第17話 仲間が増えた(対応策4)


 いよいよ、最後の、そして最大の問題についてだ。


 「リバータの骨について、砂浜に散乱していると言っても、そのまま人手を入れて運び出すのは無理というものであろうな」

 と、まずは大臣が問題を提起する。

 「ケナンさん、そもそも何本くらいが砂浜に散乱しているのか、また、それは半分埋まっていたりするのか、状況を教えて下さい」

 俺、それを受けて、まずは状況を確認する。


 「完全に姿が見えている、もしくは半分砂に埋まっているくらいで、回収が楽そうなのを数えるのであれば、20本くらいです。

 あとは、より深く埋まっていそうだったり、波打ち際から深いところにかけてあったりで、回収にちょっと苦労しそうなのが、30本くらいでしょうか」

 根こそぎ持ってこられて、50本か……。


 エモーリさんも確認した。

 「すべての骨が、針状ではなくて、分岐しているのですか?」

 「はい、人の身長くらいのものは針状のものが多かったですが、大きいものは分岐していましたね。これが50本です」

 「では……、短いのも含めて、すべて持って来たいですね。

 分岐している骨は、水車の外周を支えるのに最適です。

 必要本数が、見込みの半分ですみますから。しかも、軽量化ができますから、より揚水効率があがるでしょう。

 なんならば、2つ目の水汲み水車ノーリアを同時進行で作ってもいいです。

 給水量が倍になれば、王の提案である街中の生活給水までの余裕も十分に生まれるでしょう」


 うわー、2基同時稼働開始かよ。

 すごいなぁ。水の余裕は社会の余裕だよ。こんなこと、考えたこともなかったけどさ。

 1分間に200リットルの供給ができるってことになるから、5分で1トン。そう考えると凄いよね。

 ……「街中花いっぱい運動」みたいな、俺ならば絶対参加しないようなベタな活動ができるってのは、贅沢なことだったんだなぁ。


 「短い骨も使い道が?」

 これはハヤットさん。

 エモーリさんが答える。

 「ええ、いくらでも欲しいです。

 王命のネヒール川の架橋にしても、石によるアーチか、吊橋かどちらかでしょうけど、アーチを作るならば、まずはアーチの形の下台の架橋が必要になります。

 シュッテさんがいるのに、出しゃばって話してしまいますが、下台の架橋を作って、その上に石をアーチを作るように載せたあと、下台の架橋を撤去するのです。

 大昔からのアーチ橋はあるのに、新造の橋が作られないのは、この下台の架橋を作る部材がないからなんです。

 吊橋を作るのにも、ロープから下げる強度が高い、安心できる踏み板が必要です。踏み板を踏み抜いてしまったら、命に関わりますからね。

 どちらにしても、強度の高い材は必要不可欠なんです」


 一番若い魔術師さんも発言した。

 「それだけじゃありません。

 円形施設キクラを作るのに、屋根をどうするかが問題でした。

 石のアーチで作ろうってシュッテさんと相談していましたが、どうしても重い素材ですから支える壁も厚くなる。板ガラスの入手など、もうとても不可能なので、暗い建物になるはずでした。

 屋根材に使わせていただければ、とても軽く強い屋根ができそうです。

 既存のものよりは暗くても、最初の設計より遥かに良いものができます」

 

 おお、こっちもかぁ。

 これは、風化が進んでいない骨は、それこそ根こそぎ持ってこなきゃだ。

 俺が持ち込んだスギとかヒノキは、最低でも20年は成長させないと使えないだろう。

 その間を繋ぐのに、リバータの骨はいくらあってもいいよね。


 大臣がまとめる。

 「となると、リバータから見えないよう、入り江の外に一時的な集積所を設けて、回収できるものはすべて回収する必要があるな。

 可能な限り、入り江内と集積所に、何回でも往復する必要があるということだ。これは、一歩間違うと命がけの鬼ごっこになる。

 なにか、良い案はないか」


 良い案と言っても、人海戦術以外の手を思いつかない。

 電気ショッカーも、そんな長い時間動きを止めてはいられないだろしね。最初の想定より、骨の量が多いんだ。その分時間もかかる。

 かといって、いまさら欲張らないって手もないよな。


 ハヤットさんの呼んだ100人と、あとはこの町の若いもんの有志、当然俺も行くけど、最大で150人くらいかもしれない。

 その人数で、月の出ない夜間にリバータが交尾のために入り江から出たら、その間に突撃をかけるしかない。暗闇で能率は上がらないけど、贅沢は言えない。

 コンデンサは、当然持っていく。もしもの事態のためだ。

 20年、木材が成長するのを待たねばならないのであれば、俺、無理をしてでも行くよ。



 そこで、ケナンさんのパーティーの、レンジャーのジャンさんがおそるおそるって感じで手をあげた。

 「実は、魔獣トオーラと遭遇しないように、荷物とかに付ける香油があります。

 僕のオリジナルなんですが、ものすごい臭いなんです。腹を減らしたトオーラですら避けて歩くほどに。

 それを布かなにかに染み込ませて、矢にくくりつけて、弓使いのアヤタにリバータの鼻先に飛ばしてもらったらどうでしょうか。

 臭いはとんでもないですけど、人畜無害です。

 そして、3日もすれば、臭いは出なくなるんです」


 「ジャン……、お前、良いのか?」

 ケナンさんが問う。

 「ケナン、君の懸念はもっともだと思う。

 でも、僕は見てみたい。

 『始元の大魔導師』様の介入した世界が、どこまで豊かになって、どこまで人がいにしえの栄光を取り戻せるかを。

 パーティーの一員としては君に従うけど、この香油は僕が自然の中を彷徨うろつきながら発見した、僕のオリジナルだ。

 それを供出することは、君を裏切ることにはならないと思ったんだ」


 弓使いのアヤタさんも同じように、遠慮がちに声を上げた。

 「さっきの、トーゴの流れに安全索を張る仕事だけど、俺も、協力してもいいかなって思っていた。

 俺が、細い糸を矢に結んで飛ばせば、危険を冒して川を渡る必要がなくなる。あとは、その細い糸を手繰って、太い綱にしていけばいいだけだからな。

 今の、リバータの鼻先に香油を打ち込むことも、俺ならば容易い。

 ケナン、君の意思には従うが、俺は手伝ってもいいと思っている」


 全員の目がケナンさんに向く。

 そして、ケナンさんが口を開くより早く、魔術師のセリンさんが声を上げていた。

 「ジャン、気がついてないの?

 ケナンは、ジャンに『お前の香油を出すことについて、お前は良いのか?』って聞いたのよ。

 ケナンの意思は決まっている」


 ケナンさん、立ち上がってから、あらためて片膝をついた。

 右手を胸に当て、王様に向き合う。

 「我が名はケナン。

 これより、我がパーティーは、ギルドに籍は置きますが、ダーカスの王に忠誠を誓う」

 その場が、しーんって静まり返った。


 「ケナンさん、ケナンって仮名じゃなかったの?」

 思わず、横から聞く俺。

 「私、一度だって、そんなこと言ってませんよ。

 最初から正直に名乗ると、逆に誰もそれを本名と信じない。

 当てずっぽに呪文を唱えても、ケナンの名を唱えることは決してない。

 でも、この場で、この街の中心となる人達の前で名乗りましたからね。

 私の気持ちとしては、そういうことです」


 「そうは言うけど、さっきまでは露骨に王様を疑っていましたよね?」

 「ええ。

 でも信じたのは、『始元の大魔導師』様のお言葉からです」

 「えっ!? なんの話よ? 俺、なんか話したっけ?」

 俺、王様の肩を持つようなこと、なんか言ったっけ? 覚えがねーよ。


 「ダーカスの王が覇権を持つ望みを秘めているとして、ですが……。

 5日働いたら2日休むというペースで、世界征服しようなんて覇王はいませんよ。

 神の国を作ろうなんて煽る覇王はいますけど、リゾートでしたっけ? それを公約する覇王はいません。

 普通、王様ってのは、自分専用のリゾートを民に隠して作るもんなんです。

 となれば、『始元の大魔導師』様の提案も、それを受け入れる王も、その動機は善なるものと信じるしかないじゃないですか」


 ああ、そういう……。

 俺、もう、当たり前になっていて、そんな王様の善意の発露も、『そういうもんだ』と思っていた。

 でも、言われてみりゃ、確かにそのとおりだ……。

 

 「ケナンよ。

 忠誠には必ず報いる。

 だが、一言、言おう。

 余がその善なるものを信じているのは、『始元の大魔導師』殿との前世からの因縁のためなのだ。

 余はそれを忘れてしまっているが、『始元の大魔導師』殿はそれを覚えていて、余とともに、いにしえと同じ人の世の栄光を取り戻そうとしてくれておる。

 余としては、その善なる意に最大限に従うのみなのだ」

 ケナンさん、さらに深々と頭を下げた。



 ちょ、王様、アレ、まだ信じてたの!?

 初めて会った時にぶちかました、俺の与太話。

 ……もう、口からのデマカセだって白状できない。

 どうしよう……。

 バレたら死んで謝るしかないけど、「前世で会っていない証明」なんて絶対できないから、もう、一生逃げ回るしかないよなぁ。

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