チャンピオンズリーグ出場へ

第20節時点で、首位を走るユヴェ・トリノは勝ち点を48としており、ミランfcは39。この9という数字を覆すには、ユヴェが3回ミランよりも多く負けなくてはならない。ユヴェの戦力から言って、それはかなり考えづらいことだ。

ただ、三位につけるナポリFCは勝ち点42。得点力においてはセリエAのクラブでもローマを超えるほど圧倒的なのだが、防御力にやや難があり、敗北は少ないものの、引き分けなどで取りこぼす試合が多かった。到底得失点差では勝てないだろうが、勝ち点で追いつき、追い越せる範囲だ。


そして、第21節以降、ここまで苦杯を舐めてきたミランの大逆襲が始まった。

思えば、2010年のクラブのバンディエラであるマレディーニの退団に始まり、イバラヒモビッチ、シムバというFWとDFを率いていたスター選手の同時売却による戦力低下、また獲得した選手の相次ぐ負傷やミスマッチが続き、一時期は欧州でもNo1のクラブで間違いなかったのに、その格も大暴落していった。


ようやく、その暴落にも終わりの兆しが見えたのだ。21節は2-1、22節のアトランタ戦では1-0、23節は4-0と怒涛の4連勝をしてみせた。秀徹はクラブミラノ戦から4試合連続でゴールを奪い、4試合で6ゴールとまさに獅子奮迅の働きをしていた。


第24節の相手はユヴェ・トリノ。前回惨敗を喫した相手だ。このチームは本当に守備意識が高く、実際にリーグでも最小失点に抑えている。単純に守備にかける人数が多いというのも守備が固い理由である。

ただ、前回秀徹が何も出来ずに終わったのは彼が一人でその守備をこじ開けようとしていたからだ。今回は心強い味方がいる。


中央から秀徹たち三人が素早く攻め入ると、ユヴェの守備陣は少しもたつく。通常、チームでは守備の際にどこへ追い込むか決まっており、ユヴェの場合はサイドへと追い込むことになっている。だが、中央で動き回って崩していくミランのトライアングルをそちらへと追いやることが出来ない。

さらに、守る人数を多くしてもその間のスペースや、人と人の間のどちらがそこへボールが出たら、守備しに行くのか曖昧になったゾーンを突いてくる。厄介な相手だった。

前半41分にそうやってペナルティエリア内に侵入され、秀徹によるシュートを許して失点。1-0でミランは折り返した。


しかし、そこからのユヴェは強かった。ハーフタイムには守備能力はいまいちなピャナックを下げ、守備能力に特化したMFであるケディアを入れた。これで中盤と中央における守備能力がぐっと高まった。

ただ、中盤のつなぎの役目や攻撃のスイッチを入れる役割を果たすピャナックを下げることは、ユヴェの攻撃力の低下を招き、攻撃の役割のほぼ全てをFWに丸投げするようなものであった。普通ならば下策だ。しかし、ユヴェのFWのクオリティは普通ではないのだ。


後半5分、ロングフィードを出すに出せず、後ろで回していたミランDFからボールを奪ったディブラが単騎突進。彼もトリッキーな技を使うことよりかはシンプルに相手の重心の逆を突くドリブルを仕掛けるのを得意としている。

ミランの最強DFであるロマニョーレはそれを止めにかかったのだが、トントントンと三歩リズムを刻んで左足のつま先で持って近づかれ、一気に右方向にリバースをかけられて完全にフェイントに引っかかり、その隙を突かれて左にかわされ、最後は彼の強烈な左足のカーブシュートでゴールをこじ開けられた。ディブラの最も得意とする形からやられてしまい、彼は悔しがったが、もう手遅れだ。


さらに、後半15分にはイグアレンを下げて投入されたマントキッチが身長190cmという長身を活かしてクアドレードからのクロスに頭で合わせて追加点。結局2-1で敗北する結果となってしまった。


とはいえ、ユヴェに対して良い試合を展開できたのは確かで、試合後にはディブラが秀徹の元に駆け寄り、ユニフォームを交換することになった。


「いつか君と一緒にプレーしてみたいな。」


という言葉を残して彼はドレッシングルームへと去って行った。



その敗北の後もミランは勢いを失わず、第35節まで快進撃は続いた。11試合で9勝1分1敗。勝ち点は合計で76点となった。1位のユヴェは87点を獲得してほぼ優勝が確定していたが、2位のローマの80点、3位のナポリの78点には追いつく余地があった。

秀徹は11試合の内、9試合に出場して7ゴール2アシスト。今季の合計は29試合20ゴール7アシストとなる。すでに18ゴールを優に超えており、得点ランキングでも上位につけており、得点王は現実的ではないが、トップ3につける可能性は十分にあった。

特に、本多、バッキとの連携強化からドリブル回数こそ減ったが、シュート本数自体は急増し、後半戦はここまで13試合で13ゴール。リーグ後半戦だけの得点率はダントツでトップを走っていた。ちなみに、秀徹が出ない試合に彼と非常に仲の悪いサソの出番があった。また、カップ戦は彼の出場機会確保の場となっていた。彼と素早さのあるデウロフェオのコンビもそれなりの結果を残していたのだが、今季形成されたトライアングルには到底及ばなかった。



〜〜〜〜〜



ミランは最終節の38節でナポリFCとの試合を控える。その試合までナポリが全勝だったとしても、ミランも全勝ならばその試合で勝てば三位になれる。故にここからは特に負けられない試合が連続する。


第36節はリーグ16位にまで沈むジェノアシティとの一戦になる。今季は低迷しているものの、堅守速攻のコンセプトを打ち出しているチームであり、いくら格下とは言えども油断できない相手だ。

ただ、こちらの監督のモンテナも必死だ。伝統的なカウンターを打ち出すジェノアに対策を立てようとする。そして思いつく。要は、カウンターされなきゃいいんだろ、と。

その対策とは攻撃をミランが誇るトライアングルに任せ、他の中盤やDFは下がり、カウンターを仕掛けようとしてもすでに相手陣地にいるから中々うまくいかないという状態を作り出すというものだった。


「バカな…、そんな策は俺たちフォワード陣への過度な負担を強いるだけです!」


置きに行き過ぎていて、すっかり守備的になってしまった監督をバッキは責める。もし相手が前のめりなチームであるならばそれも通用するかもしれないが、これではどちらも同じような守りに入ったチームになり、点を取れない。これでは勝つという目標からは遠ざかってしまう。

が、監督はそれを押し通して試合は始まってしまう。


試合ではこちらも相手も3人程度で8人が守備する陣地へと攻め込んで点を取らねばならないような状況となってしまう。「引き分けでも御の字だよ」とファンが語っているような相手チームはそれでもまだ良いが、ミランにとって引き分けは致命的だった。

全く面白くない試合展開にチャンピオンズリーグでミランが再び活躍することを夢見るファンたちはヨンシーロで激しくブーイングを浴びせた。が、監督の指示は絶対。中盤の3枚も仕方なく守備を続けた。


そして、本当に何事もなく試合はハーフタイムに突入した。ブーイングを浴びせるファンと同じく、選手たちも不満を抱えていた。

結局、ドレッシングルームでも監督はこちらの意見を聞かず、とにかく「点を取られたら終わりだから守り抜け」の一点張りであった。点はどうやって取るのか?と聞いても、コーナーキックやフリーキックなどのセットプレーに持ち込めば良いと答えるのみだった。ちなみにセットプレーはこのチームは苦手であるし、もしそれに力を入れるならばカウンターされるリスクを負うことになる。


秀徹はそんな声を聞いて気が遠くなりそうだったが、その場で自力で何とかしようと心に誓った。

選手としての自己同一性を主張するならば、他の誰かがやれないことをやり切ることが重要だ。この場合は自らの力でゴールを揺らすことになる。幸い、最近は三人の連携で崩すことが多くて相手は秀徹のドリブルを前ほど警戒していない。チャンスだと思った。



後半1分、開始して早々秀徹は仕掛けた。キックオフしてからすぐに本多に預けて自身は前へと進む。本多はとりあえずバッキに渡して様子見した。

普段は彼らはトライアングルを意識しているので、あまり一人だけで前に出ることはないが、秀徹はそれも気にせず一人で突っ走っている。


(アイツ…、一人で行こうとしてるのか…!)


それを感じ取った本多は一瞬どうしようかと迷ったが、彼に賭けてみることにした。一回やってしまえば警戒心は強くなり、二度と一人で崩すようなことはできなくなる。が、秀徹になら賭けてみる価値があった。


バッキから半ばボールを奪い取り、本多は縦パスを通す。あまりにも急に自陣に侵入してきた秀徹に、相手も少し戸惑ってマークも緩かったのでパスは問題なく通った。が、そこからが勝負だった。

ボールを受け取った秀徹はまず寄せて来る中盤の選手二人と対峙する。一旦止まってしまったので早く抜かねば囲まれてしまう。


迷った挙げ句、秀徹は左サイドへとドリブルすることにした。左サイドは彼の陣地のようなものだ。

左サイドに到着すると、次は相手の RSB(ライトサイドバック)が待ち受けていた。さらに先程対峙した中盤の二人もぞろぞろとついてきている。これで三人に囲まれた。

正面から突破することは敵わないと諦めた秀徹はそのままズルズルと前へとドリブルし、コーナーフラッグの近くへと移動する。

そこで詰められた秀徹は、タッチライン (出たらスローイングになる線)際で最早やることもなく後ろを向いてボールキープすることになる。絶体絶命だった。


しかし、そんな中でも秀徹は秘策を持っていた。今までに披露していない技だ。

それができるかまずは状況を確認する。タッチラインと平行に立って、ピッチ中央に背を向けている秀徹の側から見て、相手の位置は真後ろに一人、左後ろに一人、そしてその二人と2mほど離れたところにもう一人いる。離れている選手は秀徹から見て左の方に位置しており、この技の邪魔にはならなさそうだ。


(こんな使い道のなさそうな技にも使う場所が用意されるなんて…。技はいくら覚えても足りないなあ。)


そんな風に思いながら秀徹はミランの今後を賭けたドリブルを開始した。

秀徹の真後ろに張り付いているDFは、秀徹に縦へとドリブルされないために秀徹の右側から張り付いていた。なので秀徹は縦へはドリブル出来ない。かといって秀徹の左手には相手がもう一人いる。

で、どうしたかというと、秀徹は左へと右足の甲で地面を転がすようにボールを移動させ、左にいる選手が足を出して来る瞬間にそのまま自分の真後ろで張っている選手の後ろにボールを通して自身は小柄な体を活かして張っている選手をかわしてその場を見事に凌いだ。

真後ろにいた選手は視界の外にボールが出ていて何が起こったかわからず、左後ろにいた選手は反応出来ても周りに選手がいて動けず、さらに離れていた選手は気付いたらボールが前にあるような状態。この混雑した状況を利用した突破だった。


縦への突破に成功した秀徹はそこからゴールへとドリブルを開始した。

角度のないところからシュートしても入りにくいので、秀徹としては少し斜め右にいってシュートしたかった。が、時間をかけてると敵はわらわらとボールに集(たか)ってくる。

決着を急がねばならなかった。


相手が立ち塞がると、秀徹はシザースを二回ほどしてからシュートするモーションに入る。シザースはあくまでそれで抜こうというのではなく、抜こうとしたという既成事実を作ろうという意図のものだ。

つまり、何もせずにシュートを打とうとするフリをしてキックフェイントをかけるよりも、シザースをして相手を抜こうとしてからシュートを打つフリをする方が相手に (ほんとにこいつシュート打つのかも)と思わせやすいということだ。


その策略にまんまとハマった相手はブロックの体勢に入ったので、秀徹は右斜めへとドリブルしていき、ゴールの右縁を狙ってシュートを打った。シュートを打った反動で秀徹は横に転げた。


しかし、焦り過ぎたのか角度がないところで打ったため、キーパーはそれをパンチング。ここで彼の攻撃は終了するかと思われた。が、ここでサッカーの女神がミランに微笑んだ。コロコロと転がったボールの先にいたのはノーマークの本多であった。他のDF陣も秀徹に気が取られていて、人が密集していたのもあって彼のマークにつく人がいなかったのだ。


「パシンッ」


と打ったシュートはゴールを揺らし、ミランは待望の先制点を物にした。


そこからはまさに監督がしたい守りのサッカーを貫き通し、結果は2-0。最後、相手が守備を捨てて前のめりに攻めてきたところをカウンターしたところ秀徹は難なく1点をもぎ取ってきて追加点も獲得できた。堅守速攻で逆に点を取られるというのはジェノアにとって皮肉めいた出来事であったが、見事にミランが勝利した。



高橋秀徹


所属 リヴァプール・レッズ→ミランfc(Loan) 

市場価値:????万€

今シーズンの成績:30試合、21ゴール、7アシスト

総合成績:60試合、41ゴール、20アシスト

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