9.14.遠足気分


 あれから数日が経った。

 既に本拠地には留守番を任せる仲間が来ており、ライドル領にも話は通してあるので行こうと思えばすぐにでも向かうことができる状況だ。


 子供たちは早くこことは違う場所へ行ってみたいのか、常に走り回っている。

 興奮冷めやらぬって感じだな。

 これはこれで中々かわいいものである。


 あとは俺がワープゲートを開くだけなのだが、さすがに暴れている状態では連れていけないな。

 整列させましょう。


『はいはい、せいれーつ。並んでくれー』

『『はーい!』』


 俺の掛け声で子供たちが親のところに集まった。

 ちゃんと数がいるかどうかを確かめてもらい、俺に報告をしてくれる。

 問題ないようだったので、とりあえず安心しで留守を任せる仲間の方に顔を向けた。


『留守は任せるぞ、お前たち』

『オール兄ちゃん行ってらっしゃい』

『特に何もないと思うから、心配せずに遊んできてね』

『……気を付けるのですぞ』


 相変わらずちょい警戒が強いバルガン先生。

 それに少しだけ苦笑いしてから、俺はワープゲートを作り出した。


 あとはこれをくぐるだけだな。

 だけど子供たちがはしゃぎ過ぎないようにしてもらっておかないとね。

 俺が認識せずに勝手に入られると変な所に飛ばしちゃうから。


『じゃあシャロたちから入ってくれ。向こうに行っても遠くに行っちゃだめだぞ』

『分かってるよ。行くよ』

『『『はーい!』』』


 シャロの家族がまずワープゲートをくぐった。

 とりあえず上手くいったらしい。

 次にラインの家族。

 次にメイラムの家族が通って、最後にデルタの家族がワープゲートをくぐった。

 俺は最後尾だ。


 本拠地を任せる仲間をもう一度見てから、小さく頷く。

 彼らも小さく頷いたのを確認した後、ようやく俺もワープゲートをくぐる。


 さぁやってきましたライドル領。

 仲間たちは全員いるな。

 いなくなった子供たちはいない。

 しっかりと言いつけを守ってくれている様だ。


 めっちゃそわそわしてんなぁ……。

 だけどもう少し待っててねー。


『ベンツ』

『はいはい』

『『あ! ベンツ兄ちゃん!!』』

『へへ、皆久しぶりだね』


 久しぶりの再会で、数匹が盛り上がる。

 まぁ長らく皆と会わせてなかったからなぁ。

 ベンツに至っては本当に最初から最後までこっちにいてくれたもん。

 俺は一時期ちょくちょく帰ってたからなー。


 っとそんなことより話をしなければ。


『こっちは大丈夫そうかい?』

『うん。ライドル領にいる人間にも近づいてくるまでは手を出さないでほしいって言ってある。あとは子供たちが暴れて怪我をさせなければ大丈夫かな』

『分かった』


 となれば、しっかりと注意はしておかないとな。


『はい、注目。今から自由行動にするけど、行動範囲は大きな壁より中。それより外に行ったら駄目だからな。あと、ここには人間もいる。怪我とかさせないようにな。もしこれらの約束が守れない、もしくは破った場合は即刻本拠地に帰ってもらうので、そのつもりで。はい! じゃあ楽しんで!』


 ちょっとだけ強めの口調で言ったので、子供たちは少しおろおろしているようだ。

 だがそこは親が先導してくれた。

 皆で固まって行こうという流れになったらしい。

 これなら変なことはしないかな。


 あとはベンツとガンマの子供たちに任せたらいいかな。

 先輩風を吹かせたいシグマとラムダが頑張ってくれることでしょう。

 まぁ俺も歩いて回りはするんだけどね。


 でもその前に聞きたいことがある。


『ベンツ、俺がいない間ここはどうだった?』

『特に何もないよ。ヴァロッドもまだ帰ってこないし、ガルザも帰ってきてない。あ、でも三狐がそろそろ限界っぽいよ』

『あっ、そうだった。三狐! どこだ!』

『『『ここでぇ~す……』』』


 耳を垂らした三狐が土狼に乗ってやってきた。

 やっべ魔力もうほとんどねぇじゃねぇか。

 どんだけ吸ってたのよ。

 俺結構魔力こめた筈だったんだけどな。


 とりあえず三狐を俺の背中に乗せる。

 すると少しだけ魔力が抜かれる感じがした。

 俺がそう感じるってことは、めちゃくちゃ魔力吸われたんだな。

 普通だったら倒れてるぞこれ。


『『『ん~復活!!』』』

『そいつは良かった。お前たちから見て何か変わったことはあったか?』

『『『いやぁ、特にないですねー』』』

『うん、いつも通りだよ。ヴェイルガたちは狩りに行ってるし、レイたちは周囲の警戒。僕とガンマは子供たちの見張りって感じかな。魔物もいないし、戦争が終わって人間も安心してるみたい。あとはヴァロッドが帰ってきたら大丈夫だね』

『なるほどな。じゃああとは待ちか』

『そうなるね』


 ここからアストロア王国までは結構時間かかるからなぁ。

 サニア王国も同様。

 ワープはあんまり人間使わないし、移動は基本馬車になるだろうね。

 時間かかるのは仕方ない。


 でもあれだな、アストロア王国はともかくサニア王国の方が心配だ。

 テクシオ王国の二百の兵士もそっちに行っちゃったし……。

 何もなければいいんだけどね。


 まぁガルザもハバルも強いし、テクシオ王国兵に至っては二年間魔物と戦い続けた猛者ばかりだ。

 逃げることくらいは余裕でできるだろう。

 心配するだけ無駄かなぁ~。


 逃げるどころか城を乗っ取ろうとしていることをオールは知る由もなかったのだった。

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