6.4.作戦会議


 という事で食料問題をどうしようかという作戦会議が開始された。

 今この現状での食料供給はどうなっているのかを聞いてみることにする。


『冬の間でほとんどの備蓄を使い切ってしまっているのが現状。供給が足りていないのだが、狩りで何か問題はあるか?』


 すると、ベンツ以外の狼がそっぽを向いた。


 おい、これなんか絶対あるだろ。

 俺は純粋火力が高すぎて小さな獲物を狩ろうとすると細切れにしてしまうので、最近は狩りをしていない。

 なのでこいつらに任せているのだが……。


『ベンツ』

『うん。皆この一年で成長して力が増してる。狩りでも昔の威力での狩りができていなくて、獲物に大きな傷をつけることが多いよ。特にガンマ』

『余計なことをっ!』


 あーそう言うねぇ……。

 備蓄があるときはそんなに気にしてなかったけど、思い返してみれば損傷の激しい獲物が結構運び込まれて来たことあったなぁ……。


 だけど損傷の少ない獲物がいたのも事実。

 何が違うんだ?


『レイたち兄弟は比較的綺麗に狩りをするんだよ。レイを除いて』

『私だって頑張ってるの! 悪いのはシャロ兄ちゃんなの!』

『えっ!? いやだってそれはお前が……』

『獲物丸ごと炭にしたことあったの!』

『うっ』


 獲物に火を通すのは基本的にシャロに一任させている。

 だが火力の調整などもしっかりできるようになったはずなんだが……。


『レイの狩って来た獲物って氷付けなんだ。だから火加減が分かんなくて』

『ああー』


 それは仕方がない

 運が悪かっただけと捉えておく方が利口だろう。

 自然解凍するのにも結構時間かかるしな。

 待ちきれなかった狼が急かすのも原因になっているだろうけど。


 だがそんな事は些細な物だと思う。

 子供たちが産まれて個体数が増えたのだから、消費が多くなるのは必然である。

 供給を増やさないとな。


『狩りは今何処で行っているんだ?』

『それは僕がお話します!』


 ヴェイルガが名乗りを上げて、一歩前に出る。


『東西南北に別れて狩りをしておりますが、獲物の数は以前と変わりありません。変わったことがあるとすれば、魔素のない土地に人間と思わしき者が出入りをしている所でしょうか』

『それはいつからだ』

『一週間前です。ですが今日もその反応を感知できたので、今報告しました』


 人間という言葉を聞いて、俺とベンツとガンマ、そしてシャロは一気に毛を逆立てる。

 魔素のない土地はここから距離がある為、そうそう見つかることは無いはずだ。

 だが万全を期しておく必要はある。


 ヴェイルガはその長い角で周囲の状況を把握できる能力を身に付けた。

 言ってしまえばレーダーの様な物である。

 その精度は良い物なのだが、如何せん範囲が狭い。

 遠くまで把握することも出来る様なのだが、その場合は一点集中に加えて魔力の消費が激しいというデメリットもある。

 正確な物ではあるのだが、使い勝手はいまいちだ。


 だがこうして事前に教えてくれるのは非常にありがたい。

 ヴェイルガにはこれから定期的に魔素のない土地を監視してもらうことにしよう。


『承知しましたっ!』


 快く引き受けてくれた。

 だが食料問題とは全く別の路線になってしまったので、話を戻す。


 ヴェイルガが言うには、昔と獲物の数は変わっていないらしい。

 そうなると……。


『……拠点を分けるか』

『棲み処を変えるって事?』

『いや、そうじゃない。ここが本拠地というのは変わらないんだが、違う所にまた棲み処を作って群れを分けようっていう話だ』


 拠点を増やす。

 そうすることによって、狩りをするペースが速くなる。

 単純に拠点での消費を減らす事にも繋がるし、新拠点でも狩った獲物を持ちこんで食べればそれでいい。

 移動すればもっと良い狩場を見つける事だって可能かもしれないし、問題は無いと思う。


 まぁ要するに、狩場を広くしようっていう話である。

 何か困ったことがあれば支援しに行けばいい。


『良いど思いまず。でば、どいづを連れでいぎまずが?』

『そこが問題だな』


 とりあえず反対意見は出なかったので、このまま行こう。

 子育てをしている狼、加えて子を抱えている狼は俺が守る。

 番は絶対にここに置いていくので、狩りのできる父親狼もここに残すことにしよう。


 一番活動しやすいのはレイの兄弟だ。

 あいつら六匹には新拠点を作ってもらって、そこで狩りをしてもらおう。

 ヒラが俺と似たような魔法を持っているので、収納には困らないはずだ。


 新拠点の指揮はレイに任せることにしよう。

 こいつなら大丈夫なはずだ。


『レイもそれでいいかい?』

『大丈夫なの』


 後は他の子に話を聞きに行って、承諾が取れれば大丈夫だ。

 後はどの辺に拠点を構えてもらうかだが、南側に行ってもらおうと思う。

 その理由だが、南側はあまり探索できていないのだ。


 獲物も南から来ているという報告もあるし、向こうでも充分な数の獲物を狩ることができるはずである。

 とは言え拠点を作る時だけは俺も同行することにしよう。

 棲み処くらい作らないといけないからな。


『じゃあとりあえず、新拠点を作るって事でやって行こうか』

『皆に聞いてくるのー!』

『オール様、俺もいげまずが』

『スルースナーはここにいてくれ。拠点をもう一つ作る予定だから、そこに行ってもらう』

『分がりましだ』


 新拠点一つというのも寂しいからな。

 数も増えたし、狩場も増やさなければならないんだ。

 二つくらいあっても問題はないだろう。


 じゃ、その準備だな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る