9.3.Side-ハバル-毛皮奪還作戦
完全な行き止まり。
ガルザが臭いを嗅いでみてもここに臭いが残っているだけで、他に移動した形跡が見当たらない。
言ってしまえばここでフッと消えてしまったような感じだ。
ガルザは首を傾げて臭いを嗅いで回っている。
だがハバルとカリバンは冷静だった。
「さぁ、隠し通路は何処だ?」
「お前たちはここを防衛せよ」
「「「はっ!」」」
ハバルが近くの壁や花瓶を触って回っている間に、カリバンはついて来た兵士三人に指示を飛ばす。
二百人いた兵士だったはずだが、やはり実際に城中に入れた者は少ない。
とはいえ、もう少しでその全員が城の中に不法侵入する予定ではあるが。
彼らは二年間、魔物との戦いで鍛え抜かれた精鋭中の精鋭だ。
今更城を護衛するだけの兵士に引けは取らない。
「んーと……ここか? 違うか」
『おいハバル。何故臭いがここで途切れているんだ』
「いやだから隠し通路で逃げてるんだよ。抜け道が何処かにあるはずだが……。ん? ここで匂いが途切れているのか?」
『ああ。そうだ』
「なるほどな! 少し離れてくれ」
ハバルは何かに気付いたようで、その場にいた者たちを少し下がらせる。
全員が下がったことを確認した後、風魔法を床に叩きつけた。
「お、あった!」
手ごたえを感じたハバルは、そのまま風魔法を使って床の一部を持ち上げた。
綺麗にくりぬかれた床。
どうやらこのギミックは、風魔法をそれなりに使うことができる人物でなければ開けることができない仕組みになっているらしい。
取っ手もなく、見つかりにくい。
手の込んだことをすると思いながら、ハバルは床の一部をその辺に放り投げる。
「よし、これでいけるぞ」
『この下に臭いが続いている。近いぞ』
「近いのか……。だったら聞かれてるかもしれないな」
「なるほど。風魔法を使う人物が一人は居そうだな。気を付けて行こう」
カリバンは剣を納刀し、ショートソードに持ち替える。
狭い洞窟内での戦闘となる可能性があるために武器を変えたのだろう。
しかし、狭い空間での風魔法は厄介だ。
となれば、ここは自分がとハバルが前に出た。
「先行は俺がいこう。俺の魔法は何でも弾けるからな」
「助かる。お前たちは引き続きここの死守だ。絶対に敵をこの中に入れるな」
「「「はっ!」」」
指示を出し、ハバルとカリバンは小さく頷いてからすぐに地下の階段を下りた。
案の定狭い通路だったが、人が二人並んで通れるだけの道は確保されていた。
普通に走る分には問題ないが、接近戦で戦うとなれば行動に制限をかけられるだろう。
そんな道をしばらく走っていると、ガルザが唸る。
目の前には曲がり角があった。
おそらくその先で待ち伏せをしているのだろう。
このまま走り抜けるのは危険だ。
『任せろ。ハバル、道を開けてくれ』
「分かった」
横に避けたハバルは、カリバンと共に一度止まる。
『雷狼』
バリバリッ。
一匹の雷狼を生み出したガルザは、それに先行させて角を曲がらせた。
すると強烈な風魔法が使用された。
直撃していないのに体が吹き飛ばされそうになり、咄嗟に身をかがませて風圧に耐える。
相当な使い手だ。
警戒心を強め、デコイのような役割を果たした雷狼のあとについて二人は曲がり角へと走る。
そして会敵。
目の前には真っ黒に焦げている男性と、尻もちをついて怯えてる肥えた王子がいた。
「……ん?」
『俺の雷狼は風魔法では霧散しない』
「なんだよ。あっさり終わったじゃないか……」
『素早く仕留めるのは狩りの基本だ』
焦げた男がどさりと倒れる。
脅威がいなくなったことにより安心はできたが、これからやらなければならないことがある。
カリバンはサニア王国王子、カレッドの前に立ってショートソードの切っ先を彼の首へと当てる。
「チッ、王子か。まぁいい……立て」
「ぅ……ぐぬぬぬ……」
「これは貰うぞ」
素早い動きで毛皮のマントを奪い取ったカリバンは、それをガルザへと投げ渡す。
なんてことをするんだと心の中で叫び、彼は慌てた様子でそれを受け止めた。
「か、返せ! それはお前のような……」
「黙れ。そしてついて来い」
「……ぐぅ……!」
強烈な殺気に当てられ、カレッドは口を閉ざす。
後姿だけでも、今のカリバンがどれだけの怒りを腹の内に込めているかが分かった。
とりあえずはこれで終了だ。
あとは地上に戻るだけ。
その後の処理はテクシオ王国兵がやってくれるだろう。
『……』
「どうした、ガルザ」
『まだ残っている』
「と、いうと?」
『この毛皮は一部だ。まだ何処かに残っている。こっちだ』
「お、おい! カリバン、そっちは任せれるか?」
「ああ、問題ない。ほら歩け。刺すぞ」
「くっ……」
ガルザは匂いを辿ってまだ残っている毛皮を探しに行った。
その後をハバルも追いかける。
ガルザを追いかけていった先は、城の外だった。
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