8.26.全力阻止


「フェンリル。お前らに任せたい」

『何をだ……』

「あの場所に集まってくる冒険者を片っ端から始末して欲しいんだ。相手に情報を与えてはいけない」

『めっちゃ簡単なことだな?』

「いや、普通簡単じゃないぞ……」


 え、そうかな?

 まぁ人間たちだったら向かうまでに時間が掛かるだろうし、野営の準備とかいろいろしなきゃいけないもんな。


 でも俺たちであればそんな事必要ありません!

 一度行ったことがある場所だったら俺が闇魔法で開通することができるし、それがなくたって速度自慢の仲間がいっぱいいるのです!

 なにも問題はない。


 いや問題あったわ!!

 今誰も監視付けてねぇ!!


『ベンツ!!』

『呼んだ?』

「「いたたたた!!」」

『うわあああ!!』

『『うおおおお!?』』


 ベンツが一瞬で走ってきた。

 だが纏雷を使っていたらしく、ベリルとヴァロッドに静電気が襲い掛かり、子供たちは毛が逆立って大変なことになってしまう。


『あっ……。君たち居たの……』

『ちょっとお父さん! なんで雷魔法使って走ってくるの!』

『え、いや! う、ご、ごめん……』

『これどーするのー!』

『えーっとだな……』


 体をフルフルとさせても毛は一向に元に戻る気配を見せない。

 シグマとラムダも同じ状況だったが、ラムダが水魔法のミストを使って毛を整え始めた。

 それに倣ってシグマも隣に座り、同じ様に整えてもらっている。

 炎魔法で乾かすこともできるようだ。


 てかすごい、セレナがお姉さんになってる。

 おいベンツお父さん、しっかりしないといけないんじゃないですか?


 娘に怒られたベンツは耳を垂らして申し訳なさそうにしている。

 ……あれ、これ悪いの俺では?

 大声で呼んだから急用だと思って来てくれたんだもんな……。

 いや急用だわ!


『ベンツ。悪いが俺たちが以前戦った場所に向かってくれ』

『……兄ちゃん、僕その場に立ち会ってないよ』

『んじゃ俺のワープで。近づいて来る人間全部始末して欲しい』

『簡単だね』

『近くに俺の土狼もいる。時々視界を共有して見るから、何もない時は近くに居てくれ』

『了解』


 ベンツであればこれくらいの仕事は簡単にこなしてくれるだろうしな。

 おまけにこいつが行く方向もそっち側だし、問題なし。

 だけどセレナを一匹にすることになっちゃうな。

 その辺は大丈夫なのかだけ聞いておくか。


『どうなんだ?』

『……まぁ、うまくやってるみたいだし、問題はないかなって。心配ではあるけどね』

『可愛い子には旅をさせよって言うしな! んじゃ行ってこい!』

『はぁ……。じゃあ留守は頼むよ』


 ワープゲートを作り出して、それをあの戦場に繋げる。

 ベンツが入っていったことを確認してからそれを閉じた。

 一度土狼に視界を移してみると、そこには確かにベンツがいる。

 早速耳を澄ませて周囲を索敵しているようだ。


 うん、やっぱり大丈夫そうだね。

 視界共有を終わって、本体に戻るっと。


『お、お前たち毛はもういいのか』

『何とか直った~。リーダーが前に教えてくれたからねー!』

『本当は寝癖を直すものなんだけどな……。まぁいいか……』


 小さな魔法を使うだけでも練習になるしね。

 それはそれで問題はなし。

 

 さ、とりあえずあっちの問題は解決かな。

 ベンツがいれば情報収集に来た兵士たちは全員帰ることはできないだろうし、大丈夫っしょ。

 あいつマジで速いしな……。

 目で追うことができたらいい方だよ。


「ワープだと……?」

『んっ?』

「え、お父様。フェンリルさんたちはこの魔法を日常的に使ってますよ?」

「なんだと……?」


 え、これなんか難しい魔法だったりします?

 めっちゃ簡単だよね。

 場所と場所指定して空間を潰すだけだし。

 界、これ簡単だよね。


『難しいことないよな、界よ』

『いや普通は難しいですよ?』

『え? でも闇魔法使ってる奴は皆できてるじゃん』

『子供の頃から教えているからですよ。ある程度成長してから覚えようとすると難しいんです。なのでオール様の群れのレベルは恐ろしく高いかと』

『マジ?』


 マジで?

 それは知らなかったなぁ……。


「まぁ……いいか。これくらいで驚いていると身が持たなさそうだ」


 いやそこは諦めんなよ。 

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