6.5.新拠点


 レイたち兄弟にも承諾を取り、本格的に拠点の移動を開始することになった。

 向かうは南側。

 山々が連なっていて起伏が少し激しいようだ。


 食料は残っている五分の一を持っていき、足りなくなったら食べてもらうことにする。

 六匹の腹を満たす程度であれば、これくらいで事足りるだろう。


 後は、この六匹がどれだけ自分の魔法で生活を豊かにできるかだな。

 戦闘面では殆ど問題ないだろう。

 だがヒラは光と回復魔法しか使えないので、この子だけは戦闘に参加は出来ない。

 完全に支援型の狼なのだ。


 だがその支援はとても手厚い。

 魔法の威力を倍増させたり、回復の効力を数倍にまで引き上げることも可能である。

 それを極める為に他の魔法を一切覚えようとしなかったが、今ヒラの持っている魔法は全ての狼と相性の良い物となっていた。


 小柄な体であるにも関わらずよくやると思いながら、その白黒の毛並みを見ていた。

 俺と似たような収納魔法も所持した事だし、今回の拠点での生活基盤はこいつにかかっていると言ってもいいだろう。


『オール兄ちゃん。何処まで行くの? 結構棲み処から離れちゃったけど』

『それでいいんだ。似たような場所に構えても仕方が無いからな』


 暫く歩いて心配になったのか、灰と茶色の毛並みをしたウェイスがそう聞いて来た。

 近場に拠点を構えても何の意味もないんだから、こうして離れた場所に作るのが良いのだ。


 とりあえず水場の近くを歩いて拠点になりそうな場所を探しているけど、なかなかない物だ。

 今棲んでいる所より良い所は見つからないだろう。

 理想なのは水場があって、地盤がしっかりしていそうな洞窟だ。

 地盤さえしっかりしていて、水場の確保さえできれば後は俺が洞窟を掘ればいいだけなので問題ないのだが、そう言った場所がなかなか無い。


 川岸を歩いてはいるんだけどなぁ。

 崖があれば最高なんだが。

 あ、レイ用にもう一個洞窟を作っておかないといけないな。


 しかし……南側は結構動物が生息している様だ。

 匂いでも獲物の数がそれなりに分かる。

 こっちで獲物が何匹も狩れるようであれば、本拠地の方に供給してもらってもいいかもしれないな。


『おっ、滝壺か』


 暫く歩いていると、いい感じの滝が目に入って来た。

 音で既に気が付いてはいたが、ここまでの大きさだったとは。


 崖になっているので、この近辺に拠点を構えるのがいいかもしれないな。

 だがしかし、それにしては木が多すぎる。

 少し伐採しないと視界が悪そうだ。


 とりあえず滝壺から右に行って、できるだけ離れる。

 あんな音ずっと聞いているとうるさいかもしれないからな。

 ああいうのは聞きたいときに聞きに来るのが良いだろう。


 音も聞こえなくなった所で、崖に片手を当ててみる。

 土魔法で周囲の地盤の状態を確認。

 問題ない事を確認したところで、俺は洞窟を掘る為に土魔法を使って行った。


『オール兄ちゃん、俺たち何かできることある?』

『ん? ああ、そうだな。じゃあその辺に生えている木を伐採してくれ。ちょっと狭いからな』

『了解! 皆離れてくれー!』

『ぼ、僕はオール兄ちゃんの作業手伝うよ!』

『じゃあ少しこの辺を掘ってくれ』

『うん!』


 ウェイスが全員に指示を飛ばし、一度離れさせる。

 ドロは土魔法が使えるので、俺の手伝いをしてもらうことにした。


 風魔法の適性を二つ持っているウェイスは、手に籠めた力を横に薙いで木々をいっぺんに斬り倒す。

 エンリルならだれでも使える風刃だ。

 だがその切れ味は群れ屈指の実力を持つ。


 倒された木はバッシュが力任せに引きずって、一つの場所にまとめた。

 身体能力強化の魔法も随分様になってきている様だ。


 木々が全て整理された頃には、洞窟を掘る作業も終わってしまった。

 後切り株が残っているので、ドロが泥魔法を使って地面を緩め、ウェイスがそれに向かって風刃を放って根っこを切り裂く。

 最後にバッシュが切り株を持ち上げれば、簡単に取り除くことができた。


 良い連携だ。

 後は持ってきた食料を奥に突っ込み、レイ用の洞窟を簡単に作って第二の拠点作りを終了した。


『ほほぉー。開拓ではお前たちの能力が優秀だな』

『かいたく? 木を切ったり洞窟を掘ったりすること?』

『まぁそんな所だ。いい連携だったぞ』

『そりゃそうさ! 兄弟だしね!』


 それもそうだな。


 誇らしげにそう言ったウェイスは、この中でのお兄さんみたいな存在になっている。

 バッシュが寡黙でドロは少し臆病なので、引っ張ってくれている感じが手に取るようにわかった。

 良い事だ。


 その後ろでは、ヒラ、リッツ、レイが持ってきた物資を片付けてくれていた。

 ヒラは俺の無限箱から獲物を取り出して、自分の収納魔法に入れて保管している。

 こうしておけば、ヒラ自身の意志で開封することができるはずだ。


 リッツは料理担当だな。

 これまでシャロに料理を教えてもらっていたから、ここでもその力を発揮してくれるだろう。


 後は戦闘でめっぽう強い魔法を持つレイ。

 ここの指揮者として頑張ってもらいたい所だ。


『じゃ、俺は帰るぞ』

『あ、オール兄ちゃんちょっと待って! 俺たちは獲物を狩って行けばいいんだよね?』

『そうだな。できるだけ多く。だが無理はするなよ。怪我したらヒラに頼めばいいが、回復魔法は自分の魔力総量を削る。極力怪我はしないように』

『分かった』


 他に何か質問はないか聞いてみたが、とくには無いようだったので後は任せることにする。

 生活で必要な魔法を持った子たちが集まっているのだ。

 早々問題は起きないだろう。


 ただ無理をしない限りは、大丈夫なはずだ。

 しかし、やはり心配になってしまうのが俺である。

 帰り際、こっそり土狼を出現させておいて、監視することにした。

 危険があればこいつで一度脅威を足止めし、俺たちが駆けつけることにしよう。


 なんだかんだ言って、任せきれないのが俺の悪い所かもしれないなぁ。

 よし、とりあえず帰ってまた子供たちと戯れましょう。

 後は時間が解決してくれるだろうしね。

 頑張ってくれよ、レイたち兄弟。

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