5.59.平和だ


 残りの方角も散策してみたが、そこは特に何もなかった。

 狩りに使えそうな場所はあったが、魔素のない土地ほど奇妙なところはない。

 これであれば、北の方にはいかせない様にだけ注意しておけばいいだろう。


 変な建物とかもなかったし、やっぱりここは本格的に人のいない領地みたいだ。

 これであれば、半永久的に平和に暮らすことはできるだろう。


 ま、相手がどんな動きをするか分からない以上、油断は禁物だけどな。

 それに、あの悲劇の事を知ってる奴らは非常に少ない。

 俺たち兄弟を含め、シャロたち兄弟と、レイたち兄弟。

 レイたち兄弟は当時とても幼かったので、覚えているかどうかは分からないが、匂いでなんとなく状況は理解していたようだ。


 まぁ、別にそれを確かめる為に聞こうとは思わないけど、知っている親の匂いがしないって事には気が付いているだろうし、今では皆大人だ。

 何があったのかってのも、既に理解してくれている事だろう。


『こらー!!』

『げっ! またか! しつこいなぁ!』


 洞窟の中で魔法を使ったヴェイルガが、またシャロに怒られている。

 これも見慣れた光景だ。

 仲がいいのか悪いのかよくわかんないけど、まぁ楽しそうに毎日を過ごしてくれているだけ良いことだと思っておくことにする。


 ふと周りを見てみる。

 一角狼のディーナの子供たちが洞窟の中でスヤスヤと寝ている中、外では楽しげな声が聞こえてくる。

 狩りに行っていた狼たちが帰ってきて、それをまたシャロに預けている。


 シャロは既にこの群れの料理長だ。

 全員が焼いた肉の味を覚えたので、いつも狩って来た獲物はシャロに渡して火を通してもらっている。

 これも元はと言えば俺が教えた事なのではあるが、こうして浸透してくれていると嬉しいものだ。


 約一匹は特別な部屋で過ごしているが、レイは夏場動けないかもしれないな。

 温かくなる前に、魔法の調整が上手くできる様にならなかったので、冷蔵庫みたいな部屋を用意してあげた。

 そこならレイの魔法を思いっきり使って部屋をキンキンに冷やせるので、そこで休んでもらっている。

 外に出れないので少しばかり機嫌が良くないが、こういう環境だからこそ魔法の習得が早まるのかもしれない。

 頑張ってくれ。


 子供たちもずいぶん大きくなった。

 これであれば、元いた数と同じくらいにはすぐに増えるかもしれない。

 この場所は獲物もいるし、食べる分には全く困らなかった。

 良い土地である。


 とても平和だ。

 こんな生活が、ずっと続けばいいなぁ。

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