9.10.特訓
四匹はデルタの子供だったな。
母親はレインか。
四匹が使っている魔法は両親の適性魔法を一つずつ割り振った感じだ。
ラディは土魔法。
ケルマは闇魔法で、レダが雷魔法。
イリスが水魔法に適性があるようだ。
今はその基礎を繰り返しているらしい。
『ラディ。お前はどれくらいの範囲を操れるんだ?』
『ちょっとだけです!』
『土を操るように魔力を使っているのか?』
『はい!』
んーなるほど。
土魔法はちょっと特殊だからな。
動かしたい地面に魔力を流し込んだあと、また魔力を使って土の形を変改させる。
それを動かして戦うって感じだね。
だからまずは動かす地面を指定しないといけない。
ラディはその指定範囲が狭すぎる。
なので指定した地面を動かす魔力は多く残っているはずだ。
となると……。
『とりあえず何か作ってみてくれ』
『はいっ!』
ラディは地面に魔力を流して、自分と同じ姿の狼を作り出す。
土狼に似ているけど、これは普通の土の狼だな。
土狼は闇魔法も使っているからね。
ラディの作った狼はとても滑らかに動いている。
魔力の多くを狼を動かすために使用しているからできることだな。
俺はこういうことにはあまり魔力は使わない。
棘とか壁とか作って終了だし。
ん~、これは……。
『作れるものが増えれば、戦いの幅が広がるな。熊や鳥なんかを作ることができれば戦闘や索敵で優位に立つことができる。支援や援護向きの魔法だぞ』
『しえん? えんご?』
『後ろから前で戦う仲間の手助けをするって意味だ』
『えー! 前で戦いたい! 狩りしたいです!』
『もちろん初めはそうするのがいいぞ。戦いの中で獲物がどういう動きをするのか、なんかを見て覚えるといい。初めのうちは自分と同じ姿しか作れないだろうから、一緒に前に出て戦うのが好ましいな。前線で獲物の動きや特徴を覚えて、今の魔法で作ることができる動物を増やすといい』
『おー!!』
多分この魔法の使い方はこんなんでいい気がする。
自分がよく知っている動物……まぁ今回の場合はエンリルだな。
動きを知っている奴じゃないと作ってもちぐはぐなものになるだろうし、ラディは魔物や動物を観察して自分の戦いの幅を広げるっていう戦法を取らないとね。
若い頃は皆走りたくて仕方がないから、前に出よう出ようとする気持ちは分かるけども……。
それよりも効率のいい方法があるって分かれば、考えも変えるだろうし戦法も自然と変わっていくはずだ。
今は好きにさせておいてもいいかもね。
次第に作ることができる動物や魔物が増えれば、自分の動きとかを変えていかないといけないけど。
『まぁ、まずはそれを極めること。狩りに参加するようになってから、技を増やしていこうな』
『はい!』
『よし』
ラディはこれでいいかな。
次は闇魔法に適性のあるケルマを見てみることにするか。
こいつは……。
『毒かぁー』
『毒……です』
闇魔法の魔力を何個も重ね掛けてして作る毒魔法。
これは俺もあまり使ったことがない。
普通に危ないからな……。
これはメイラムに教えてもらった方がいいかもしれないな。
毒の種類とか分からないし、小さなころからこれが使えるのであれば将来は優秀な毒使いになるだろう。
『あと……毛も……動かせます……』
『お、暗黒魔法が使えるのか』
『あんこく……?』
『バルガンが一番得意とする魔法だよ。毛の形を変えて武器にするんだ』
『先生と……一緒……へへ』
ちょっと怖いんだけど。
いやでもこれも可愛いな~。
顔がちょっと凶悪だけど、めっちゃ似合ってるよね。
『バルガン。ケルマは暗黒魔法を使えるみたいだ』
『おや、そうでしたか。では私めが教えましょうぞ』
『それと毒もあるから注意な』
『分かりましたぞ』
毒のことは後でメイラムに来てもらって教えてもらおう。
ケルマに関しては俺は今のところ何も言えないかな。
とりあえず暗黒魔法で基礎を勉強してくれれば、少しは役に立つ使い方を教えてあげられるかも。
じゃあ次は……雷魔法に適性のあるレダを見てみよう。
身体能力強化の魔法がないので、ベンツみたいに高速で動くことはできないだろうが、ラインは雷魔法だけでそれに何とか食らいつくことができている。
一つを極めるのであれば、ベンツにも追いつけるかもしれないな。
って思ったけど、レダは少し特殊らしい。
雷を体に纏えないのだとか。
『びびびび……』
『帯電はできない感じか。てなると放出系の雷魔法が得意なのかな?』
『ほーしゅつ?』
『そっそ、放出』
ちょっと実験してみるか。
俺は雷爪を作り出してみる。
手先に雷の魔力を流してイメージすれば、これくらいのことは簡単にできる。
だがラディの場合、これはできないのだろう。
やらせてみたが、上手くいかず霧散してしまった。
維持させ続けるのが難しいのだろう。
これは放出系の魔法ではないからな。
『うん。じゃあこれはどうだ?』
周囲に三つの雷弾を出現させる。
俺の場合は空中で一時的にとどまらせることができるが、レダがやってみると作り出した瞬間に何処かへと飛んでいってしまった。
『むぅー』
『これも予想通り。じゃあ今度は狙ってみろ』
『狙う?』
『そうだ。あの岩に向かってな』
維持できないのであれば、雷弾を作った瞬間に放出するイメージでね。
多分意識すれば簡単にできるはずだ。
レダにそう説明すると、岩を睨んで雷魔法を使う。
雷弾を使った瞬間、雷が一直線に岩にぶつかった。
なかなかの威力だったようで、岩が少し砕ける。
『おわあ!?』
『上出来上出来。レダはとにかく放出系の雷魔法を繰り返し使うといいかもな。極めれば予備動作なしで攻撃ができるかもしれないぞ』
『な、なるほど……! やってみます!』
雷魔法は発動する直前に雷の黄色い稲妻が少し走るからな。
それである程度は攻撃してくるタイミングが分かる。
それがなくなったら回避するのは難しくなるだろうね。
さぁ、最後はイリスだ。
水魔法に適性があるらしいので、とりあえず見せてもらうことにする。
ふよふよと水が浮遊している。
これは水の維持を練習しているのだろうか。
水銃弾とかはまだ使えないのかな。
『ふぬぬぬ……』
『……ん? イリスは魔力総量が少ないな……』
それに気付いた瞬間、浮遊していた水が弾けて消えてしまった。
イリスは大きく深呼吸をして魔力を回復させる。
んー、魔力総量が少ない分回復は早いな……。
体が大きくなれば魔力総量も増えるだろうけど……んーーーー、このままだと今後に響きそうだ。
なんとか今の魔力総量でもできる技を探しておかないとな。
一番魔力消費が少ない水魔法っていったら……。
『イリス、これはできるか?』
水銃弾を作ってその場に維持してみる。
錐三角形の水だ。
『それができないんですぅ……』
『……というと?』
『水を違う形にすることができないんです』
『あー……不定形の水を維持させることしかできないのか』
んーーーー……。
『水は動かせる?』
『少しなら』
『……てなると罠がいいかもな』
『罠?』
魔力総量が少なく、水を変形させることができず、さらに浮遊した水もほとんど動かせないとなると、残されている魔法はそれくらいだろう。
罠といえば、ベンツの地雷電がいい例だな。
一回作ってしまえばそれ以上の魔力消費はないし、魔力を使い切っても回復してまた新しい罠を設置することができるから、実質無限に罠を作ることができるはずだ。
水魔法の罠は俺も初めて作るけど……まぁ適当にやってみるか。
水を作り出して地面の中に仕込んでいく。
あとはイメージ。
ここを獲物が踏むと発動するように……っと。
『これでいいかな。ラディ~、ここに土魔法で作った狼を歩かせてくれ』
『?』
首を傾げつつも、ラディが土で作った狼を歩かせてくれた。
罠を踏んだ瞬間、仕込んだ水が全て吹き上がる。
それは細く、何十個ものウォーターカッターが土の狼を簡単に貫いた。
『『ふぇ!?』』
『あー、俺の場合はこうなるのかー』
まぁこんなもんかな。
同じ物を作れとは言わないけど、できればこれくらい威力のあるものであればなにもいうことはない。
水だから最悪獲物の体に纏わりつかせるってだけでも大丈夫だ。
窒息してくれるからな。
『こんな感じで頑張ってみてくれ』
『や、やってみます……!』
やる気になってくれたようで何より。
とりあえずはこんな感じかな。
あとは少し経過を見守りましょう。
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