第74話 美酒は勝者にのみ注がれる

「さてさて、見るのが楽しみだなぁ」


「俺らは負けた側だから、一番大きい攻略報酬が無いんだよ……見るのが憂鬱だぁー!」


 くそぉー、と頭を抱える晴人を見ると、頑張ったかいがあったなと思う。人間側はダンジョンの宝箱から色々と手に入っており、中にはポイントを手にいれた羨ましいやつもいる。人間は俺達魔物と違って『隊長格を倒す』とか、『ネームドモンスターを倒す』とか色々とポイントを入手する機会があったが、こちらは能動的なポイント入手手段が『人間を倒す』だけだ。

 他はダンジョンコアからの配給だけ……さぞかし防衛成功報酬とランキング報酬が大きいんだろうなぁ?と言いたくなる。


 騒ぐ晴人を鼻で笑って、VRの公式ホームページにログインする。まず目に入ったのが、『祝・防衛成功!』の文字。画面の中で気合いの入った花吹雪やクラッカーのエフェクトが飛び交った。キラキラと防衛成功の文字が煌めき、その下に続く『ランキング』や『防衛成功報酬と全体リザルト』、『ポイントショップラインナップ』の文字も同様にキラキラしている。


 とてつもなく派手だが、それでも何処か品格に満ちている。豪華さと上品さが綺麗に同居しているな。スマホから変な音楽が流れ出していない事を確認して……取り敢えず、一番上のランキングから見ていくか。


「ほー……ランキングは五つで、上位五名が貼り出されるのか」


 人間の討伐数、人間に与えた総ダメージ数、人間に与えられた総ダメージ数、魔物への回復量、イベントポイント獲得数。多分3つは名前が入ってるだろうな、と予想して一つ一つ開いて確認した。


『人間の討伐数ランキング』

 人間をキルした数が全魔物プレイヤーの内で上位五名に該当するプレイヤーに、三、四、五位は500ポイント、二位は1000ポイント、一位は1500ポイントが配当されます。

 ※ここでの『キル数』は人間のHPを0にした回数の事です。


 一位:『大隊長』カルナ 1676人

 二位:『大隊長』ライチ 1050人

 三位:『大隊長』F 792人

 四位:『大隊長』プレイトゥース 621人

 五位:『大隊長』★≡=ー 620人


 カルナの無双具合よ。終盤、俺はカルナの守りに専念してあまり闇魔法を撃っていなかったし、クラン『フルメタルクラウン』が現れた後なんかは、フルメタに庇われて殆ど手が出せなかった。途中で出したメラルテンバルやオルゲスが大分敵を片付けてくれたが、それは恐らく俺のキルには入っていないだろう。


「にしたってえげつないな、カルナ……」


 敵が来たのが大体一時間経ってからだ。それからずっと戦い続けていたと仮定すると、戦闘時間は7200秒。これをキルした1676で割ると、大体4となる。

 ……つまりだ、カルナが敵を一人片付けるのに費やした平均的な時間は約4秒という事になる。完全に頭がおかしいな。大方炎の巨人に変身して死ぬこともなく延々と暴れまわっていたのだろう。馬鹿みたいに硬い大部屋の青い地面をクッキーみたいに砕く極振りのSTRと、実質不死身の肉体、底が深すぎる集中力。噛み合わさってはいけないものが噛み合わさった結果がこの数字なのだろう。


 俺の下はF、プレイトゥース、ヒトデと続いている。Fは広範囲をノックバックの乗った風魔法で攻め続け、プレイトゥースは雷を撒き散らしながら戦場を駆け巡っていた。ヒトデの人は……たまーに足元で魔法を撃ちながら高速で走っているのを見かけたな。とてつもなく速かった。

 シエラとコスタの名前が無いのが意外だが、流石にレベルが低かったのと、シエラが初めての戦いに緊張してペース配分をミスった事が原因だろう。あの二人が来たのがそもそも後半ということもあるが。


 さて、取り敢えず1000ポイントは戴いておこう。次は……与えたダメージ量にしてみるか。


『人間に与えた総ダメージ量ランキング』

 相手の生死に関わらず、人間に与えた総ダメージ量が全魔物プレイヤーの内で上位五名に該当するプレイヤーに、三、四、五位は500ポイント、二位は1000ポイント、一位は1500ポイントが配当されます。


 一位:『大隊長』カルナ 1,743,040ダメージ

 二位:『大隊長』ライチ 1,012,143ダメージ

 三位:『大隊長』F 89,996ダメージ

 四位:シエラ 72,055ダメージ

 五位:『中隊長』ケミカル納言 69,200ダメージ


 相変わらずのカルナ無双だ。俺は呪術でひたすら地道にダメージを稼いでいたから、順当だな。与えた相手の生死を問わないならば、完全にオーバーキルなダークピラーを魔法耐性が無さそうなプレイヤーに撃ち込めば沢山稼げそうだが、そんな余裕は微塵もなかったし、そもそも仲間内で争うイベントじゃなかったからな。

 驚く事に四位にはシエラがいる。MAG極振りの魔法でDPSを稼ぎまくったのだろう。五位にも見たことの無いプレイヤーがいる。やはり俺達が見ていない場所でも、戦いは激化していたのだろう。そこには彼らの戦いがあって、その結果がこのランキングなのだろう。素直に頭が下がる思いだ。


「次は……人間に与えられた総ダメージ数か。……はは、まあそうなるよな」


『人間に与えられた総ダメージ数ランキング』

 プレイヤーの生死を問わず、人間に与えられた総ダメージ数が全魔物プレイヤーの内で上位五名に該当するプレイヤーに、三、四、五位は500ポイント、二位は1000ポイント、一位は1500ポイントが配当されます。


 一位:『大隊長』ライチ 1,774,302ダメージ

 二位:『大隊長』カルナ 1,113,482ダメージ

 三位:『中隊長』IMMALIA 788,482ダメージ

 四位:『中隊長』DOX 597,431ダメージ

 五位:『小隊長』ネクスト! 304,099ダメージ


 これは酷い。明らかに俺とカルナだけ頭ひとつ飛び抜けすぎている。確かに、俺達の体力は大体多くても1000あればいいほうだ。それなのにヒーラーの殆ど居ない戦場でその百倍近いダメージを受けるなど不可能にも程がある。延々と回復し続ける俺と、同じく延々と立ち上がり続けるカルナだからこそ打ち立てられた記録だな。

 次のランキングは回復量ランキング。まあ、注釈に自己回復は含まない、と書いてあるし数少ないヒーラーのプレイヤー達の腕の見せ所だろう。……そういえば大隊長の中にヒーラーは一人も居なかったな。よく最後まで持ったものだ。


『魔物プレイヤーへの回復量ランキング』

 魔物プレイヤーに対する回復量が全魔物プレイヤーの中で上位五名に該当するプレイヤーに、三、四、五位は500ポイント、二位は1000ポイント、一位は1500ポイントが配当されます。

 ※回復量は自分以外の魔物プレイヤーを回復させた量になります。


 一位:『中隊長』キッカス 668,307

 二位:『中隊長』フレキシ 405,115

 三位:リボーン 424,287

 四位:『小隊長』暁山茶 396,808

 五位:『小隊長』お前の後ろだ 365,143


 あまり名前を知らないプレイヤーが順位に入っていた。やはり魔物プレイヤーの中でヒーラーをやる人はあまり居ないのだろう。基本的に魔物に必要とされるのは攻撃力や生存力だ。ヒーラーが単体で居ても人間と戦えないし、それどころか魔物と戦ってレベル上げをすることすら難しい。

 悲しい魔物事情に渋い顔をしながら、最後のランキングを開いた。


『イベントポイント獲得数ランキング』

 このイベントで入手した総ポイント数が全魔物プレイヤーの内で上位五名に該当するプレイヤーに、三、四、五位は500ポイント、二位は1000ポイント、一位は1500ポイントが配当されます。

 ※人間一人を討伐することで得られるイベントポイントは一律1ポイントです。


 一位:『大隊長』カルナ 11,176ポイント

 二位:『大隊長』ライチ 10,050ポイント

 三位:『中隊長』キッカス 8524ポイント

 四位:『大隊長』プレイトゥース 8333ポイント

 五位:『大隊長』F 7,792ポイント


 あまり順位に変動は無い、と思ったが……まさかのキッカスがランクインを果たしている。あまり差は無いが、回復量ランキングの一位報酬がかなり大きかったのだろう。たった一人だけ大隊長の中に食い込んでいるキッカスは、衛生兵の活躍が正しく判断された結果と言っても良いだろう。

 俺とカルナの順位はあまり変わらないが……というか、どこかで俺が一位を取っていれば点差が逆転していただろうが、結果は二位だ。何だかちょっぴり悔しいが、燃えてるカルナに勝てるビジョンが微塵も浮かばないので、順当な結果と言われてもしょうがないだろう。


「あれに勝つとか無理が過ぎるだろ……」


「あのカルナって名前の燃えてる子ー?」


「うん。ほとんどの場所でランキング上位を取ってるな……無理もないわ」


「RTAさんが一回目に戦った後に、珍しくやる気無くしてたな。『無理、勝てない』って言ってて二度聞きした。案の定脛蹴られたわ」


 そりゃあ蹴られるだろう。無理だ、と言うだけで悔しいのに二回も言わされるなんて。まあ、それを言う事が全く信じられないような性格だとしたら聞き返す事に無理もないが。晴人がいきなり、勝てない相手がいるなんて言い出したら間違いなく俺も同じ対応をしているだろう。……どんな化け物だよ。


「カルナって名前……どっかで聞いたことあるんだよなぁ……」


「にしたって本名でゲームするような奴は今時居ないだろ」


「それもそっかー」


 晴人の呟きに軽く答えを返しながら、防衛成功報酬を開く。少し長い読み込みの後に、ページが開かれた。



『防衛成功報酬』

 コアの残存HP:44% 評価:『半壊』

 五段階評価の内、三段階目。

 報酬:『イベントポイント3000』『SP3』『ステータスポイント50』『特異ダンジョンマトリオ内部へのポータル開通』


『全体リザルト』

 野良魔物最終生存率:14% 評価『全滅寸前』

 ネームドモンスター7体の内、7体が死亡。

 人間のダンジョン攻略率:86%

 一般魔物プレイヤー最終生存率:16%

 小隊長最終生存率:21%

 中隊長最終生存率:34%

 大隊長死亡者:無し


 防衛成功、本当におめでとうございます。



 妥当だな。コアは半壊していたし、魔物は殆ど人間に狩り尽くされていた。掲示板によると『七つの大罪』とかいう仰々しいものを背負っていたネームドモンスター達は普通に全滅してる。それでいいのか、七つの大罪。流石に全員生存は不味いとしても、四階層にいた奴くらいは生き残って欲しかった。

 人間のダンジョン攻略率は八割……殆ど攻略済みじゃねえか。あとは少し行ってない場所あるかなー? 程度だろ。よくもまあこれで持ちこたえられたものだ。それだけ上の層の魔物たちが頑張ったことは、生存率からも明らかだろう。上層はかなり人数が居ただろうに、その中で1割しか生き残れていない超激戦地区だったようだ。


 報酬は素直に嬉しい……レベルが5個上がったのと変わらないステータスポイント貰えたな。あと、なんやかんやでポータルが開通してるな。多分触れなくても行けるタイプだと思う。……ってことは、さし合わせれば魔物達で集まれる?


「うっそだろ、ここに来て魔物の集会所みたいなところが解放されたわ」


「へー。魔物って町とかいままで無かったんだし、ようやく集まれる場所が手に入ったのか」


 どうした、運営。中々に良いものを俺たちにくれるじゃないか。……罠とか無いよな? 迷宮の敵が全員襲い掛かってくるオプション付きとか。それでもキレながら全滅させる余裕はあると思うが、間違いなく運営に直訴する案件だ。

 それにしても……ようやくか。俺達はこれまでバラバラに散らばって、目的も殆ど無く、実質オフラインのバランスぶっ壊れのゲームから解放される。そこに集まれば会話……は出来ないだろうけど意志疎通は出来るだろうし、必然的にパーティーが組める。同じ種族どうしだったらお喋りも出来るのだ。


 漸く俺達は安住と安寧の地を手に入れた。……多分現在進行形で人間側に迷惑と思われている迷宮の中だけどな。破壊されないように気を付けねばなるまい。


「ぎぃぁぁ!総合ランキングで『すくらんぶる』に負けたぁぁ!あいつら何ちゃっかりネームドモンスター独占してんの!?七体しか居ないんだから四体も倒したら他が困るだろぉ!?」


「……」  


 隣で叫ぶ晴人を見て思った。なんか……割とすぐ破壊されそうな予感する。じーっと晴人を見つめていると、こちらの視線に気がついたらしい晴人が首を傾げた。


「どーした? 俺の顔に何かついてるか?」


「いや、別に……もうすぐ予鈴が鳴るし、移動しようぜ」


「おっけー……そっか。結局俺、コア殴れてないのか……」


 最悪だぁ、と呟く晴人を尻目に、ゆっくりと席を立った。もう一度、大隊長たちに会えるだろうか? 小さな期待を胸に秘めた俺の足は、少しだけ軽くなっているように感じられた。

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