6.45.慣れない交渉
残りの残党をヴェイルガたちに任せた俺は、三狐を連れて人間の里へと向かった。
何やら背中の上でひそひそと会話をしているようだったが、まぁ放っておいても問題ないだろう。
歩いていくと、ベンツとラインがやって来た。
何処にも怪我は無いようで、作戦自体は成功したようだ。
『オール兄ちゃん。人間はあっちにいたよ』
『分かった。何かしていたか?』
『棲み処の中に入って行ったダークエルフと戦ってた。でもダークエルフの攻撃が人間に効かなくなってたよ。全部の技が弾かれてた』
『ほう?』
なんだそれ。
面白そうな能力を持っている人間がいそうだな。
となれば……警戒していったほうがいいかもしれない。
相手方も急に俺たちが現れることは想定していなかっただろうからな。
結果的に助けたという事になるわけだが、果たしてそれを理解してくれているかどうか。
まぁ行けば分かる。
ベリルに付けている土狼もいるのだから、何とかなるだろう。
俺とベンツ、ラインは並んで人間の里へと歩いていく。
理解のある狼たちなので、自分勝手な攻撃はしないだろう。
何かあっても俺は止めれるけどな。
森を抜けると、人間の里が見えた。
遠くの方に土の山と燃えている森が見えたが、それは今人間たちが消火をしているようだ。
建物自体には被害は無いようだったが、そこら中から血の臭いがする。
ダークエルフにやられてしまったのだろう。
数えきれないほどの人間が、そこら中に転がっている。
俺たちからすれば脅威にすらならないダークエルフの攻撃も、人間にとっては致命的になるほどの火力を持っていた様だ。
本当にこの人間が俺たちの家族を殺した者と同種なのか疑問がよぎるが、今は考えまい。
それに驕ってはいけない。
どの様な関係になってもこいつらは警戒しておかなければ。
『さて、どうするかね』
今、俺たちの前には数十人の騎士と思わしき装備をした部隊と、冒険者らしい成りをしている者が数名立っていた。
明らかに俺たちを待ち受けていたのだろう。
その中には、ヴァロッドがいる。
中央最前列に立ち、光魔法を使用していると見えた。
あれがどのような魔法なのか気になるところではあるが……。
まずは武装を解いて欲しいところだな。
さて、どうやって交渉するか……。
向こうから話しかけて来てくれれば楽になる気はするんだけどね。
とりあえず座るか。
『お前たちも座ってくれ』
『了解』
『まぁ別にどんな体勢からでも戦えるからいいけどさ……』
俺たちが座ると、騎士団たちは騒めいた。
とりあえずヴァロッドを凝視し、彼に話があると訴えかけ続ける。
『三狐。何か飛んで来たら消し飛ばしてくれ』
『『『分かりました』』』
毛の中に埋もれている三狐に護衛をさせておく。
無防備でいるのは流石に怖いからな。
すると、ヴァロッドが盾を地面に刺してこちらに歩いてきた。
向かってくるのは彼だけであり、後ろに待機させていた騎士団には動くなという指示を出したようだ。
冒険者も同じである。
ヴァロッドは冷や汗を流してはいるが、それでも堂々とした立ち振る舞いをし続ける。
こいつは俺たちの存在の重要性を知っていた。
簡単に追い払いはしないだろう。
すると、息を呑んでから声を俺にかけてきた。
「……エンリル……か……?」
まぁ間違ってはいない。
俺はそれに肯定し、小さく頷く。
驚いた様子を見せたヴァロッドだったが、すぐに冷静さを取り戻して咳払いをした。
だがここから先は全く考えていない。
元より考えも何もなく突っ込んできたのだ。
今人間の里が壊されるのはマズい事だったし、そのついでだったんだよなぁ。
「お、お父様ー!」
「!? ベリル!? となんだその狼は!?」
お、ようやく来たか。
徘徊させておいた大きな土狼に乗せて、ベリルをこっちに運んできたのだ。
これで少しは話をすることができるだろう。
だが、うん。
やっぱり周囲は混乱してしまっている。
領主の息子がこんだけ大きな体をした狼の前に飛び出してきたのだ。
慌てない方がおかしい話である。
だがそこはベリルに何とか説得してもらおう。
騒いでいるのを見てベンツは少しだけ警戒しているようだったが、俺がそれを止める。
『大丈夫だ』
『……』
『大丈夫だよベンツ兄ちゃん。オール兄ちゃんを信じて』
『……分かった……』
ベリルが到着し、ヴァロッドを落ち着かせる。
「大丈夫! 味方ですから!」
「味方……? というか! 何故お前がエンリルの事を知っている! その狼はなんだ!?」
「今から話しますからぁ!」
もう少し時間がかかりそうだったが、ベリルの説明により周囲の警戒も次第に薄れていく。
だが、まさか一から説明するとは思っていなかった。
少しどころかめちゃくちゃ時間かかった。
ゴブリン討伐の話を持ってきたときはびっくりしたよ俺。
それから居なくなった期間の事も話したので、全ての誤解と謎が解けた様だ。
感心しているのか驚いているのか良く分からないどよめきが周囲から聞こえてくる。
まぁ、そのおかげもあってようやくヴァロッドや他の騎士団、冒険者も警戒を解いた。
完全にというわけではないが、これであれば会話も進みやすいだろう。
「ベリル……お前、私以上の冒険していないか……?」
「そうなんですか?」
「その歳でエンリルと和解するなど……有り得んぞ……」
「たまたまです……。それより嘘をついていて申し訳ありませんでした。どうしても隠す必要があったのです……」
「ようやくレンの言っていた事に合点がいったよ」
そう言いながら、ヴァロッドはベリルの頭を撫でくり回す。
当の本人はどういう意味かは分かっていなかったようだが、怒られなかったことに安心したようだ。
あの時俺もその場にいたが……ベリルがフェンリルとエンリルという本を読んでいたという事が気になっていたんだろうな。
結局深くは掘り下げられなかったが、ヴァロッドはずっと気になっていたのだろう。
すると、ヴァロッドが一歩前に出て頭を下げる。
「息子を助けてくれて、感謝する」
話の中で、ベリルが矢に射られたという話も出た。
それからの話により、俺たちが彼を助けたという事も語られたのだ。
なのでまずは礼を言いたかったのだろう。
『今だぁ!!』
『『『あ! ちょっ!?』』』
すると、俺の毛の中から幼い声が聞こえた。
ダンと蹴って飛び上がり、俺の視界内にその毛玉が映る。
そいつは……。
『『『
「「!?」」
俺たち三匹の声が合わさると同時に、セレナはベリルへと飛びついた。
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