7.6.お手入れ


 レイたちは随分と獲物を狩って来たようで、俺が持って行かなければ拠点が食料でパンパンになるところだった。

 本当に何処からあんな数の得物を狩ってくるんだ……。


 向こうでの調査もしてもらっておかなければならないと思ったので、近くにいたヴェイルガに調査を依頼しておいた。

 あいつであれば足も速いし、レーダーもあるのでそれなりの速度で情報を集めて来てくれるだろう。

 期待しているからな。


 第三拠点に帰って来た俺は、早速食料を洞窟の中に押し込んでいく。

 子供たちが勝手にワープの中に入ったりしないということが分かったので、ここまではワープで全て運んできた。

 なので後は片づけるだけだ。

 洞窟自体がまだ狭いので、しっかり整理整頓をしておいた。

 こうしておけば崩れないだろう。


 さて、俺がいなかった時間はそこまで長くはなかったのだが……。

 あいつらは今何をしているのだろうか?

 心配になりメイラムと最後にあった場所まで歩いていくことにする。


 途中で匂いを嗅いでみたのだが、どうやら全員がそこにいるようで、何やら賑やかなことになっていた。

 なんだなんだと近づいていってみれば、まずメイラムの姿が目に入る。


『!? め、メイラム……?』

『……』

『ず、随分綺麗になったな……』


 俺の目に飛び込んで来たメイラムは、毛並みが非常に綺麗になっていた。

 その隣にはブラッシングで取り除かれたであろう毛玉が転がっている。

 どうやらメイラムに家族の命を助けられた人間たちが、手入れをしてくれたようだ。

 使っているのは人間が使う用の小さな櫛ばかりではあったが、それでもここまで綺麗に出来るものなのか……。


 無駄な装飾は全て外され、代わりに可愛らしい花が耳の隣に付けられていた。

 可愛らしくなっちゃって……。


『……メイラム?』

『……』

『? おーい。メイラーム?』

『……はっ』

『え? 寝てたの?』


 俺がそう言うと、メイラムは顔を振るう。

 少しばかり眠そうな表情のまま、人間を見た。


『い、意外と……悪くない、ものでして』

『ああ、ブラッシング?』

『ぶら……? なんでしょうか、それは』

『人間がブラシで手入れしてくれること、かな? この状況的になんか違う気もするけど、手入れされてたんだろう?』

『ええ……。セレナも随分……気に入った、ようで』

『ほ?』


 セレナのいる場所を見てみると、どうやら子供たちだけでセレナの毛を手入れしていたらしい。

 ベリルの足の上に寝そべって、されるがままになっていた。

 尻尾をぺんぺん動かしているところを見るに、とても気持ちがよさそうだ。


 そして毛玉でもう一匹のセレナができそう。

 まぁ今まで手入れとか自分たちでできる範囲でしかやってなかったからなぁ。

 こうして人間に道具を使ってやってもらうと、随分と綺麗になる。


『ぷしゅ~』

「け、結構取れる……ていうか……足が痺れてきたんだけど……」

「よーいしょ、よーいしょ」


 あの子供たちはずっとセレナの近くにいるな。

 まぁ大きい狼には近づきにくいか。


 ていうか……今回の一件で人間たちは以前に増して俺たちの存在に慣れを感じてきている様だ。

 メイラムに手を合わせている人間もいる。

 当のこいつはその意味を理解できていないようだったが、感謝されている事には違いない。

 この変化を素直に喜ぶことにしよう。


「ねーねー。もっと大きいのないの?」

「こんなでっかい狼用の櫛なんて作らねぇよ。鍛冶師に頼んでみるか?」

「毛の一本一本が結構太いから、隙間は少し大きい方が良いかも」

「あー、なるほどなぁ」


 そんな会話が、遠くから聞こえてくる。

 俺たちの為に何かをしようとしてくれているのだ。


 たったこれだけの事しかしていないが、やはり人間の命を救うことで好感度はおおきく上がったみたいだな。

 メイラムには感謝しておかないとな。

 それとセレナにも。


 今の所この二匹がいたおかげで、スムーズに人間との友好関係が築き上げられている。

 このままここにいる全ての人間の警戒心が解かれればいいのだが……。

 もしかしたら、既に解かれているかもしれないがな。


 ズンッ!!


『!?』


 地面が少し揺れ、大きな音が鳴った。

 音のした方向を見てみれば、そこにはガンマがいる。

 何をしているのかと思ったが……どうやら人間一人に向かって腕を振り下ろしていたようだった。


『何してんだ!?』

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