6.29.人間の里
俺は棲み処に戻っていつもの場所に座り込む。
後は目を瞑って土狼と視界を共有する。
今土狼は森の中を歩いている様だ。
まぁ俺が歩かせているわけだが、今のところは襲撃らしいものもないらしい。
このまま人間の里に潜り込めるかな。
少年は心配そうに周囲を見ている様だ。
そう言えばこいつ、丸二日何にも口にしてなかったな。
子供たちが近づこうとするからさっさと連れて行きたかったんだよね。
結局セレナが強行したようだけど。
もうびっくりしたよあの時は。
ベンツが俺の真横通って行ったんだもん。
あの全速力で。
怖いわびっくりしたよマジで。
「これ、どうやって動いてるんだろう……」
「カチカツッ」
声は出せないけど、口を打ち鳴らせる事は出来るから返事はできるな。
もしうまく言ったらこいつで集まる場所の指定でもしておくとするか。
そこに土狼常に配置しておいてもいいかもな。
ていうか今向こうどうなってるんだろうなぁ……。
絶対大騒ぎになってるだろうから、視界共有もしたことだし走らせますか。
タタタターと走らせて、さっさと少年を里に返すことにする。
しかし意外と近くに来ていた様で、数分走らせただけで到着してしまった。
のんびり帰りすぎたかな。
「あ、この土の狼……どうしよう」
別にどうなってもいいよ多分。
上手い事行けば里の中を探索できるなぁ程度にしか考えていないからな。
……だが待てよ。
そう言えば俺二年前にこいつで冒険者退治してるわ。
んー、表に出すのはマズそうだなぁ……。
よし。
ガリガリガリガリ!
「うわっ!」
体を削って小さくしておく。
もう歩いて帰れる距離だろうから、大きい必要はないしな。
移動速度と攻撃力は大幅に落ちてしまうが、これであればそうそう見つかることはないだろう。
一匹は少年の服の中に入れておいて、もう一匹は探索用に目立たないようにしておけば大丈夫か。
いやでもめっちゃ小さくできたな……。
こんなに小さくできるんだねこの土狼。
俺知らなかったよ。
まぁこれで見つかる可能性は非常に低くなったな。
じゃあ探索用の土狼は周囲を走らせておくか。
この人間の里はまだ城とかはないんだな。
城壁もないし、街と言うより町といった印象を受ける。
それなりに大きい様だが……こんなんで防衛面は大丈夫なのだろうか。
ま、こっちは後からでも探索は出来る。
今気になるのは少年の方なので、そっちの方に視界を合わせることにする。
見てみると、少年は今走って街へと戻って行っている様だ。
だが里の端っこという事もあり、人の姿は見受けられない。
少年も人の少なさに少し戸惑っているみたいだ。
「とりあえず……屋敷に戻ってみるか。そう言えば僕どれくらいあそこで寝てたんだろう……」
あ、そう言えば教えてなかったな。
今の状態じゃ教えることもできないし、まぁ人間にあったらそれくらいわかるだろう。
少年は自分の家である館らしき場所に走っていく。
石作りの綺麗な洋館だ。
建築技術なども周囲の建物を見て把握できるのだが、よく見るファンタジー小説に登場するような中世の建造物が多いような気がする。
あれが本当に中世の建造物かどうか怪しい所ではあるが、少なくとも俺の前世の様な現代建築ではないという事は分かった。
まぁ外国の古い建築方式だとみておけばいいだろう。
大きな扉を開けて中に入って行くと、中は豪華な物が多く置かれていた。
石像や絵画をはじめ、絨毯やソファなども用意されている様だ。
それぞれに細かい装飾が施されていて、職人の技術が刻まれている。
パリンッ。
中に入って数秒後、右側からグラスが割れるような音が聞こえた。
ベリルと共にそちらの方向を見てみると、そこにはメイド姿をした女性が持っていたティーカップを全て落としている様子が見て取れる。
空いた両手は口を押えており、驚いていた。
だがすぐに駆けよってベリルの肩を掴む。
「ベリル様! ベリル様ですよね!」
「ちょ、ちょっとイリス……? どうしたの?」
「どうしたもこうしたもありません! この二日間一体何処に行っておられたのですか!?」
「二日ぁ!?」
解毒に一日半、起きるのに半日って所だったからなぁ。
こういう態度を取られてしまうのも無理はないだろう。
「ベリル様! 早く冒険者ギルドへ行ってください!」
「冒険者ギルド……? どうして?」
「ヴァロッド様がそこで指揮を執っておられます。ベリル様を探すために……」
「え! 冒険者の皆も探してくれているの!?」
「そうです! 早く皆様に無事をお知らせください! ベリル様が行っていただいた方が早いと思います!」
「わ、分かった! 行ってくる!」
おーあぶねぇ~。
もう少し遅かったら捜査隊が森の中に入ってたかもしれないなぁ。
ギリギリセーフだ。
少年はすぐに冒険者ギルドへと走り出した。
まぁメイドが報告しに行ってもいいだろうけど、間に合わないだろうしな。
しかし、やはり冒険者ギルドはあるんだな。
ここの冒険者が良い奴らとは限らないし、とりあえず見定めておくとするか。
最悪移動も検討しておこう。
ベンツに頼んで良い土地を探してもらっておいてもいいだろうな。
だけどこの少年、ベリルだっけか?
やっぱりいい所の坊ちゃんだったのね。
で、今行くところは冒険者ギルドね。
昔はゲームとかアニメとかでよく聞いた単語だな。
さて、どんなところかね。
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