8.23.現場


 そういやサニア王国から戦闘があった場所まで結構時間かかるんだった。

 いや、俺たちの場合は半日で往復できるんだけどさ……。

 冒険者の足おっせぇのよ。

 一週間って長くね?


 まぁその間にもライドル領では戦争の準備が整えられているし、相手が情報を集めるのに苦戦してるってのはちょっといい情報かも。

 でもこれだけ時間が経っても、まだアストロア王国からの使者はサニア王国に来てないな。

 どんな姿なのか分かんないけどね……。

 多分甲冑着てるでしょ。

 多分。


 ちなみに俺の作った土狼五体は、それぞれに与えられた場所で監視作業に回ってもらってます。

 何かあっても警告音とか流れないから、ちょっと面倒なんだけどね……。

 自動で防衛はしてくれるみたいだし、多分長生きはしてくれるでしょ。


 ということでこの一週間、毎日こいつらの位置を確認していたわけだけども。

 特にそれらしい会話しないんだよなー。

 音が聞こえるっていうのはいいね。

 視界共有に加えて話も聞こえるんだから、便利だよな土狼って。


 冒険者たちは、ようやくあの場所へと訪れた。

 彼らはサニア王国から依頼されてこの場を調査しに来た冒険者で間違いなかったらしい。


 ここは、何かが起こったということがよく分かる。

 地面が隆起しており、壁の様になっていた。

 地面は凸凹で足場が悪く、その隙間には人間の死体だったと思われる砕けた鎧が散らばっている。

 剣もその辺に転がっており、折れたり曲がったりと酷い有様だ。


 死体は既に小さな魔物やカラスみたいな動物にすべて食べられてしまっている。

 周囲にはひどい匂いが漂っているらしく、冒険者は鼻をつまんでその状況を確認していた。


 一人の冒険者が鎧を確認して、目を見開く。


「おい……これサニア王国の兵士だぞ」

「何があったっていうんだよ……」


 近くにある鎧をすべて確認していく。

 だが手に取るものはサニア王国の兵士の鎧しかない。

 一つとしてライドル領兵士の物がないということに気付いて、顔をしかめてしまう。


「全部サニア王国の鎧だぞ……」

「ていうかこの現状は何だよ……。なんの魔法だ?」

「一人も帰ってこないっていうから調査しに来たけど、まさかこんなことになってるとはな……」


 冒険者三人が、頭を掻いて困ったような表情をしている。

 装備の一部を回収して、持参してきたバッグに入れた。


 まぁ予想通りの反応と言えば反応だな。

 この現状は魔法と言えば魔法だけど、どっちかっていうとガンマの素の力が凄いだけだよねぇー。

 あいつこういう時じゃないと本気出せないからな。


「なぁ、これ急いで帰った方が良くないか?」

「同意だな……。ライドル領に何がいるんだよ」

「エンリルがいるとか言ってなかったか? あのー……テクシオ王国から来た……誰だっけ」

「ゼバロスさんな。王様と一緒にライドル領に行った時にエンリルを見たっていうけど……」

「兵士がこれだろ? 戦うとか無理な気がするんだけど」

「「俺も」」


 まあこちら死傷者ゼロですからね。

 なんの痛手もありませんのよ。

 さて、この報告を受けてサニア王国がどう動くのか気になるところだなぁ。


 冒険者が帰り支度をし始めた。

 証拠となる物を回収して、それをバッグに詰めていく。

 何かを記録しているようで、羊皮紙にペンを走らせていた。


「よし、帰るか」

「分かった」


 え? 帰っちゃうんですか?

 そうはさせませんよ。


 俺は土狼を冒険者の前まで向かわせる。

 茶色い狼が来たと警戒した冒険者だったが、近づくにつれてそれが普通の狼ではないということに気付いたようだ。


「!? おい!! なんだあれ!」

「土……の狼……?」

「土の狼!? おい逃げろ! マジでそれはヤバイ!!」


 一人は土狼のことを知っているようで、二人に警告をした瞬間にすぐ踵を返して逃げ始めた。

 二人もそれを追おうと走り出すが、それより俺の土狼の方が速い。

 だけどこのままこいつだけで戦うのはナンセンス。

 壊された場合ちょっと面倒なのでね。


 土狼の中にある魔力を使って、地面を盛り上げる。

 ただでさえ足場が悪いこの場所では、冒険者はすぐに逃げられなかったようだ。

 バランスを崩して倒れてしまう。


「──」

「ごあああ!?」


 土狼で一人の冒険者の足を噛み千切る。

 肉をぺっと吐き出して次の獲物に狙いを定めた。


 さすがに逃げられないと悟ったのか、残り二人の冒険者は武器を手に取って構えを取る。

 剣を大きく振りかぶって土狼に振り下ろすが、それを俺は危なげなく回避して尻尾で腹部を強打した。


「ガッ──!?」


 ボギュッという嫌な音が人間から鳴った。

 骨が折れたかな?


「野郎!」


 ガキィイン……。


「は?」

「──」


 一人の冒険者が振り下ろした剣は土狼の背中に当たったが、剣が折れてしまった。

 この土狼そんなに硬かったのね。

 いや、一発で折れるって剣の方が脆かったんじゃないだろうか。


 攻撃をされた瞬間、土狼を飛び上がらせて爪で顔面を抉る。

 視界を奪った瞬間に喉元に噛みつき、更に抉り取った。

 一人は死に、一人は気絶してもう一人は足を抑えて行動不能となっている。

 うん、俺の勝ちですね。


 サニア王国には攻めてきてもらわないといけないんですから、ここは口止めさせていただきますよー。

 じゃないと俺の出番減っちゃうじゃん。

 ここで集めた情報がサニア王国に入らない場合、アストロア王国からの援軍要請を絶対に受けるだろうからね。

 ってなるとここに土狼を配置しておくのがよさそうだな。

 ここに来る冒険者全部倒しちゃえばいいよね。


 それと、こいつらがなんか紙に書いてたよな。

 持ち帰ってヴァロッドに見てもらおう。

 てなると、もう一匹土狼を作っておいた方がよさそうだね。


 というわけで土狼の中の魔力半分を使って、もう一匹土狼を作る。

 その一匹に冒険者の荷物を全部詰めて、ライドル領へと帰ってもらいましょう。

 お、俺今回いい仕事してるんじゃない?

 よぉし、じゃあこれを持って帰るか!

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