていた。
(っし、ここはカットインでいこう。)
ドリブル開始時にそう決め、高速ドリブルを開始した。相手DMFが対応しに来て時間を稼ぎ、OMFのフェレナンデスやRMFのカンセルなどのプレスを待つというのがいつもの流れであったが、今回は違う。秀徹はスピードを全く緩めずにドリブルし、相手のDMFを鋭い角度へのカットインでかわすと、危機を察知して出てきたCBをルーレットでいなして一気にペナルティエリアに突入した。
そして、大きく振りかぶってインステップでシュート。シュートは低弾道で弾丸のように右隅を目指し、ゴールネットを激しく揺らした。
このゴールはポルトガルの選手の心を完全にへし折るゴールになった。ただでさえサイドの対応に苦慮していたのに、こんな理不尽なゴールを決められてはどう対策を取ればよいかわからない。
それでも名将であるフェルナンデス監督は秀徹のいるポルトガル側から見た右サイドを、マンマークやカンセルを少し下げることによって封鎖するという対策を講じたものの、脅威は秀徹のいるエリアに限らない。
前半41分に久木が右サイドから北野やSBの助けをもらいながら崩していき、ペナルティエリアに侵入後、キックフェイントで相手を剥がしてGKの内側を撃ち抜く鮮烈なゴールを演出した。
強豪同士とされ、力の差はほぼないと考えられていたこの試合で前半から2点差がつくというのはほとんどの人にとって驚くべきことだった。
(これがあの監督、ハセガワの力量なのか…。)
フェルナンデス監督はこの差は戦術の差だと痛感した。アメリカ戦のような戦い方を日本がしていれば、もっと接戦になったはずだが、長谷川はそれに飽き足らずポルトガル対策やポジショニングの修正を行ってきた。彼は監督キャリアは短いが、非常に優秀な監督であった。
後半からはフェルナンデス監督の戦術修正も効いて、お互いに一歩も譲らない白熱の展開となった。ポルトガルは得点力の高い三人を中心に攻めかかり、危ないシーンを作っていった。しかし、日本は引いて守ってペナルティエリアに入れさせない守備をし、決定機は作らせなかった。
そんな中で後半29分、秀徹にボールがわたり、日本のカウンターが始まった。とはいえ、彼は警戒されているのですぐにわらわらと相手選手が寄ってくる。打開するのは難しそうだ。
しかし、秀徹はこの選手たちが警戒しているのは自身のカットインであることに気づく。そうであるとすれば、引きつけてクロスをあげれば相手の隙につけ込めるのではないだろうか。
そう考えて縦へと進み、足技を見せつけて相手をより引きつける。そして、急なタイミングでボールを蹴り出してクロスをあげる。彼のキック精度は正確無比。下田の頭にちょうどフィットするようなクロスをあげてさらなるゴールをアシストした。
さすがに3-0とすれば日本も大満足で、その後は秀徹をDMFの位置にまで下げて守備力を発揮させ、3点のリードを守って快勝した。
1000回ネットを揺らす男 龍撃槍 @DANJOIN6790
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