第6話 墓守が眠る場所
【ユニーククエスト:丘に響くは墓守の鎮魂歌
推奨レベル――
報酬――】
「え、え?」
ユニーク? なにそれ? 待て、推奨レベルが高すぎる。グレーターゾンビとほぼ同レベル? 無理に決まってんだろ……ってもしかしてクエストの内容ってこの場所の掃討? いや、ユニーククエストの方の推奨レベル棒線で塗りつぶされたんだけど。報酬もさっぱりわからん。
「……クリアした時の状態で決まるのか」
「どうしましたか……? やっぱり、嫌――」
「そんな訳あるか。俺は、自分で言ったことは絶対に守る」
「そ、そうですか……えへへ、ありがとうございます」
涙を拭いながら笑うロードは、性別不詳な癖に憎たらしいほど可愛らしい。ああもう、晴人の野郎が嬉々として勧めてくる理由の一端が分かるわ。NPC……の癖してめっちゃ人間味がある。てか、もうこれ人間だろ。そんな思いを伏せて、俺は聞いた。
「さて、ロード。まずは、何からやれば良いんだ?」
「……まずは、というより、それを、というべきでしょうか」
「……何か、あるんだな」
はい、とロードは言った。そして、続け様に言葉を紡ごうとしたが、それは何者かの足音でかき消される。振り返れば、武器を装備したスケルトン……鑑定によれば、レベル15の
「ひ、ひぃ……そんな、こんなに強いアンデット、無理ですよぉ」
「泣き言言うな。シャキッとしろ。このくらいなんでもないぐらいじゃないと」
「僕まだレベル4ですよぉ!?」
「知らん」
骸骨兵士が持っているのは肉厚なバスタードソード。鑑定したからわかる。長くもなく、短くもない。相対して渋い顔をするほど強い点があるわけでも、かといって鼻で笑えるほど弱い点があるとも言えない。
初めて相手をするスケルトンの上位種だ。まだ攻撃をしたわけではないが……肩越しに視線を回してロードを見る。どうしよう、無理だと早速日和っている。十中八九ユニーククエスト、というよりこいつが原因だろう。
「来るぞ。俺の後ろに、隠れろ」
「わ、わかりました」
ロードが俺の後ろに立つと同時に、骸骨兵士が飛びかかって来る。腰だめにした剣で俺ごと貫く気か。だが、盾がぶっ壊れていても、俺は前衛の要である
「
「ひゃ……へ?」
凹んだ盾の淵で剣を受け止める。ゾンビやハイゾンビに比べて、殴りが強いという訳ではなさそうだ。軽い一撃に、微動だにせず剣を押し返す。プレイヤースキル人外勢だったら、ジャストタイミングでパリィすることも出来たのかもしれないが、一般人でしかない俺には到底無理な芸当だ。
にしても、ようやくタンクっぽい事した気がする……あと、頼れる無口な騎士ロールプレイ楽しい。
「『ダークボール』……なるほど、VITとAGIにかなり振ってるな」
至近距離から打ったダークボールは体を捩って最低限で受けられ、ゲージもそれほど減っていない。何よりまだまだ両目の二つの蒼い焔は爛々と燃えている。
ステータスは、簡単に言えば『当たらなければどうということはないし別に当たってもどうということはない』という不思議なものだが、タネが割れてしまえば恐ろしいものではない。
「『シールドバッシュ』『ダークアロー』『ダークアロー』……逃すか『ダークアロー』」
大活躍のシールドバッシュで骸骨兵士に近づき、射出速度が速く避けづらいダークアローを連発して体力を減らす。が、いかんせんかたい。流石格上の耐性持ちだ。いくら強化された魔法でも初期のものでは全く火力にならない。三発ぶち込んでようやくHPが三割を切ったくらいだ。
……ダークアロー一発で死んでいたスケルトンとはとてもではないが同一視できない。
「ライチさん!僕も戦います!」
「何かあるのか?」
「はい。僕はまだこれしか使えませんが……眠れ『エピテレート・レイ』」
ロードの銀杖がキラリと光り、その先端から灰色の光が迸る。それなりの光量だが、不思議と眩しくない。ごく短い間の攻撃だったが、光線が消えた後には、白い人骨とバスタードソードのみが残っていた。
【戦闘の終了を確認しました】
【職業レベルが1上昇しました】
【盾術のレベルが1上昇しました】
【スキル:カバーを習得しました】
【ドロップアイテム:肉厚なバスタードソード】
【ロード・トラヴィスタナの種族レベルが1上昇しました】
【ロード・トラヴィスタナの職業レベルが2上昇しました】
「……凄い威力だな」
「えへへ……ありがとうございます」
「それがあればさっきのスケルトンだって、いい線行けたんじゃないか?」
「これ、使うのに時間がかかる上、すぐに消えてしまうんですよ」
にしても、凄い火力だった。光が骸骨兵士に触れた瞬間、ゲージが一瞬で掻き消えていた。……俺が触れたらどうなるかな?多分死ぬかな。魔法に致命的に弱いし。
さて、職業レベルもあがり、盾術も上がった。カバー……範囲内の味方の前に移動して味方を守るスキルか……シールドバッシュと併用すれば、そこそこ動けそうだが、あまりリキャスト時間が短くないので、回転効率が悪そうだ。
そして――
「ロード、レベル上がったか?」
「はい! 上がりました! 一気に二つもです! ……今までの苦労はなんだったのかと思う気持ちもありますが……」
嬉しそうに飛び跳ねて、ローブの裾を踏んでこけそうになっているロードを尻目に、俺は確信していた。
これ、ロード成長させてくタイプのクエストか。
クエストの推奨レベルが見えないのも、ロードの成長率によるからで、報酬が見えないのも、どれだけロードが成長できたかで、貰える報酬が変わるからだろう。
そして、ロードの言う『どうというより、それ』。
「……最終イベントまでに、俺含めパワーレベリングか?」
確かモンスターは種族レベル10毎に、『進化』が出来たはずだ。職業も同じく10レベル毎で上位職になる。戦力を増強し、来るべき『それ』に控えろ、ということか。
「……燃えてきたな」
「はい、頑張りましょう」
取り敢えず相槌を打ったロードに視線を向けると、『え、これでいいんですよね? ダメでしたか?』的なおどおどした反応をした。この彼女ないし彼を、最低でもグレーターゾンビを削りきれるレベルにまで鍛え、俺自身もあの攻撃を何度となく受けきれるようにならなければいけない。
だが、さっきのロードの一撃を見れば、割と行けそうな気もする。
「取り敢えず……ロード、目的は?」
「はい。……取り敢えず、この墓地の真ん中まで、僕を連れて行ってください」
「わかった」
真ん中?俺のリスポーン地点付近か。たしかにあの周りには石像も何もなくて、今考えれば何かあってもおかしくはなかった。とりあえず、道すがらに群がってくるモンスターを相手にしながら、墓地中央を目指そう。
真ん中に行くだけなら、それほど大変なものではないだろう。
……。
「ふっざけんな!!」
「無理無理無理無理ぃ!無理ですぅ!」
盾をしっかりと構え、目の前に突っ込んでくるそれらの攻撃をどうにか受け止める。ゴリゴリと軽くではあるが目減りしていくHPに顔を青くしながら魔法を打ってみるが……。
「数多い! 多すぎる!」
こんな時こそ混乱だ! と打った魔法は確かに骸骨兵士に吸い込まれたが、その骸骨兵士は一瞬で周りのハイゾンビにタコ殴りにされてチリになった。
盾から僅かに覗く向こう側の景色は地獄も等しい。ハイゾンビ、ゾンビ、スケルトン、レイス、ゴースト、ウィルオウィスプ、スパルトイの群れ。完全に箍が外れたかのように、俺の後ろにいるロード目掛けて一直線に突っ込んでいく。
そうはさせねえと盾を構えても、多勢に無勢。今は少なくとも俺よりは俊敏性のあるロードを敵のいない方向に先行させ、その背中に『カバー』で移動、リキャスト時間を盾で敵を防ぎつつ稼ぎ、『シールドバッシュ』で走り続けているロードの元へ移動。
ロードはスキルのリキャストを待ちながら全力で走ってもらい、リキャストが終わったら速攻で『エピテレートレイ』を打ち込んで数を減らし、また走ってもらうという、地獄じみた持久走である。どうやらスタミナに関係するVITの値は最初見たとおりなかなか高いらしく、まだバテる様子は見せていない。
だが、問題なのは俺の方だ。スタミナはおそらくまだ大丈夫。だが、HPの減りがエグすぎる。
「回復間に合ってねぇ! 悪い! 死ぬわこれ!」
「ふえええぇ!!ライチさん死なないでくださいよぉ」
「喋ってないで走れ!!」
俊足ゾンビのAGIは残念ながらロードより遥かに上で、その上走りざまの一撃は途轍も無く重い。技を凝らして攻撃を避け続けても、必ず3、4発は受けることになる。
「クッソ! 『ブラックカーテン』!」
「凄いです!ライチさん!」
消費MP200の大技、ブラックカーテン。一定時間だけ、発動した場所を通り過ぎる全てのMOBに盲目を付与するどす黒い壁がそそり立った。そこを通った敵は何も見えない盲目状態になり、足を止めた。が、後ろから来る群れにその体を踏み潰され、押しつぶされ、潰した群れも盲目で他に体を踏み潰され……。
更には頭上にいる幽霊系にはとどかなかったようで、問答無用に炎魔法や氷魔法が飛んでくる。
「ハァ!? ゾンビ戦法か!?」
「ひぃぃ! も、もう無理ですぅ!」
「死にたくないならもう少し頑張ってくれ!」
「ひえぇぇ!」
必死に走るロードに向けてその体を引き裂かんと迫り来る不死者たち。それを壊れた盾でねじ伏せて、使ったこともないバスタードソードを乱雑に投げつけて、どうにか切り裂く。
「ロード! あとどのくらいだ!?」
「あ、あと少し……少しですぅうう!!」
カバーで離脱してロードの背後に立つと、見慣れた景色が見える。リスポーン地点付近だ。若干の安堵とともに、群れに振り返ると、そこには絶望が轟々と雄叫びをあげながら突っ込んできていた。
「ぐ、グレーターゾンビ!?」
「ま、前からも『
嘘だろ、囲まれてるじゃねえか。つまり、このフィールド……『荒れ狂う死霊の舞踏場』の全てのモンスターが、こっちになだれ込んできたのか?
【エリアボスとの戦闘を開始します】
【エリアボスとの戦闘を開始します】
【エリアボスとの戦闘を開始します】
【エリアボスとの戦闘を開始します】
「四体分とか無理だろ!!!」
「無理無理無理無理!!」
あくまで『エリアボス』であって『フィールドボス』じゃねえってか? こちらに迫ってくる巨体のゾンビ、瘴気をまとった骸骨の魔導師、黒い炎を口から吹いているドラゴン、真っ黒な骨をしたグレーターゾンビにも劣らない体格のスケルトン……いや、あれをスケルトンと言っていいのか全くわからない。
ネームドとかいって固有名称ついてるし、エリアボスだしで、ガチガチすぎる。
急いで鑑定でボスを鑑定すると、25、24、23、28、と規格外すぎるレベルのボスが「やあ」とばかりに軽いノリで集まってきてしまっている。
「グオオォォ!!」
「カ、カカ……カ」
「グルルルゥ……」
「来タリテ、取ルガヨイ」
「仲良く寝ててもらっていいか!?」
「あわ、あわわわ」
完全に周りを囲まれた。隆々とした筋肉に全身全霊を込めて腕を振りかぶるグレーターゾンビ、なにやら黒い魔法陣を浮かべ始めたエリートリッチ、息を吸う仕草をし始めたドラゴン、空中から金槍と金盾出したレオニダス。
まさしく絶体絶命。打つ手なしだ。ゲーム開始から二日でこんな狂った状況に持ち込まれる俺のことをだれか慰めて欲しいが、その思いを必死に飲み込んで叫ぶ。
「ロード!」
「は、はいぃ……我が意に応え、真の姿を見せたまえ……『
ロードが呪文を唱えると、先程までなにもなかったはずの場所に羽根の生えた女性……恐らく女神か天使の像が現れた。そして、その足元に、小さな階段が見える。
「あそこか!」
「あそこです!!」
残念ながら、距離が足りなかったのか、階段の場所は、大量のゴースト、ゾンビドッグ、そして、ドラゴンの真後ろだった。
だが、今更甘いことなど言っていられない。全ての言葉と思考を飲みこんで、与えられた死のカウントダウンの、貴重な一秒を思考と試行に回す。
「行くぞッ!! 『シールドバッシュ』」
「ひぐぅっ!!」
「我慢しろよッ!『カバー』!!」
ロードにシールドバッシュをぶちまかし、階段方向に吹っ飛ばす。吹っ飛んだロードに向かってカバーを発動し、その細い体を掴む。ボロボロのHP、MP、スタミナを燃やして空中を舞った。
瞬間、グレーターゾンビの剛腕が、俺の足の鎧を軽く凹ませ、直線状にいたレオニダスの盾をぶん殴り、同じくレオニダスの槍が俺の腰当てを深く抉りながら、グレーターゾンビの下腹部を貫いた。
リッチの恐らくダークピラーと思われる一撃が、俺の左手を消しとばし、ドラゴンの黒いブレスを、崩れかけの鉄板と化した盾で受けた。
「ぐぅぅ……ぉぉおお!!」
HPなど、グレーターゾンビの一撃がかすってからもう無い。謎の微弱な青いエフェクトが俺の体を包んでいる。『精神体』の発動エフェクトだろうか。盾は溶けて消え失せ、エリートリッチのダークピラーは俺の鎧の腕どころか、本体の闇の塊すら消しとばし、もう片手も闇の炎に溶かされかけている。足も歩けないほどの損傷を負った。
だが、それだけの対価を払っって。
それだけの努力を
最善と言えるかはわからない作戦に沿って。
俺たちの体は見事に女神の足下――先の見えない階段に飛び込んだ。
直後に走るシステム音。
【隠しダンジョン:墓守の眠る場所を発見しました】
【ボーナスとしてSP1を入手しました】
【プレイヤーの中で一番最初にダンジョンを発見しました】
【全プレイヤーにダンジョンの存在を通知します】
【ボーナスとしてステータスポイント50を入手しました】
【ボーナスとしてSP2を入手しました】
【全プレイヤー通知はメニューから設定でオフにできます】
【逃亡により戦闘の終了を確認できませんでした】
【種族経験値を獲得できません】
【職業レベルが1上昇しました】
【SPを1獲得しました】
【初級盾術のレベルが2上昇しました】
【スキル:ワイドシールドを習得しました】
【スキル:ヘイトアップを習得しました】
【持久のレベルが2上昇しました】
【鑑定のレベルが1上昇しました】
【初級呪術のレベルが1上昇しました】
【
【一定条件を満たした為、ユニークスキル『
【ドロップアイテムを獲得できません】
【ロード・トラヴィスタナの職業レベルが6上昇しました】
【ユニーククエスト:『丘に響くは墓守の鎮魂歌』が次の段階に到達しました】
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