第24話 作戦会議は脳内で

「こ、これで戦力は……大丈夫だと、思います……」


「そ、そうか」


「これで、守るだけならいけそうね……ふふ」


「お、おま……」


 ロードがフードを両手で深く握りながら言う。そういうことされるとこっちまでどう反応したものか困る。それを非常に楽しそうな顔で見つめているのは、もちろんのことカルナだ。スレッジハンマーを肩に担ぎながら、えらく楽しそうにしているカルナの首元に噛み付いてやろうかと一瞬思ったが、流石にセクハラだろうと自分を諌めた。


「さて、進化できたし、仲間も集まった。新しいクエストも受注できたし、今日はこれくらいでログアウトする事にするわ」


「……そうか。お疲れ様」


「お疲れ様です」


 恐らくログアウトしたのであろうカルナの体が倒れる。割と重力に従って。その目には光はない。……俺も毎回こんな感じで落ちてるのか?一応装備はそのままついてるから、その装備のままバタンって倒れてるのかな?

 色々と考えていると、ロードがこちらに背を向けた。


「ぼ、僕も不死者の皆さんに事の概要を話してくるので、これで……」


 逃げるようにスタスタと走るロードに、何か声をかけようかと思ったが、かける言葉などそう都合よく思いつく訳も無く、渋々俺もログアウトする事にした。画面を操作して、ログアウトを選択する。途端に、世界が暗くなって、乖離して行く。

 最後に見えた景色は、足を止めて遠慮がちにこちらを振り返ったロードが、赤い顔で手を振っている様子だった。


【ログアウトします】


【……お疲れ様でした】



 目を開ければ見慣れた天井。ゆっくりとヘッドギアを外し、箱にしまった。そしてゆっくりと枕に仰向けに倒れこむ。全身の力を隈なく抜いて……叫ぶ。


「……可愛すぎるだろ! クソ!」


 なぁぁぁぁ!! くそ、ゲームの中のたかがAI一つに恋などするものか。可愛いと思うことはあれど、所詮はデータの塊。そもそもAIの思考だって最早ゼロと一の集合体で、時間さえかければ誰だって生み出せるデータの――


『僕のって、付けてくださいよ』


「うわぁぁぁ……!」


 瞼の裏に、鼓膜の隅に焼き付き反芻しているのは、まぎれもないデータの塊の声とありよう。それが俺を、ここまで追い詰め、緊迫させている。もうあれ、中に人入ってるだろ……あぁ、気恥ずかしくて甘酸っぱい。


「VRの人気の深淵を垣間見た気がする」


 うつ伏せのまま、ぼんやりと呟く。はぁ、とため息を吐いて、時計を見てみると、9時。多分明日の9時か10時がゲリライベント『月紅』の開始時間だろう。多分もっと前に赤い月は登ってるだろうが、イベント開始時刻は恐らくもっと後だろう。

 ……エリアボス三体VS元グレーターゾンビ、俺、ロード、カルナ……一対一じゃ無理臭くないか?雑魚敵もいるだろうし……。


 出来ればイベント前にもう一角落としたい。落とすとなれば最も俺の脅威たり得るハイリッチの方面なのだろうが、それはグレーターゾンビ方面の反対側だ。

 隣り合っているスケルトン方面やスカルドラゴン方面ならまだしも、戦力の分散するハイリッチ方面を落とす意味は薄いんじゃなかろうか。距離的な問題で、俺、ロード、カルナの三人全員が鈍足だ。まだグレーターゾンビの方が早いまであるぞ。


「二つは流石に無理だ……グレーターゾンビクラスの相手を一人倒すだけで重労働だってのに……」


 となると、残された選択は二つ。スケルトン方面か、スカルドラゴン方面か。……ネームドモンスターのいるスケルトン方面……いや、しかし、スケルトンは単体が雑魚に等しい。レベル8とか10とか、ここじゃ話にならないぞ。

 だが、一番雑魚の数が多いのもここだ。数で押し切られれば、さしものグレーターゾンビも辛かろう。最低でも時間単位の戦闘になることは間違いない。夜が明けるまで……は流石に防衛させないだろう。やらせても2時間ぐらいがいいところじゃないか?

 ……まあ、なんにせよ。全力で行かなきゃ墓地が滅ぶ。


 抱き合い、お互いの生を喜び合う剣闘士の姿が思い浮かんだ。彼らだって、この墓地が滅ぶのは好ましくないはずだ。

 取り敢えず今日は0時からアプデでやれない。どちらにせよ俺は天辺を回れないがな。


「ご飯よー」


「はーい、今いく」


 夕食をとったら……明日に備えてささっと寝るか。あ、忘れずに『黒剣士』からのフレンド申請を許可してっと。


「ふぅ……さて、忙しくなるぞ」


 気まぐれで部屋のカーテンを開けてみると、二百五十点満点な空が、ゲームの外でも見れた。

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