8.36.接敵
あれから数日が経った。
人間たちの足並みに合わせて移動するのはなんだかのんびりしすぎていたな。
まぁこれが限界なんだろうけど。
ライドル領から出陣してきた兵は少ない。
数えてみても三百程度しかいないだろう。
冒険者を合わせると五百くらいか。
まぁ小さな領地だし、ただでさえダークエルフに襲われて数が減ってたもんな。
これだけ出すことができたらいい方なんだろう。
でもこいつらが戦うわけじゃないし、数はこれくらいでも問題ない。
証人が欲しいだけだしな。
ここで勝てばこいつらも安心して帰ることができるだろうし、戦争に勝ったとしてこれからの政治も上手くできるはずだ。
もし向こうがまだ抵抗するようだったら、国ごと滅ぼせばいいだけだもんね。
やることは至極簡単。
戦うだけです。
でもヴァロッドが暗殺される可能性もあるから、誰かに護衛をしてもらった方がいいかもしれないな。
仲間に血印魔法で契約してもいいって奴はいるだろうか?
無理にとは言えないし、この辺は少し考えておかないと……。
『おっ』
『兄ちゃん気付いた?』
『ああ。五千の兵士を倒したというのに、その倍くらいの数で攻めて来たな……』
『どうする?』
『俺たちはまず姿を隠す。あいつらが攻めて来た時に横槍を入れる』
『了解。レイ、ウェイス。おいで』
『『うん!』』
三匹は隊列から離れ、近くの森へと入っていく。
それを見ていた兵士たちは急に動き出したエンリルたちを見て警戒し始めたようだ。
小さな隊なのでその話はすぐに全体へと広がり、誰もが剣の柄に手を掛ける。
ヴァロッドもそれに気付き、すぐに近くにいたハバルに声をかけた。
「ハバル。どうして急に動き出したんだ?」
「聞いてみます。ガルザ」
『ああ』
兵士たちの動きが決まった時、ガルザだけはこちらの部隊に入るように指示をしておいた。
アストロア王国の方は俺たちだけで行くから通訳とか必要ないしな。
子供であるセレナを連れてくるわけにはいかないし、こうしてガルザを通訳係としたのだ。
ガルザはすぐに俺のところに来て、今の動きについて質問する。
俺は奇襲を仕掛ける段取りを教えた。
内容はこうだ。
サニア王国の兵士はまだ俺たちが戦争に加担するとは思っていない、と思う。
まぁ油断させるためというのが一番適切だろう。
身を隠し、敵が突っ走ってきたところで俺たちが横槍を入れて殲滅を開始させる。
これですぐに片づけられる筈だ。
初動は俺の水狼の王。
破裂する特性を活かして自爆特攻を仕掛ける。
その後にベンツが奥側の敵をなぎ倒し、次にレイとウェイスが魔法を使って敵を倒していく。
俺は今回、完全にサポートに回る予定なので、手加減した遠距離攻撃を使って援護していきますよ。
味方の数を増やしてどんどん敵を倒していきます。
『あ、ガルザは人間たちと一緒に居てもらうぞ』
『俺だけですか?』
『ああ。あいつらは俺らに目がないらしいからな。囮役ってことで』
『承知しました』
一匹でもエンリルがいたら、矢は飛ばしてこないだろう。
できるだけ痛めないようにして倒すのが、あいつらのやり方っぽいしな。
それにこちらの兵力は約五百。
圧倒的な兵力差があるし、力でねじ伏せられると思って接近戦を選ぶだろう。
多分……。
まぁ矢を飛ばして来たら俺が空間魔法で守ってやるけどな。
あ、そうか。
攻撃にばかり考えがいって防衛について考えていなかった。
これは失敗……。
今更土の鎧とかこいつらに付けてみる?
嫌がりそうだからやめておこう。
よし、ガルザもこの事を説明しに行ってくれたらしいな。
ヴァロッドが兵士たちに説明して、ここで部隊を展開するようにと指示している。
慌ただしく動き始めた兵士たちだったが、すぐに陣形は整えられた。
こっちはよさそうだな。
じゃあ俺もあの三匹を追いかけることにしますかね。
体がでかいから目立つのよー。
走って三匹と合流する。
俺がここに来る頃には敵の匂いがどんどん濃くなっていた。
ベンツはすぐ近くまで来ていると教えてくれたので、森から敵の方を見てみれば、確かに大勢の兵士がこちらに向かって進軍していた。
『こりゃ……多いな』
『そうなの? あの時の魔物の群れに比べたらそうでもないけど』
『俺とお前はな。でもレイとウェイスには少し厳しいか?』
『だ、だ、大丈夫……』
『大丈夫なの!』
『レイは大丈夫そうだな』
強気な性格をしているウェイスだけど、こういう本番には弱いみたいだな。
それは経験を通して克服してくれ。
さ、敵の様子を見て攻めるとしましょうかね。
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