8.30.ちょっと待った


 俺が意気込んでいると、ようやくヴァロッドがギルドから出てきた。

 ギルドマスターのディーナも一緒だ。

 今回はガルザに通訳を頼む。


「呼んでおいて遅れた。すまん」

『大丈夫だ。やることも決まったしな』

「ん?」


 ということで俺はハバルから聞いた情報を基に、俺たちの行動方針を教える。

 ライドル領の兵士はアストロア王国方面へは一切いかないため、文句はないはずだ。

 だがヴァロッドは少し考えこんでいるらしい。


 はて、なんか変なことあるかな。

 連絡するのにも時間が掛かるし、今から行っても問題はないと思う。

 サニア王国の兵士が来るのにも時間が掛かる。

 今の内に各個撃破して、向こうは大丈夫だろうかという心配を兵士から消し去ってやることができれば、彼らも集中することができるはずだ。


 意外と不安って顕著に体に現れるからね。

 俺の意見としてはこうなのだが……どうだろか?


「悪くない。が、ちょっと待つんだ」

『お?』

「アストロア王国の兵士は今日出発したばかり。それにエンリルたちが味方に加わっていると知られていない。お前たちならすぐにでも始末できるだろうが、アストロア王国に近い場所を戦場にしては駄目だ。できるだけ与える情報を減らさなければならん」

『ああ、確かに』


 うーん、ちょっと俺が急いていたみたいだね。

 俺らに関する情報はほとんど知られていない。

 それを守る為にも、できる限りアストロア王国の兵士を国から遠ざける必要がある訳ね。

 近かったら近隣の村とかにもバレちゃいそうだもん。


 可能な限り、今ベンツがやっていることを続けたいっていう感じかな。

 戦場から情報を持ち帰らせない事。

 これが今は重要になっている。


 個々の強さに自信を持ちすぎてしまっていたな。

 うん、反省反省。


「しっかしまぁ、魔物だというのに良く頭が回るね」

「ディーナ」

「だってそうだろう? どんなに妥協したって魔物は魔物さ。愛玩動物じゃないんだから」

『その通りだな』

「フェンリルまで言うか……」


 馬鹿にしているわけではないのだろうが、ディーナの言葉はなんだか棘がある。

 まぁ今までずっと魔物を倒し続けてきた冒険者なのだ。

 彼女の態度は分からんでもない。


 俺が同意したことに少し驚いていた様だが、すぐにため息を吐く。

 やりづらい、と言っているみたいだな。


 人間と魔物。

 まぁ普通は相まみえぬ存在だからな。

 かくいう俺も、人間の立場を利用しているようなもんだし。


 今の状況だとお互いがお互いを利用し合ってる感じか。

 ウィンウィンとまではいかないだろうが、それに近い形は保てていると思う。

 こいつらがいなければ俺たちはいつまでも人間に脅かされなければいけないし、俺たちがいなければこいつらはただ蹂躙されて終わる。


 むむ、となるとこの戦争絶対に勝たないといけないな。

 いや余裕だろうけども。


「すまんなフェンリル。こいつはこういうところがあるから……」

『問題ない。思うところがある人間もいるだろう。お前が特殊なだけだ』

「俺だけではないと思うのだが」


 それは言えてるな……。

 なんなら俺らの仲間にも変な奴いるしな。

 セレナとか。

 一番の問題児であり、この関係の一番の貢献者ってどういうことだよ。

 あの時はマジで肝が冷えたわ。


『で、お前たちの詳しい動きを教えてくれ』

「ああ。ライドル領の兵士は俺が最前線にて指揮をする。形だけになるだろうがな」

「……私が冒険者を指揮するよ。半分はここに残す予定さ」

「今は移動するための物資を調えさせているところだ。あと四日あればすぐにでも向かうことができる」

『出発はもう少し先だろう?』

「いや、俺たちの足ではあの戦場に向かうまでに時間が掛かる。五日後に進軍。大体九日後に接敵する予定だ」

『となると、八日後くらいにアストロア王国も潰した方がいいか』

「そうなるな」


 じゃあ俺たちはあの時決めたチームで戦争をすることになりそうだな。

 まぁそれならそれでいいか。


 んー、となるともう少しアストロア王国の方に仲間を送った方がいいか。

 この辺は俺の魔法でやれば問題ないかな。

 土狼はヤバイとか三狐が言ってたけど戦争だからね。

 水狼の王と一緒に使ってやろうじゃありませんか。

 あ、その辺のことも後で説明しておかないとな。


「話は終わったかい?」

「俺たちがやるのは移動することだけだ。難しい話ではないからな」

「じゃあ私は戻らせてもらうよ。まだやることが多くてね」

「そうか」


 ディーナはそう言いながらギルドの中へと戻って行った。


 そういえばメイラムが作った毒の剣どうしたんだろう。

 使うつもりなんだろうか。

 まぁいいけど……。


「まだお前たちの力を疑っている者は多い。今回の戦いで実力を見せてくれれば、あんな奴らでも納得するだろう」

『逆に怖がられないか心配だがな』

「可能性は……ゼロではないな……。その時は何とかしよう」

『じゃあ任せる』


 そうなった場合は考えを変えさせるのは難しいかもしれないけどね。

 怖いものは怖いし。

 そうなった場合は俺たちが距離を取った方がいいか。


 というか……。


『お前の領民。よく付いてきてくれるな』

「まったくだ。まぁ、そうさせてしまったのは俺だからな……。何とか打開してやるさ」

『後のことは任せるぞ。敵を始末するのは任せてもらうがな』

「期待している」


 開戦まであと九日。

 俺も魔法を少し試しておくとするかな。

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