7.8.スルースナー


 時の流れというものは早いもので……あれから一週間の月日が経った。

 最近ヴァロッドの姿を見ていないところを見るに、彼は彼なりに様々な仕事をしているのだと思う。

 その辺は任せるしかないので頑張って欲しい。


 この一週間で、結構大きな変化が訪れた。

 一番大きいのは……ガンマとシャロだね。

 えー実はですね、シャロが落ちました。


 人間の手によるブラッシングはとても気持ちいいようでして、二日目くらいでメイラムと同じ感じになったのかな?

 メイラムは最初から人間への恨みなどはなかったので、すぐに受け入れてしまったようだが。


『寝てるし』

『スゥー……』


 ブラッシングしてもらいながら寝てる。

 最初は嫌がってたけど、暴れることはしなかった。

 そんでもってやらせておいたら意外といいものだという事に気が付いたらしく、今ではされるがままになっている。

 ここまで簡単に変わるもんなんですねぇ。


 まぁ人間たちも次第に増える俺たちに完全になれたようで、今ではいろんな世話をしてくれている。

 一番良くしてもらっているのは恩人……いや、恩狼のメイラムだ。

 もうご家族からの支援が手厚い。

 どうなってんだお前。


 今のところ大きな問題もなく、平和に過ごせている。

 冒険者たちも仕事の合間に撫でに来たり、見に来たりしているな。

 まぁ問題児はいるんですけどね。


「っしゃこーい!」

『この野郎! なんで吹き飛ばねえんだ!』

「はーっはっはっは!」


 うーん、楽しそうですねぇ。

 脳筋は脳筋同士で楽しんでもらう事に致しましょう。

 ガンマも人間と距離は置いているけど、協力はしてくれている。

 今はレイドが構ってくれているので、あいつに任せておこう。


 いい特訓相手になっているな。

 でもガンマは本気を出していないけどね。

 あいつが暴れたらこの辺無くなっちゃうし、それだけは阻止しておかないとな。

 まぁその辺の常識は持ち合わせているみたいだし、大丈夫だとは思うけどね。


 あ、そうそう。

 いろいろとしてもらっている代わりに、レイたちが狩って来た魔物を人間たちにおすそ分けをしたことがあった。

 冒険者は魔物の素材で防具や武器を作ったりするし、必要かなと思って小さめの魔物をあげたのだ。


 するとどうだろう。

 人間からすればその魔物は非常に高価な物であったらしく、一時は大騒ぎになった。

 あんな小さな魔物が、ここまでの騒ぎを発展させるとは思っていなかったのでびっくりしたよ。


 俺は人間の金銭とかは全く理解していないので、後は彼らに丸投げしておいた。

 あの大きさの魔物であれば子供の腹を満たす程度の肉しかないので、無くなっても別に問題はない。

 レイたちがまた狩ってきてくれるだろうしな。


 そう言えば、冒険者ってどんな魔物と戦っているのだろうか?

 暫くここに住んでみたけど、全員が違う方向に向かって行っていたし、この辺で狩りはしないのかもな。

 今度暇があれば付いていってみるとするか。


『……お?』


 スルースナーとデルタの匂いがした。

 どうやらすぐ近くまで歩いてきている様だ。

 驚かれてもいけないし、向かいに行くとしよう。


 すぐに二匹が歩いてきている方へと向かうと、簡単に発見できた。

 だが、その容姿は以前のスルースナーではなかった。

 一瞬驚いてしまったが、匂いも毛の色も本物だ。


 しかし、体中から突き出している骨を見ていると、本物かどうか怪しくなってくる。

 戦ったのか?

 であれば何故骨を戻さないのだろうか。

 そんな考えが頭の中を過ったが、スルースナーがふらりとよろめく。

 それをすぐにデルタが体で支えて立て直す。


 ……もう、近いんだな。


『オール兄ちゃん……』

『ああ。ここまでありがとうな、デルタ。ワープできたのか?』

『ご、ごめん……僕ここ知らなかったから……歩くしかなくて』

『そうか。ご苦労だった』


 俺はすぐに闇の糸でスルースナーを持ち上げ、背中に乗せる。

 細かく飛び出している骨が少し痛いが、これくらいは問題ない。


『ずみまぜん……』

『いいさ。……スルースナー、お前はどうしてここに来たんだ? 俺に死期を教えてくれるだけなら、ヴェイルガやガルザに報告してもらえばよかっただろう』

『……フフ、人間どいうものを、見でおぎだぐで』

『じゃあ、まずは向こうに行くか。デルタはどうする?』

『ぼ、僕も行くよ……』


 それに頷いて、俺は人間たちが集まっているいつもの場所へと運ぶ。

 この姿は流石に怖がられるかもしれないが、最後の頼みだ。

 聞いてやらなければならないだろう。


 だがどうしてこんなに骨が出てしまっているのだ?

 それが知りたい。


『スルースナー。その骨はどうした』

『勝手に、生えでぐるのでず。戻ずにば回復魔法を使わなげればならないのでずが、ぞういうわげにもいがず……』

『そうか……』


 魔法の副作用、というのが正しいのだろうか。

 本当にこの世界の魔法は分からないことが多い。


『着いたぞ』


 俺はそう言ってから、スルースナーを地面に下ろす。

 先ほどまでは歩いていたが、もう疲れてしまっているのか起き上がるそぶりは見せない。


 人間たちは俺が連れて来た狼を見て驚いているようだったが、そこまで警戒はしていなかった。

 スルースナーはそれを見て、何処か満足げに目を細める。

 こいつがどのような事を考えているかは分からないが……悪い風にはとらえていないだろう。


『安心、じまじだ』

『……』

『いい……生物だ』


 何を見てそう思ったのかは分からない。

 だが、その言葉は心の底から言っているものだという事が分かった。


 頭を地面に下ろし、大きなため息をつく。

 目を静かに閉じるが、耳を動かして分からない声を聴いている。


『あっ! 副リーダー!』


 トテトテと走って来たセレナは、スルースナーの側による。

 いつもと違う姿だったが、それに驚かずに無垢な気持ちのまま接してきた。


『久しぶり! 皆はどう? 元気だった?』

『……』

『え? なんて? 聞こえないよー?』

『……』

『副リーダー? りーだー?』


 それを見て、俺はスルースナーを闇の糸で持ち上げて背中に乗せる。


『セレナ。スルースナーは疲れてるみたいだ。休ませてくるよ』

『あいっ!』


 俺は、そのまま第三拠点へと戻る。

 背中に乗せていると、まだこいつが息をしているという事が分かった。

 だがもう、喋る元気はなさそうだ。


『スルースナー。お前は、何処で眠りたい? 俺たちを見ていてくれるか、それとも……』

『……』

『そうか。分かった』


 その後は適当に座り、風を感じていた。

 最後の時まで、こうしているつもりだ。


『……ありがとうな。スルースナー』

『──』

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