vsベルギー 前編
「もう夏前なのに寒いね。」
「ロシアだからねー。」
「秀徹君のいるイングランドは寒いの?」
「うん、日本よりだいぶ寒いよー。寒いの嫌いだから結構嫌なんだよね。」
「じゃあ、これからは私が温めるね♡」
ポーランド戦が終わった夜、二人は夜景を見ながら話していた。今日から二人は晴れて恋人同士になったのだ。
そして、亜美にとってのファーストキスが奪われ、夜のサッカーが行わ…れることなくその日は二人して寝てしまった。
さて、グループステージは終了した。一番のサプライズは優勝候補の一角であるドイツの予選敗退である。まさか負けるとは誰も予想してなかったであろう。
ポーランドが0勝でロシアから帰ることになったのもサプライズであった。ただ、その他はほぼ順当にトーナメントに進出している。
今のところの戦いぶりから鑑みて、優勝候補は、ベルギー、フランス、ポルトガル、スペイン、イングランド、クロアチア、ブラジル辺りだろうか。
特にベルギー、フランス、イングランドは圧倒的だ。
フランスは、秀徹のライバルであるナバッペやスペインの強豪であるアスレチックマドリードのエース・グレーズマン、クラブマドリードのCBのバラス、マンチェスター・ユニオンのポルバなど各ポジションにスター選手を集めている。
また、イングランドは若手中心のチームで、サイドにスターレングなどのドリブラーを配置し、中央でケレンがボールを待っている。
日本にとって問題となるのは次に戦う相手がそれらと並ぶほどの強さを持つベルギーだということだ。
現在のベルギー代表はベルギー史上最強だとされており、圧倒的な強さを誇る。3-4-3のフォーメーションで挑む。以下は彼らの簡単な紹介。
GK
クルトル:長身GK。反射神経が素晴らしく欠点がない。ロンドンブルーズの守護神であり、クラブマドリードへの移籍の噂も出るほどの実力者。
CB
アルデル:クラブトッテナムで秀徹と対戦した。対人守備に強く、状況判断に優れる。
CB
コンパン:マンチェスターブルーズのキャプテンとしても活躍している。空中戦にめっぽう強く、ブルーズのDFを牽引する存在。元MFでゲームメークにも貢献する。
CB
フェレトンゲル:アルデルとともにクラブトッテナムのCBを担当する。守備能力もさることながら、ビルドアップ能力にも優れており、プレミア最高のCBとの評価もしばしば見受けられる。
CMF
ヴィテル:ドルトに新加入した中盤のなんでも屋。守備もパスも高水準でこなし、プレーメーカーとしての役割を果たす。
CMF
デブライル:マンチェスターブルーズの司令塔。プレミア・リーグNo.1MFの座を掴んでいる。スピードやフィジカルにも秀で、狙ったところに鋭いパスを出せる。冷静沈着で、彼がいるとそれだけで何か起こりそうな予感がするほど。
RMF
シャドル:クラブトッテナムで活躍したサイドハーフ。スピードはそこまでないものの、巧みなドリブルと鋭いパスでサイドアタックする。
LMF
カラスク:アスレチックマドリードが誇る最強サイドアタッカー。緩急を駆使したドリブルを用い、アスレチックマドリードの攻撃を仕切る。得点力も高い。
RWG
メルテレス:ナポリFCのエースストライカー。小柄だが、大胆な飛び出しやシュートと的確なドリブルを活かした得点力に期待がかかる。テクニックもスピードもある万能型ストライカー。
CF
ルカス:今やマンチェスターユニオンの貴重な得点源となっている。大柄でフィジカルに優れる。ドリブルも実は巧みで、様々な得点パターンを生み出せる。
LWG
ハザード:ロンドンブルーズのエース。世界的なドリブラーで、足の回転数や足を出すスピードが異常に速い。相手をワンタッチで抜ける技術とスピードを持ち合わせ、決定力やアシスト能力も高い。
ここまで紹介してわかったかもしれないが、このチームはとんでもないチームなのだ。もし、こんなクラブチームがあったならば、チャンピオンズリーグ優勝も可能かも知れない。
それほど強いチームだ。何しろ様々な強豪チームのエースや主力が集まっているのだから。
対する日本は、秀徹はまごうことなき世界的なトッププレイヤーに当たる。格としてはベルギーでもエース格になれるだろうし、ハザードレベル、いやそれ以上の選手だ。
だが、その他を比べると日本は見劣りする。それが勝敗の全てではないが、勝敗を考える上では厳しいものがある。
さて、あの一戦から5日後、決勝トーナメント1回戦の日本vsベルギーが始まった。このワールドカップで唯一、3試合連続でゴールを叩き出している秀徹には当然期待がかかる。彼がいれば、ワンチャンがありえる気もするのだ。
今までワールドカップの決勝トーナメントに進出しても、ベルギーほど強い相手とは戦うことにはならなかった。しかし、秀徹がいるという事実は以前にも増して期待を煽っていた。
今回の試合に日本は4-5-1のフォーメーションで挑む。秀徹はRMFで右側を担当。左には香取、中央には本多と大隅が並ぶ。
秀徹を右サイドに置いた理由は二つある。
一つは、相手の左サイドのカラスクとハザードという世界屈指の強力な攻撃陣を少しでも止めたいから。
もう一つは中央よりもサイドの方が相手もフォーメーション的にマークに付きづらく、好き勝手やりやすいからだ。
亜美も緊張の面持ちを浮かべながら秀徹を見守る。これより、今ワールドカップ屈指の激戦が開始した。
試合開始後はベルギーがボールを保持するが、日本は一歩も譲らずに守備を展開。長谷川らの献身的なプレーが効いていた。
しかし、相手にとっての左サイドでの守備は芳しくない。いかに秀徹が対人守備が上手かろうと、ハザードは流石に止められない。
そこに、ハザードほどではなくとも世界的に見てもドリブラーランキングTOP20には入るであろうカラスクが加われば、なおさら不利になる。
酒田も積極的に止めようとはしているのだが、各個撃破されてしまうと太刀打ち出来ない。右サイドは西田監督が思うような守備ができず、苦しい展開が続いていた。
守備面はそのように展開しているが、日本も守備だけしているわけじゃない。あまり素早いとは言えないものの、ボールをポゼッションして、着実な攻撃を繰り出していった。
素晴らしい攻撃陣を揃えるベルギーだが、守備的な選手は、CBの3人と、ヴィテルぐらいしかいない。日本は5〜6人の守備的な選手を配置しているというのに。
故に、ベルギーは守備がもろい。右サイドから抜け出した秀徹はクロスを楽に上げる。クロスのターゲットは大隅。
大隅はジャンプしてそれに合わせてヘディングしようとするが、ここは空中戦の鬼・コンパンがクリア。彼がいる限り空中戦で競り勝つのは難しいかもしれない。
かといって、ドリブルで中央を攻めるにも、中央は3人の強力なCBとヴィテルらがいる。サイドで好き勝手されようが、中央を固めて点を取られなければ良い。ベルギーの合理的な戦術である。守備は脆いが、点は取られないのだ。
ベルギーもチャンスを何度も作り出したが、デブライルが中盤の低い位置にいるので、決定的なチャンスを作れなかった。しかも、この試合では右サイドのメルテレスの存在感が完全に消えており、その点もかなりベルギーにとって手痛かった。
0-0のまま、前半は終了。後半に向けて選手たちは休憩をとった。
優勝候補の最右翼であるベルギーには、日本は完敗すると思われていた。
しかし、ここまでの結果は支配率ではベルギーを下回ることから、決して良い試合展開には出来ていないものの、シュート本数はベルギー12本に対して日本10本。大きく劣っていない。もう少し日本に運が味方すれば、もしかしたら勝てるかもとすら思える展開だ。
後半が始まると、秀徹は守備に重点を置いていたのを一転させ、役割を攻撃にシフトした。積極的に前線でボールを待ち、抜け出せるチャンスを待った。
そして、後半8分、本多がボールを持ち前を向いた。秀徹はCBのフェレトンゲルとコンパンの間からボールを通せと本多にアイコンタクトし、本多はその通りにスルーパスを出した。
秀徹はそれを外側から回り込んで追いつき、残るはGKのみとなったので一気に駆け抜けた。クルトルはこのような1vs1の対応も上手い選手だが、秀徹はありえない落ち着き方でダブルタッチを繰り出してクルトルをかわし、シュート。先制点をもたらした。
このゴールに世界中が驚く。これで彼はワールドカップの得点ランキングでも1位タイとなり、今大会で唯一4試合連続でゴールを決めた選手となった。
ベルギーサポーターもこれには唖然とする。ただでさえ攻撃面で苦戦しているというのに、先制点まで取られるとは。許せない事態だ。
リスタート後も日本の勢いは衰えず、後半18分には香取によるペナルティエリア外左側からのコントロールシュートが、クルトルの手が届かない軌道を進み追加点。
ベルギーが2点のビハインドを負うというまさかの展開となった。
日本のサポーターならば、2点もリードされてしまったら、ため息をつき、応援するサポーターもいるだろうが、諦めてしまうサポーターもいるだろう。
実際、2点という点差は想像以上に大きい。2点のビハインドは怖いといわれることもあるが、データ上では2点の差が前半までについた試合での逆転する確率は3%に満たないという。
要するに、後半も残すところあと30分という場面で、2点以上を奪える確率は3%未満だ。諦めても致し方ない。
しかし、ベルギーサポーターは自分たちのチームの勝利を諦めてなかった。2点が入っても応援し続けた。選手たちもそれに呼応するように反撃を開始した。
まずはハザードが中心となって中へと切り込んでいく。彼はドリブラーでありながら、パスやシュートなども上手い。中に来られると厄介だ。長谷川や柴田がドリブルコースを必死で塞ぐと、逆サイドにいたメルテレスへとパス。
完全に意表を突かれた日本は彼からボールを取ろうとするが、ペナルティエリアに侵入されて中へとグラウンダーのクロス。それにルカスが合わせてあっという間に1ゴールを返してしまった。
このゴールが決まって、日本も嫌な予感を感じ取ってはいた。ただ、もう引き返せなかった。何とか守ろうということだけを考えていた。
リスタート前にベルギーは長身MFのフェレイニを投入し、ペナルティエリア内での決定力を補強。ここから再び攻勢を強めた。
彼をRMFとして投入したので、サイドの攻撃は弱くなったが、逆に中央での競り合いや人数は多くなっている。そもそも、左サイドは相変わらず好き勝手やれているので、右サイドの攻撃力が弱くなっても大きな影響はないのだ。
そして、ついにこの時が来てしまった。後半38分、ハザードから上げられたクロスをファーサイドにいたフェレイニが頭で合わせてゴール。日本は同点弾を許してしまった。
監督の期待に応える働きをしたフェレイニは称賛される。ルカスやフェレイニのように190cmを超えるような身長を持つ選手には中々空中戦では勝てない。日本代表の弱点をピンポイントで狙った攻撃だった。
2-2となってからはお互い拮抗した戦いを繰り広げた。秀徹もドリブルで仕掛けて三人抜いてペナルティエリア内でパスをするチャンスを作り出したが、大隅が打ったシュートは枠外へ。残念ながら勝ち越すことは出来なかった。
後半45分、試合もあと少しという場面で日本が速攻での攻撃を試みる。DFまで上がって点を取ろうとしている。左サイドからの攻撃だったのと、非常に嫌な予感がしたので、秀徹は少しポジションを後ろの方にとっていた。
日本の攻撃は、香取と長戸が連携力を発揮し、本多がラストパスを受けてシュート。非常に良い攻撃だったし、惜しかったがシュートはGKの正面へ。クルトルはそれをキャッチしてすぐにカウンターの準備に入った。
上がり切った日本のディフェンス陣はまずい状況だとやっと気付いて戻ろうとするが、もう遅い。
フェレトンゲルからヴィテル、ヴィテルからデブライルへとパスがつながっていき、数秒の間にハーフラインまで到達していた。何とか戻った長谷川がプレッシングするが、デブライルから絶妙なスルーパスがハザードへ出され、そこからは彼のスピードあるドリブルでどんどん前へと進んでいく。
この時点でベルギーの攻撃陣が3人、日本は2人と数的不利状態だった。
数秒後、ペナルティエリア内に侵入すると、ハザードは中へと折り返し、中にいたカラスクがシュートを打つ体勢となった。この試合は終わったと誰もが思った。
だが、そこへ秀徹がスライディング。ボールは前へと弾き出され、日本は危ういながらも危機を脱した。
秀徹は、日本の攻撃中にデブライルらが不自然に上がっていることからカウンター狙いだということを見抜き、特に右サイドにハザードも移動していることから、右サイドに相手を引きつけて左サイドのカラスクかルカスがフィニッシュするのだろうと見当をつけていた。
なので、カウンターが始まった瞬間から猛ダッシュでカラスクを追いかけていたのだ。
危機を回避した日本は2-2のまま延長戦に突入することとなった。秀徹は3年のキャリアで延長戦を経験したことがない。初の経験だ。
90分が終わってかなり息も上がっているし、このまま30分戦わなければいけないのかと考えると気が滅入りそうだ。
でもやるしかない。日本の選手は皆、日本の悲願であるベスト8入りを達成するために気合を入れ直す。運命の延長戦がスタートした。
高橋秀徹
所属 リヴァプール・レッズ
市場価値:2億1000万€
今シーズンの成績:43試合、35ゴール、20アシスト
総合成績:106試合、80ゴール、43アシスト
代表成績:11試合、9ゴール、3アシスト
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