8.45.考え


『オール兄ちゃん、いつまで続ければいいの!?』

『もう少しだ』


 ベンツが向こうに行って戦っている間、俺はレイとウェイスに常に攻撃をし続けるようにと指示を出していた。

 黒いドームがどんどん収縮してきている。


 人間二人は防衛に徹しているようだ。

 すべての魔法を打ち消しているのだが……女の方の魔法は消費魔力が相当少ないらしい。

 回復している様子も見えないしな。


 さっきベンツが怪我をして戻ってきたことにはびっくりしたけど、まぁ大丈夫そう。

 向こうも終わったっぽいしな。

 ヴァロッドが来ている事には驚いたが……あいつも生きてるな、うん。


 まぁ魔法を使いまくってもらっているということは、ドームが凄い勢いで縮小してきているということなんですよ。

 それが今回の俺の考えです。


 あいつらは多分、魔法を使わせて自分たちが外に出て安全に狩るという策を取ってくるはずだ。

 あの時と同じ魔法だったら……あの二人は耐えるだけでいいからな。

 俺が今からでもぶっ潰してやれば終わるかもしれないけど……そう簡単に殺したくない。


『貴様らのすべての魔法を打ち崩してやる』


 ウェイスが魔法を使って人間に風刃をぶつける。

 だがそれは霧散され、マティアは軽く笑って余裕そうにしていた。


「なんかこればっかだね」

「あいつらが魔法を使ってくれればくれるほど、俺たちは勝ちに近づける。あと少しだしな」

「よーし!」


 レイが氷で攻撃する。

 やはりそれも霧散して消えてしまう。


『兄ちゃん!』

『ベンツか』

『なんか外に出られないんだけど! 見えない壁がある!』

『闇魔法で見えないドームが展開されてるんだ。魔法を使えば使う程、それは収縮する』

『『『え!?』』』


 俺の言葉を聞いて、一番驚いたのはレイとシャロだ。

 まぁそうだよね。

 だって俺今この二匹に魔法使いまくれって指示出してるんだもん。


『オール兄ちゃん!? それ大丈夫なの!?』

『いい。俺が何とかする』

『いいの!?』


 いいのだ。

 今回は俺が正面から全力でぶっ潰す。


 そういえばベンツは人間を殺した後逃げられなくてここに来たのか。

 まぁそうだよな。

 あの魔法、俺たちエンリルに限って逃げられないようにしてあるものだから。


 ドームを見てみるとどんどん収縮していた。

 人間二人は外に出て、肩の力を抜いている。

 だがベンツが帰ってきているというところを見て、後方を確認した。


「ねぇ……ジェイルドは?」

「……寝てんだろ。多分」

「収縮早くして」

「言われなくても」


 ザックは小さな杖を握り直してドームの収縮速度を変更させた。

 外に出た後でならこのドームは自分の思うがままに操ることができるのだ。


『兄ちゃん!?』

『オール兄ちゃんこれどうするの!?』

『まぁまぁ落ち着け』


 迫りくるドームに慌てている三匹。

 行動が制限されてしまえば機動力を生かして戦うスタイルのベンツは戦闘に参加できない。

 それにこのドームは俺たちを潰す勢いで迫ってきていた。


 これで俺の父さんも身動きを封じられて仕留められたんだろう。

 力が入る。

 三匹を俺の後ろに下がらせ、少し前に出て迫りくるドームに狙いを定めた。


『闇魔法』


 爪に闇魔法を纏わせる。

 黒くなった腕はまがまがしい色になった。

 爪を立て、腕に魔力を集中させる。


『身体能力強化』


 赤い稲妻が走る。

 基礎能力を大幅に向上させ、振るう力を増幅させた。


『これだけで十分だ』


 大きく腕を振るい、振り下ろす。

 その直後にドームは俺の目の前にまで接近した。

 思いっきりドームをぶったたく。


 ぶわぁっ……。

 硬い音は聞こえない。

 俺がドームを殴った音も聞こえることはなかった。

 聞こえたのは何かが霧散する優しい音だけ。


 ドームを叩いた俺だったが、手ごたえはまるでなくすっと通り抜けるようにドームを破壊することができていた。

 一部が崩壊すると他の場所も維持できなくなるようで、壊れたところを起点にドームが粉々になって崩れ去ってしまう。


『さぁ、あいつの残り魔力はどれくらいかな?』


 この魔法は、ただ濃厚すぎる闇魔法を腕に纏わせただけの簡単なものだ。

 闇魔法でなければ壊せない魔法。

 それに、このドームの数倍の濃い闇魔力が必要だったらしく、普通だったら脱出することができないものだったらしい。


 まぁ、俺の魔力量には敵わないだろうけどね。


「なん……!?」

「え、なんで壊れたの」

「……やばい。逃げるぞ!」

「っ!」


 逃がすと思うのか。


『水狼の王、土狼、雷狼』


 二人の周囲に水狼の王を作り出し、土狼を十体ほど土から出現させる。

 雷狼を二十体作り出して一瞬で囲んだ。


「っ!? マジックディスタープ!」

『深淵魔法……』

「ふぐっ!?」

「な!?」


 重力で二人の行動を完全に停止させる。

 あ、因みに女が使った魔法は俺の込めた魔力をかき乱すことができなかったらしく、普通に健在です。


 あー、やっぱり普通に倒せそうだなぁ。

 どうしよ、こんな簡単に殺す予定なかったんだけど。

 まぁいいや。

 目の前にいるだけで不快だし、さっさと始末してしまおう。


「おいマティ! これどうにかしろや!!」

「これ物理魔法じゃない!! 乱せない!!」


 なんか叫んでるけど……知らん。


『このまま殺していい?』

『レイたちのいた意味はあったの?』

『なんか全部魔法消されたよな』


 いや、うん。

 ごめんな?


『んじゃ……』


 深淵魔法で周囲の土をベゴリと凹ませる。

 そこに毒魔法を流し込み、人間二人を沈めた。


「!? ーーーー!!」

「あ──ガガ……ッ!?」


 土魔法で土を操り、そこに蓋をする。

 これで、終わり。


 最後は呆気なかったけど、いたぶる趣味はないし、最後に俺たちには勝てないって判断をさせただけでもいいとするか。

 なんか……仇を討ったって感じはしないな。

 ただただ普通に人間を殺しただけな気がする。

 勿論恨みはある。

 だけどなんだろうなぁ……。


『これで父さんは喜んでくれるかな』

『んー……どうだろうね。でも脅威がなくなったのは事実だよ』

『だな』


 ベンツの言う通りだな。

 んじゃ、俺たちの役目は一旦ここで終わりだ。

 さて……ここからが少し心配だ。


『大丈夫かな』

『なにがなの?』

『ライドル領の人間のことさ。俺たちの強さを見て、怖がっていなければいいが』


 今はそれだけが不安だ。

 でも、戻らなければならないからな……。


 そんな不安を抱え、俺たちはライドル領の兵士がいる場所へと戻った。

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