6.40.纏雷の双狼


 ギルド周辺で防衛線を張りながらなんとかダークエルフの襲撃を凌いでいる冒険者からの支援を受けながら、前線で戦う五人の冒険者パーティーリーダーは前へと進んでいた。

 まだ増援は来ないのかという言葉が頭をよぎるが、無駄な事を考えていてはやられてしまう。


 今だけはその考えを振り払い、目の前の事にだけ集中することにする。

 砂煙のお陰で森付近まですぐに到着することができた。

 ダークエルフもまさか五人だけで前に突っ込んでくるとは思っていなかったのだろう。

 完全に不意を突いた行動は彼らを動揺させるには十分であった。


 ザッザッザッ。

 三人のダークエルフが木の上から脱力して落下する。

 周囲にいた者たちが警戒して弓を向けるが、そこには誰も居いなかった。

 その代わり、自身の背中に激痛が走る。


「よーっつ」


 体に風魔法を纏った男性が、短剣をダークエルフの背から抜いた。

 魔法のせいで身に纏っているマフラーなど、布製の物が常にたなびいている。

 顔を半分以上隠しており、頭には長いつばのハット帽子を被っていた。


 その男性に二つの矢が飛んでくる。

 だが避けることはせず、ただその矢が体に到着するのを待った。

 すると、彼の体は異様な動きをして弾かれ、矢は木を貫通していってしまう。


「そっちかい」


 急に弾かれた体を風魔法で軌道修正し、ふわっと動いて上から強襲する。

 矢をつがえようとしていた彼の背にナイフが深々と刺さり、また地面へと落下していく。

 

「いつーつ」

「ハバル! 避けろー!」

「え?」


 向こう側では、ファイナンが腕に力を籠めて今まさに木を薙ぎ倒そうとしている最中だった。

 赤い電撃がバチリと走った瞬間、足を大きく踏み込んで横凪に大鉈を振り抜いた。


「どぅおらああッ!?」


 ズバンという大きな音と共に、木々は倒されて行く。

 だがそれと同時に一本の矢がファイナンの太ももを捉えた。

 強化している体だったが、完全に貫かれてしまっている。

 ゆっくりと倒れていく木々と同時にファイナンは膝をついてしまう。


 だが後方でのハバルの動きにより、前に出ているダークエルフの一部が困惑したため、簡単に接近することができた。

 そして木々を倒すことができたので、相手の有利となる高所は封じることができたはず。

 であった。


「!?」

「リスティ!」

「うっそぉ!?」


 何十人というダークエルフが、彼らの頭上を越えて街の方へと走っていく。

 ここにいる者以外は殆ど彼らの攻撃を凌ぐことはできない。

 彼らを向こうに行かせてしまうと、被害が拡大してしまうのは目に見えていた。


 リスティはその背中を水魔法で打ち抜こうとするが、彼女の魔法は連発ができない。

 数人を仕留めることには成功したが、それ以上は進行を許してしまう結果となった。


「なーにしてんだよ」

「勝手に行動していったハバルに言われたくないわ!」

「俺は追いかける。そっち頼むぞ」

「はぁ!?」


 また勝手に決めて勝手に走って行ってしまったハバルを見て、カチンと来てしまっているリスティだったが、背後からの強い気配により苛立ちは消え去った。

 ばっと後ろを振り返ってみると、倒れていく木々の奥から、さらなる援軍と思われるダークエルフの群れがこちらに向かってきていたのだ。

 その数は……ここからでは正確な数を数えられない程に多い。


 ファイナンの傷はでは、ここから逃げ切る事は出来ないだろう。

 彼を守りながらあの数を凌ぐのは……。


「無理だ……」

「きびしーねー。倒れた木と倒れてない木に分かれて配置するみたい。そっから街に届くって卑怯だよねぇ!?」

「援軍まだかよおい!」


 この現状を見てしまえば、流石に弱音が零れてしまう。

 援軍が来る気配もない。

 一人負傷し、もう一人は街の方へと飛んでいってしまった。

 必要な行動ではあったが、ここまで劣勢な状況になるとは思っていなかった。


 だがやるしかない。

 各々が持っている武器を強く握り、相手を見て睨みを利かす。


「ここを任せてもいいか?」

「自分くらいは守れるぜギルドマスター」

「ああもう! いやっ! 最悪だわ! 生きて帰ったら報酬山ほど積ませてやるんだから!」

「はいはーい、頑張りましょうねぇ~」


 その場にいた全員が覚悟を決めた。

 ディーナがどろりとした黒い影を出す。

 遠距離攻撃ができるリスティは既に構え、地面に手をついているナレッチは土魔法の発動のタイミングを見ていた。

 全員が行動を開始するために、力を籠めようとした瞬間。


 バチババチヂバヂチッ!!

 黄色の雷が横一線に流れ、周囲にいたダークエルフが感電してそのまま地面に倒れ込む。

 急な事で何が何だか分からなかったが、その後もまだ雷は走り回って周囲にいたダークエルフを一掃していく。


「な、な!?」

「……誰か雷魔法を使える奴はいたか……?」

「知るわけないでしょうがっ!」


 雷が二つ、宙を舞って後退する。

 それは彼らの左右に降り立ってその姿を顕現させた。


 右にいるのは真っ黒な狼。

 雷魔法と強化魔法を身に纏い、黄色い稲妻と赤い稲妻が体中にバリバリと走り回っていた。

 巨大な体は三メートルほどであり、牙を剥き出してダークエルフたちを睨んでいる。


 左にいるのは黒色に近い灰色の毛並みを持つ狼。

 その毛には一本の白い線が走っていた。

 右にいる黒い狼よりは大きくないが、それでも二メートルと五十センチほどはあるようだ。


「グルルルル……」

「ガルルルァ……」

「「グオォーーーーーー」」


 二匹の狼の遠吠えは、遠くにいるであろう仲間の元に確かに届いた。

 それを見ていた彼らは、ただ口を開けてその姿を見ている事しかできなかったのだった。

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