第13話 まぁ何処にでも裏技はある
「あー笑った笑った。」
「……酷い。」
「それはそうとルシウス、随分と進捗が悪いな。」
「ぐ、こ、これでも頑張ってはいるんだからな。」
「そんな事は見れば分かる。……でも、何かが足りない気がして前に進めない。そういう事だろう?」
「……あぁ。なぁ先生、もう一度やってみせてくれ。」
「やっても良いがそこからお前が何かを得られるとは思えんな。」
「そ、それは……。」
まぁでも最初に比べれば確かに良くはなっているのだ、良くは。
あれだけ不安定だった魔力はこの1時間と少しでかなりの安定化を果たしており、失敗して溶けた蝋燭達も途中までは出来ていたが、何かの拍子で爆発したかのような痕跡が多い。
それに先程も懸念した通り、彼らには多少酷かも知れないがモデルデータとして、一応は教師と言う職務が初めてな俺としても何処まで手加減して良いのか。何処からは手を抜いてはいけないのかを学ぶ為の重要かつ貴重な体験でもある。
……だからこそここで変に止まってしまわれると此方としてもかなり動き辛い。
問題は手がない事もないが、その手がかなり人を選ぶがな。
「……まぁ、方法がない訳ではない。」
「ほ、本当か!?」
「あぁ。お前らと特にジーラが黙っていれば出来る、良い方法があるにはある。」
「……待って、何か嫌な予感がするんだけど。ねぇ、何する気?」
にやり、と笑いながらも俺達隠密機動ではもう慣れた物である任務中の必需品として持たされてはいるが、その誰もが捕獲するのではなく殺害して死体から情報を得る事の方が多いので俺もここに配属されて以来、1度も使っていない新品その物である魔封石の手錠をなるべくあくどい笑顔で取り出してやる。
どうやら予想が的中したらしいジーラの表情は命の平等に奪い、慈悲深くも死の間際は安らかに死なせてくれる、降りしきる雪の中に生まれた雪原の如く真っ白だ。
ふはっ、良い顔するなぁ……!
「ほ、本気で言ってる!? 人権問題だよ!?」
「さぁ、知らんなぁ。」
「惚けないのッ!! 一体何処の世界に授業で生徒に手錠掛ける教師が居るのッ!!?」
「ここに居るだろ。」
「あ”ぁ”あ”ぁ”あ”ッ!! あ”ぁ”言えばこういう”ぅ”う”ッ!!」
「良いぞ、掛けろ!」
「「「はぁッ!!?」」」
カシャンッ。
おー……。手錠って就ける時こんな感じなのか。
「……ルシェ……る、ルシウス。ま、前々からヤバい奴だとはお、思ってたけど……こ、ここまで、とは……。」
「俺も……。何、俺らが知らないだけで実はマゾやった、とか?」
「んな訳あるか。先生、着けたぞ! これでどうするんだ?」
「それでもう1度蝋燭に火を灯してみろ。」
「……あぁ~……。」
「んふふ、ようやっと理解したか?」
「……うん。理解はしたけど、納得はいかない。」
「ふふふ……。」
「良し、行くぞ!」
さてこれが凶と出るか、吉と出るか。
何故かかなり楽しんだ様子のルシウスは随分と面白いぐらいに手錠を就けたまま、蝋燭に火を灯さんと両手を突き出したルシウスの手から魔法が放たれ、始めの内は蝋燭の先に火を点ける、と言うよりは蝋燭を呑み込まんとするような大きな火球がかなり小さな火球へと変わり、着弾する。
最初の懸念とは異なって、随分軽々と、当たり前と言わんばかりに蝋燭の先にちょろっ、と伸びる尻尾頭にようやっと灯った火は美しく、それに比例するように明るくなっていくルシウスの表情も輝かしい。
「お、出来たぞ! 出来た!!」
「ほら、鍵だ。手錠を外し、今度はない状態でやれ。また分からなくなったらもう1度就ければ良い。」
「任せとけ!」
「……せんせ。」
「ん?」
「魔封石なのに魔法封じられなかったら……魔封石の意味、なくないですか?」
「んっふ、くっ、ふふふ……。」
んふ、ジーラが苦笑してる。あれはツボってるだろ。
「よく考えてみろ。誰彼構わず、魔力の制限もなく、どんな魔力も封じられるなんて便利な物があれば警察だけじゃなくて、軍も使ってるだろ。」
「あー……。」
「万能の物なんて存在しないんだよ。物質も、魔法も、結局は何らかの制約がある。……魔法なら何でも出来る、なんてただの夢物語だ。」
万能な物なんて、何処を探しても存在しない。
もし本当に魔法が万能なのであればこうしてある程度の、誰が聞いても納得出来るような具体的な理論も、具体的な構造なんて物も存在しないだ。
それこそ幾らどんな水を掛けられても絶対に消える事のない炎や。どれだけ電流を流されても帯電せず、どれだけ飲んでもなくならない水ですらも作る事は出来ない。
もっと言うのであれば、そもそもとして魔法を行使する為に魔力を必要に応じて魔法の規模に比例するようにして魔力を消費する訳がない。
……それが出来れば俺はこんなに辛い過去を背負わなくて良かったはずなんだからな。そんな物、存在を否定する方法は山程あっても肯定する方法は1つだってないんだ。
「せんせ……。」
「先生! 先生達は軍人じゃないんですか?」
「ん~……ちょっと違う、かな?」
「何でお前が疑問符なんだ。……残念ながら、我々は軍人ではないが軍属ではあるんだ。」
「……? 難しいです。」
「一応、国王直属の部隊だから軍属ではある。しかし、軍隊ではなく別機動部隊に所属しているから軍人ではないんだ。軍人とは、軍隊に属する者の事だからな。我々は王様の私兵だ。だから王様が許してさえしまえば別に法律を守る必要なんてないんだ。」
「ま、まぁ、特にティアには甘いもんね。」
「育ての親だからなぁ……。」
「え、先生って王様に育てられたのか!?」 「え、先生って王様に育てられたの!?」 「え、せんせって王様の子なの!?」
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