9.16.帰ってきた


『よっしゃこんなもんかー。これでいいかな』

『『『いいと思いますよ』』』


 土を盛り上げて更に広い洞窟を作った。

 倉庫も新しく作って広くし、今までぎゅうぎゅうだった無限箱が綺麗に収まるようにしたぞ。

 寝床も綺麗にしてあるし、これで問題ないでしょう。

 多分しばらくはここで寝泊まりすることになるだろうから、皆が本拠地に帰る時に食料を向こうから持ってこないとな。

 忘れないようにしとかないと。


 第二拠点の倉庫は常にいっぱいだって聞いたし、そっち方面は気にしないでもよさそうだな。

 いやぁ、マジで助かるわ。


『『『オール様、竜のことはどうされるのです?』』』

『ん? そりゃリューサーが向こうを治めるまでは放置する予定だけど? 俺たちが行っても足手まといだろうし、無理に通って邪魔したら悪いしな。てか急にどうした』

『『『ふと思い出しまして』』』

『そうか』


 あれから結構経ったよなぁ。

 一年は余裕で経過している。

 でもあいつがしっかりとリーダーの覇権を争っているおかげで、こちらには被害が出てないんだもんな。

 多分押さえてくれているのだろう。


 土産の一つでも持っていけばいいのかもしれないけど、あんなデカい奴に何を持っていけばいいのか想像もつかん。

 こっちはこっちで忙しかったし、目を放すわけにもいかなかったからな。

 結局会いに行くタイミングを完全に逃したって感じか。


 あいつもこっちに来たがってたんだけどなぁ。

 来れないってことは、忙しいってことだろう。


『お前らが血印魔法を教えてもらいに行ったときはどうだったんだ?』

『『『多くの竜がリューサーの近くに座っていましたよ。あの時はまだ半分勢力を制圧しただけだったらしいですが』』』

『半分なのかぁー。てなると、あいつらが落ち着くのはまだまだ先になりそうだな』


 詳しい話を聞くのは、あいつがこっちに来た時がいいか。

 血印魔法についてもその時に聞いてみることにしよう。

 その辺に関しては詳しくなった方がよさそうだからな……。


 スンッ。

 おっ、ガルザが帰って──。


『!?』

『『『オール様! これは!?』』』

『ベンツ!! ガンマ!! 北西の門に急げ!』


 身体能力強化の魔法を使用し、指定した場所へと突っ走る。

 近くにベンツとガンマはいなかったが、恐らく聞こえてはいるだろう。


 ベンツはできるだけ人間や仲間たちに雷の稲妻が当たらないように跳躍して門までやってきた。

 ガンマも同様だ。

 二匹が到着したタイミングで、俺もその場に辿り着いた。


『兄ちゃん、これは……』

『ガンマ! 見えるか!?』

『……ガルザが人間二人を連れてこっちに来ている。人間が使う荷車を引いてるぞ』

『……どうなってんだこれは』


 ガルザが帰ってきたのは匂いで分かった。

 だが、それに混じって……俺の父さんと母さんの匂いがした。

 それはあの時、サニア王国の王子がここに訪問してきたときに嗅いだ臭いと同じものであり、俺たちは警戒せざるを得なかった。


 なぜガルザがそれを持って運んでいるのか。

 馬車に乗っているのは……ハバルとレイド。

 これは一刻も早く話を聞かせてもらわなければならないだろう。

 多分あいつらも、そのつもりでここに帰ってきているはずだ。


 馬車が近づいてくる。

 ガルザは俺を見つけると速度を上げた。

 早くこの状況を説明しなければならないと、焦っているように感じられる。


『リーダー!』

『……ガルザ、説明してくれるな?』

『勿論です! ……はぁ、はぁ……でもちょっと待ってください……』

『落ち着いてからでいいぞ』


 息を切らしているガルザに水を与える。

 その間にハバルがガルザに結び付けていたロープを解いた。

 ここまで結構な道のりだ。

 それも大きな荷車を引いてとなると、相当体力を消耗したはずである。


「フェンリル。私から話をするよ」


 ハバルがそう言って前に出た。

 俺は頷き、彼が口を開くのを待つ。


「非常に言いにくい事なのだが、フェンリルの両親……の毛皮を見つけてきた。これは君たちに返さなければならないと思ってな……」


 ハバルは荷車を指さす。

 そこには確かに真っ黒な毛皮と、真っ白な毛皮の二つがあった。

 加工されているものもあるが……大きさを見てみるに、ほとんどの毛皮がここに残っている。

 それを闇の糸で持ち上げる。


 懐かしい匂いだ。

 温かい匂いがした。

 優しい匂いも、する。


『……感謝する』

『ありがとうだってさ、ハバル』

「当然のことをしたまでだよ……。ガルザがいなかったら見つけることすらできなかったしね」


 ベンツとガンマにも、話を通す。

 毛を逆立てていたガンマだったが、話を聞いて落ち着いたようだ。

 そういうことであればと怒る理由もないからな。


 なんとなく予想がついていたベンツは、端から怒る気はなかったらしい。

 ハバルとガルザに礼を言って、座り込んだ。


「それと……」

『ん?』

「ガルザが微かにフェンリルの匂いがすると、これも一緒に持って帰ってきたんだ。何か分かるか?」


 ハバルがポーチから取り出したそれは、ボロボロになった毛皮だった。

 何とか修復しているようではあるが、これ以上の加工はできないだろう。

 まっ黒な毛皮と灰色の毛皮。

 見ただけでは何か分からなかったが、匂いを嗅げば懐かしい匂いと記憶が蘇る。


『……ナック……! それと……お義父さん……』


 ナックは昔、オートの補佐をしていた副リーダー的存在だ。

 バルガンと一緒に最後の命令に従い、身を削る魔法で人間共に一矢報いた……あのナック。

 寡黙だったが意外と話はできる奴だったことを覚えている。


 それと灰色の毛皮。

 こっちは……俺によく噛みついてきた狼の毛皮だ。

 レイたちの……お父さんである。


『すいませんリーダー。俺はこれしか見つけることができませんでした……』

『いや、謝らなくていい。よくやってくれたな』

『……はい……』


 これだけ仲間が帰ってきてくれたのだ。

 何の文句を言う必要があるだろう。

 ガルザをサニア王国に派遣したのは正解だったな。


「……フェンリル、それと大切な報告が……」

『なんだ?』

「サニア王国が落ちた」

『はっ?』

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