7.9.花束
俺はスルースナーを埋めた後、暫くそこに座っていた。
何にもする気が起きず、とりあえず一匹になりたかったのだ。
あいつは本当に今までよくやってくれた。
初めて会った時は驚いたし、こんな攻撃魔法があるのかと知った。
経験も豊富で、統率力もあり、副リーダーとしてよくやってくれていたと思う。
俺の至らないところを全部補ってくれていたな。
狩りを子供たちに教えたり、その中で戦術も教えてくれていた。
俺が教えてもらいたかったくらいだがな。
まぁ仲間たちは俺に対する評価が少し過剰なので、知っているだろ? とよく思われている。
元人間なんだから、本能で理解しろなんてできないのにな。
でも、あいつのお陰で仲間は成長したと思う。
最後に何を思ったのか、俺には理解できなかったが……。
『寂しくなるな』
仲間が一匹いなくなるだけで、ここまで虚しくなるものなのか。
俺がスルースナーに頼りすぎていたっていうのもあるんだろうけどね。
あいつとは一回しか戦闘しなかったなぁ。
俺もあの魔法、真似しようと思えばできるかもしれないけど、回復魔法を使用しなければならないから使いたくはないんだよね。
いざという時には使うけど。
俺が思い出に浸っていると、後ろから足音がした。
それと、いい匂いが。
振り返って見てみると、そこにはベリルとセレナがいた。
ベリルの腕には大きな花束が抱えられており、それから少しきつい花の匂いが漂っている。
スルースナーを埋めた場所は少し盛り上がっている為、その場所はすぐに分かったのだろう。
ゆっくりと歩いていき、その花束を墓の前に置く。
胸に手を置いて、一礼をした後数歩下がって楽な姿勢を取った。
「これが、死者に対する僕たちの埋葬方法です」
『
「さっきのエンリルは……どんなエンリルだったんですか?」
『スルースナー。あいつの名前だ。俺の代わりに仲間たちの面倒をよく見ていてくれた。子供たちに狩りを教え、縄張りを覚えさせ、指導してくれた。俺よりもリーダーらしかったかもな』
話を聞いてセレナはスルースナーが死んだことを悟ったのか、耳をぺたんと下ろして通訳をしてくれていた。
小さな子供にこういった話をするのはあまり良くはないかもしれないが、後に知ってしまう事だ。
受け止めてくれるのであれば、受け止めてもらっておこう。
今考えてみると、俺は子供たちを愛でているだけで他に何かしたことはなかったなぁ。
やったと言えば魔法による特訓くらいか。
俺が狩りに出ると小さな魔物は木っ端みじんになるので狩りは禁止されていたしな。
スルースナーにも子供たちの参考になっていないと言われたっけか。
意外と厳しかったんだよなぁ。
「先生みたいですね」
『……先生か。確かにそうかもな』
『? リーダー、せんせーってなに?』
『お前たちにいろいろな事を教えてくれる大人のことだ』
『へー』
セレナたちはまだ教えてもらってはいなかったもんな。
この子たちもそろそろ魔法が使えるくらいになると思うので、もう少ししたら特訓させないと。
こういうのもスルースナー全部管理してたもんなぁ……。
確かガンマの子供たちには教育をしていたんじゃなかったっけな?
その報告とかも聞きたかった。
というか……もう少し長くいてやれればよかったかもな。
あいつはそんなこと気にしなさそうだけど。
『オール兄ちゃーん』
『……デルタか。どうした?』
スルースナーを連れて来たデルタが向こうから戻って来た。
すぐに隣に寄ってきて、話をし始める。
『……スルースナーさんは』
『寝た』
『……そ、そっか。んんっ、ヴェイルガのことなんだけど……調査が終わったらしくて。報告しようと思ってたんだ』
あれから少し経ったからな。
だがヴェイルガでも調査にここまでの時間がかかったのか。
『そうだったのか。で、どうだったんだ?』
『うん。異常発生しているだけみたい……。ぼ、僕は見てないけど、あの時の悪魔の仕業じゃないって言ってた』
『その異常発生の原因は?』
『ま、まだ調査中だって』
『じゃあヴェイルガにはそのまま調査をしてもらっておいてくれ。必要であれば一角狼たちを導入させてな』
『う、うん。じゃあ伝えとくね』
デルタはそう言うと、ワープゲートを作ってそそくさと本拠地へと帰って行ってしまった。
もう少しゆっくりしておけばいいのにとは思ったが……あいつはまだこっちに慣れたくはないのかもしれないな。
無理にとは言わないので、とりあえずそっとしておこう。
そういえば、俺たちがここに来てずいぶん経つが、ヴァロッドは今何をしているんだ?
レイドの姿は見るけど、あいつの姿は全く見ない。
『ベリル。ヴァロッドは何をしているんだ?』
「お父様ですか? 今はアストロア王国に行って事情を説明しに行ったと聞いています。ここはアストロア王国の領地で、お父様はここの領主を勤めている伯爵なんです」
あー、なるほどな。
だからここのことは皆口を揃えて「ライドル領」っていうのか。
小国なのね。
じゃあ俺たちはその帰りを待っておけば良さそうだな。
「あ、あのー……リーダーさん」
『なんだ?』
「他にもエンリルの子供っているんですか?」
『ああ。セレナと同じ年の子供が数匹』
「こっちには来ないのです?」
『それは親次第だな』
俺が無理に、というわけにはいかないだろう。
というか何でそんな事を聞いてくるんだ?
「せ、セレナ一匹を他の子たちが取り合うので……」
『疲れるー。お手入れはいいけど~』
『……ああ……』
そういうね……。
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