8.10.大量の素材


 何とかこのクッソ重い蛇を冒険者ギルドへと持ち運んだ俺を見た者たちは、この蛇を指さして騒めき始める。

 人が人を呼んで騒がしくなり始めた。


 そう言えば前にも、こいつらに魔物を渡した時に驚かれた時があったな。

 ということはこいつもそれなりに価値のある魔物なのだろうか?

 俺たちからしてみれば、肉も少ないし鱗は硬いしでいいことなんて何にもないんだけどね。


『あ、レイ。ちなみのこれってどれくらいあるんだ?』

『いっぱいなの。要らないの』

『要らねぇの持ってくんなよな!』

『レイたちも食べられないのに子供たちがこんなに硬いの食べられるわけないの! だったら人間に渡した方がいいと思ったの!』

『む、一理ある……』


 そう言われてみればそうだよな……。

 襲ってきたから狩ったわけだろうし、肉も少なさそうなこれを食べようだなんてこいつらも考えなかっただろうしね。

 俺でも食べられそうにないもん。

 いや、風神でなら斬れるか……?


 でもまぁ、人間たちも集まってきているし、もしかしたらこいつらが有効活用してくれるかもしれない。

 まずは話を聞いてみましょうかねぇ。


「あれって……ケバラスネイクじゃねぇか!?」

「絶対そうだよ! ギルドマスター呼んでくる! 鍛冶師に連絡よろしく!」

「おっしゃ任せろ!」

「ちょっと待ってギルドマスター今どこ!?」

「知らん! 誰か革細工の兄ちゃんも呼んできてくれ!」


 んーー?

 なんか想像以上に大変なことになってきている気がするんですが。

 え、これってそんなに価値のある蛇だったの?


 誰かこの蛇についてもう少し詳しく説明してくれませんかね。

 セレナー! どこだー! 通訳してくれー!


 俺たちが人間たちの反応に困っていると、彼らは詰め寄ってその蛇を囲んでしまった。

 誰もが蛇の鱗に触ったり、剣の柄で軽く叩いて音を確認している様だ。

 ここに居るのは上位ランクの冒険者たちばかりであり、素材を見る目は長けている。


 一人の冒険者がナイフを取り出した。

 それはクリスタルのような物を加工されてできている得物のようだ。

 口を開いて、ナイフを持ったまま喉に手を突っ込む。

 首筋当たりから切っ先を突き出し、グッと押し込んで切り口を広げた。

 一度引き抜き、冒険者に指示を出す。


「っし。行くぞー。押さえてくれ」

『『『『了解』』』』

「気をつけろよ」


 数十人が蛇を押さえつけ、誰もがけば立っている鱗をできる限り掴む。

 クリスタルのナイフを持った男が先ほど付けた切り口に再びナイフを入れ、今度は滑らすように頭から尻尾の方へとナイフを進ませる。

 すると、何の抵抗もなくナイフがまっすぐ進んだ。

 どうやらこの蛇は背骨の部分の一線には鱗が付いていないようで、そこを狙って皮を切り裂くらしい。


『んっ? いい匂い……』

『た、確かに……』


 ウェイスとドロが匂いを嗅いで、そう言った。

 うん、凄くいい匂いがする。

 生肉なのにこんなにいい匂いなんてするんですねぇ。

 でもやっぱり肉自体は少なさそうだな……。

 食べることができたとしても、満足するまでは食べられないだろう。


 尻尾までナイフを入れた冒険者は、後ろを振り返る。

 そこには手を怪我した者が数名いた。


「いってぇ……」

「こんなに斬れるの?」

「だから気をつけろって言っただろ。って素手で掴む奴があるか馬鹿!」

「うぇ!?」

「駄目なんですか!?」

「自分の手を見やがれ! 鱗が鋭いんだ! あとこいつの体液には毒がある! 今すぐ洗って治療してもらってこい!」

「「うっそまじで!!?」」


 若手冒険者があわあわしながら冒険者ギルドへと引っ込んでいった。

 それを見ていた他の者たちは、からからと笑っている。

 笑いごとか?


『オール兄ちゃん、あれ食べてみてもいいかな』

『毒があるらしいぞ』

『え!?』

『メイラムに見てもらってからにしような。頼めるか?』

『分かり……ました』


 ふむ、レイがこいつらを仕留めたのは正解だったみたいだな。

 多分だけど、こいつは体当たりをして自分の体についている鱗で敵に傷をつけて、毒を敵に入れるっていう戦い方をするんだろう。

 氷漬けにして仕留めるっていうのは安全だったわけだ。


「おーし、じゃあ鱗を剥いでいくぞ。斧持ってる奴はいるかー?」

「斧じゃないと駄目なのか?」

「肉ごと切り取らないと剥げないんだ。あとは鍛冶師や革細工に頼んで肉を綺麗に取ってもらうのさ。俺たちができるのは、無駄なことをして品質を悪くさせないようにすることだけな」


 小さめの斧を受け取った彼は、大きく振りかぶって皮に刃を食い込ませる。

 ギリギリの隙間を狙っている様なので、これはもはや職人技だ。

 八回ほど斧を振るって、ようやく一枚の鱗を解体した。

 それは半分は楕円になっており、もう半分は錐三角形となっている形をしている。

 楕円の方が肉についていて、錐三角形の方が外に突き出していた。


 近くで見てみると、確かに鋭い。

 本当の刃物とまではいかないが、小さくギザギザが付いているので肉や皮を裂くのにはこれで十分なのだろう。


 で、これ何に使うの?

 こんな鱗が防具や武器に使えるのか?


『ま、いいや。三匹とも。お前らが持ってきた蛇全部出しとけ』

『『『了解!』』』


 三匹はテッテケテーと走っていき、すぐに光箱を持ってギルドの前にやってきた。

 加えていた箱をぽいと投げれば、そこからはまた蛇が出現する。

 大きさもまちまちだが、鱗が大きいのは体長は小さいらしい。

 それを見た冒険者たちは、固まった。


 だが三匹は残り四往復して、ようやくすべての蛇を光箱から出したらしい。

 えーと、うん。

 蛇の山。


『何匹いるんだ……?』

『レイが狩ったのは五十匹だったの。ここにあるのは半分なの』

『……もういいや。これ以上はいらない』

『えー!』


 冒険者はしばらく固まていたが、ギルドマスターのディーナが出てきてようやく動いた。

 だが首を動かしただけで、この蛇をどうするかを彼女にすべて託すらしい。


「なんだ……これは……」

「ケバラスネイク……です」

「見たら分かる。なんだこの数は……。おい、ヴァロッド様を呼んできな。解体屋も全員引っ張ってこい」

『『はい!』』


 心底困ったような顔をしているディーナは、不気味な姿を保ったまま頭を掻いた。

 迷惑だっただろうか?


「これは、レンの婆さんが怒るなぁ……」

『まじ?』

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