6.31.減少している


 ヴァロッドが泣き止んだ後は普通に説教が行われていた。

 まぁ二日間も親元を離れればそうなるわけで、しばらくの外出が禁止されてしまいましたとさ。


 これだけ心配されたのだから、どうしていなくなってしまったのかという事も勿論聞かれる。

 だがベリルはそれに対して「覚えていない」を貫き通した。

 変に誤魔化すよりも、こうしてもらっておいた方が確かに助かる。

 ボロが出ては意味が無いからな。


「本当にかぁー? こちとらこれだけヴァロッド様に振り回されたんだ。嘘だったら承知しないからねぇ?」


 不気味な圧を掛けて来ながらベリルの周りをうろうろする女性。

 髪が長いので見え隠れする目玉が不気味さを増している気がする。

 黒い軽装をしている彼女は年齢が若いような声をしているのだが……この怪しい動きがそのうら若さを完全に打ち消してしまっている様だ。


 何この不気味な人間……怖すぎ……。

 あ、でもメイラムほどではないな。


「本当だよディーナさん……。森に入ったところまでは覚えてるけど、途中から記憶がないんだ」

「まぁまぁギルドマスター。そこまで怖がらせなさんな」

「フン」


 いやこいつギルドマスターかよ!!

 怖いなおい!

 大丈夫か!?

 ここのギルドこいつに圧で支配されてたりとかしないか!?


 ディーナと呼ばれた女性はそっぽを向く。

 少し年老いた女性は少しばかり真剣な表情をしながら、ベリルの体を触った。


 急なことで驚いたベリルだったが、抵抗はしない。

 脈を感じ取ったりもしているようで、首筋や手首も確認していく。


「……」

「……?」

「ベリル。体に違和感はないかい?」

「えっ……。あ、あるよ。なんて言えばいいのかよく分からないんだけど……前とは違う感じがする」

「だろうねぇ」


 大きなため息と共に、その女性は近くの椅子に腰かける。


「本当に、記憶のない間に何があったって言うんだい……」

「れ、レンさん。どういうことだ? 俺にもわかるように教えてくれ」

「私からも頼む」


 レンと呼ばれた女性はしばらく考え込んでいたが、言わないわけにもいかないと一度頷いて口を開く。


「ベリルの魔力総量が減っているのさ」


 へぇ、このばあさん分かるのか。

 俺は感覚で分かるけど、人間は手で触って魔力総量を確認するのかな?


「どういうことだ……?」


 なぜ今の説明で分からないのかと斧を持っている男性にツッコミを入れたいが、まぁ分からないでもない。


 俺だって初めの頃は全く分からなかったしな。

 ていうかこの男、頭悪そうだもん。

 完全に脳筋っていう類の人間じゃないか。

 魔法とかもあまり持っていなさそうな気がする。


 その男性の質問にまたため息を吐いたレンは、手の平を向けて説明し始めた。


「魔力総量ってのは人が体の中に魔力を溜めれる限界量の事だね。普通は満タンになっているんだけど、魔力を使用すると減っていき、時間が経てばまた回復する。総量には個人差があるけど、今のベリルは前見た時より五割も減っているね」

「五割だと!!?」


 え、五割減?

 俺の見立てからすると七割以上減っている気がするんだけど。

 この辺は認識の違いとかあるんかね。

 良く分からんけど。

 まぁ五割でもすごい減少量なんだけどね。

 

 それを聞いた三人は流石に驚いていた。

 だがベリルは実感が湧かないようで、未だに首をかしげて体を触って確かめている。


「レン! それによってベリルに何か悪影響はあるのか!?」

「落ち着きなヴァロッド。普通に生活する分には問題ないよ。でも魔法は少し使えなくなるかもね」


 それを聞いて少しだけ安心するヴァロッド。

 しかし不安は完全に取り除かれなかったようだ。


 魔法が使えなくなるという事は、自分を守るための武器を無くすのとほぼ同じだ。

 今の俺もそうだからな。

 まぁ人間には武器とかがあるだろうから問題は無いのだろうが、それでも弱くなってしまうのは事実。

 今までの様には行かなくなるだろう。


「ベリルは回復魔法に適性があったな」

「うん……」

「剣技はあるが……俺の様な強化型じゃないからな……」

「まぁ、ベリル様はヴァロッド様みたいに戦える体じゃない。息子を強くしたいという気持ちも分かるが、力を失って生き残れる程冒険者は甘くないよ」

「ギルドマスターが言うんだ。ヴァロッド様、方向性を変えようぜ」

「ぬぅ……」


 魔法が使えるベリルであれば、支援型の冒険者として十分活躍ができた事だろう。

 多少剣の腕もあり、自衛もできる。

 冒険者にとって自衛のできるヒーラーは非常に重宝される存在であった。


 ヴァロッドもそれを見越して剣の腕を磨かせ、経験を積ませる予定だったのだ。

 だがこうなってしまった以上、お荷物になってしまう。


「だ、だが完全に失われた訳では……」

「そうだね。でも力の半分を失って魔物とやり合えると思うかい? ヴァロッド、あんたの持ち味はその耐久力だ。そしてこの盾。それを持たなければならない腕を一本失って、あの時のドラゴンの攻撃を受け止めれるかい?」

「……」


 その問いに、ヴァロッドは押し黙る。

 どう考えても不可能なのだろう。


「というか……」


 初めて聞いたこの会話に、ベリルは首を傾げ続けていた。

 自分の事は一度置いておいて、どうしても聞きたいことがあったのだ。


「お父様と……皆さんの関係って何ですか……?」

「あ、言ってなかったな。俺たち冒険者時代の元パーティーメンバーなんだよ」

「へっ!?」

「もう昔の事だ」


 それを聞いてディーナは肩を竦める。


「昔ねぇ。ヴァロッド様はいつでも無鉄砲だった」

「なんだと?」

「今回だってこの領地だけじゃなくて他の領地のギルドにまで応援要請出そうとしたじゃない。危ないったりゃありゃしないよ」

「た、確かに今考えればそうだが……!」

「冒険者全員強制招集とか考えられなかったよ」

「す、すまん……」


 元仲間に良い様にされているヴァロッドを、面白く見ているベリルだった。

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