5.52.戦闘訓練


 シャロに声を掛けられて、俺は外に出る。

 向かうのは東の草原だ。

 あの辺はもう完全に俺たちの魔法特訓場と化してしまっている。


 時々誰かさんが暴れて地面がボッコボコになるので、その時は土魔法が使える狼たちに来てもらって魔法の練習がてら修繕してもらっている。


 さて、魔法の特訓場という事は、いつもならここで俺が監督をして魔法を教えたりしていたのだが……。

 今は違う。


『っしゃ行くぜオール兄ちゃん!』

『おう。いつでも来い』

『『シャロ頑張れー!』』

『どうせ勝てないだろうけど……』

『『デルタ??』』

『……ふふっ』


 シャロを応援しているのはニアとライン。

 デルタとレインはその様子をじっと見ている。

 シャロたちの兄弟が今はこの訓練場に来て、見学をしているのだ。


 最近、俺はこの子たちに魔法を教えるのが難しくなってきた。

 何故かというと、発想力が尽きたからである。

 俺の知らないことも沢山あるのだ。

 炎魔法って言ったってどの様な魔法を使えば強いのとかはよく分かっていない。

 燃えるんだから強いだろうけどね。


 という事で、今は各々に魔法を自分で作って編み出してもらっている。

 そこでやるようになったのが模擬戦だ。

 俺は全ての魔法を使うことが出来るので、いつも相手の弱点となる魔法で戦う。

 そうすることにより、弱点を何とかしようと試行錯誤して挑んでくるので、いい練習になっているのだ。


 今回はシャロ。

 炎魔法と身体能力強化の魔法を使用するので、俺は水魔法をメインに戦う。

 基本的に使うのは弱体化した水狼だ。

 破裂しないタイプの奴。


 さて、今回はどうかかってくるかな……?


 シャロは低姿勢の構えを取り、身体能力強化の魔法を使用する。

 そして、体を燃やした。


炎纏えんてん!』

『ほぉ』


 これは初めて見た魔法だ。

 体の所々に炎を纏っている。

 まるで燃える狼だな。

 だが自分にはダメージが無いらしい。

 見た目はとてもかっこいいぞ。


 んー、なるほど。

 ベンツがよく使う纏雷を真似た物か。

 炎だから速度とかは上がらないが、防御力は上がるという訳だ。

 これは普通の相手であれば触るのも難しいだろう。


 シャロは地面を強く蹴ってひとっ飛びで俺の場所までやって来た。

 身体能力強化の魔法も中々様に成って来た様だ。

 ガンマまでとはいかないが、それでも十分な能力あがる。


 だが俺も手加減はしない。

 模擬戦で手加減しても意味ないからな!!


『でいやー!』

『ワープ』

『ぬあああああ──』


 正面切って突撃してくる奴があるか。

 速度も纏雷程じゃないから対処するのは簡単だ。


 え、水狼??

 水魔法だけ使うとは言っていないから大丈夫。


 とりあえずシャロは元の位置に弾き飛ばしておく。

 シャロが落ちて地面にぶつかるようにゲートを開いておいたので、シャロは地面にぶつかってしまう。


『ぐふぅ!?』

『『あはははははは!!』』


 応援組が笑ってやんなよ可愛そうに。

 他2匹に限っては呆れてんぞ。


『ちょっとオール兄ちゃん! 卑怯じゃない!?』

『いや、今のは完全にお前が悪いだろう』

『俺なの!?』


 無自覚だったのか。

 いやだけど、流石にあれは誰だって回避しちゃうぞ……?

 俺に関しては一歩も動いてないけどな。


 シャロは笑っているニアとラインに一度文句を言ってから、また戦闘態勢を取る。

 口に火を含みながら、一つの魔法を叫ぶ。


『吹き火っ』


 口から火を吐くだけの簡単な魔法だ。

 火を周辺にはいて地面を燃やしていく。

 吹き火で作り出した炎はなかなか燃え尽きない特殊な物だ。

 恐らく唾液が着火剤になっているのだろう。


『炎の草!』


 シャロの周辺で燃えていた炎が一気に燃え広がり、俺の足元にまでやって来た。

 流石にこれは回避せざるを得ない。

 少し上に跳躍して、空間魔法で足場を作る。

 これで地面に足は付いていないので、俺自身が燃えることは無い。


 傍から見れば俺が宙から浮いているように見えるかもしれないな。


 炎から目を離し、シャロの方を見てみると……。

 シャロがいなかった。

 はて、何処に行っただろうかと思い少し鼻を利かせてみると……。

 上空からシャロの匂いがした。


 見上げてみれば、炎纏を纏いながらシャロが俺目がけて降ってきている。

 それに気が付いた頃には、目の前に到達していた。


『もらったあああ!』

『甘いっ!』


 すぐに水魔法を発動させてシャロを飲み込む。

 水魔法は作り出すのが速いので、簡単に動きを阻止することが出来るのだ。


 ザブンと水の中に入ったシャロは、慌ててパニック状態になっている。

 体に纏っていた炎が次第に消えていったので、完全に炎が消えてから水魔法を解除してシャロを解放した。

 水は魔力を失って普通の水になるので、地面を焦がしていた炎も消えていく。


『ブハァ! ゲッホゲッホ!』

『シャロは接近戦が得意だからな。近づきたい気持ちは分かるがもう少し慎重にな』

『はーい……。うわぁーまたびしょびしょだー!』


 そう言いながら、シャロは体を振るって水を飛ばしていく。

 炎魔法と風魔法でドライヤーみたいな熱風を出して、シャロを乾かす。

 これが最近の日課である。


 そうこうしていると、見学していた子たちがシャロの周りに集まって来た。


『やっぱり……駄目だったね』

『デルタも勝てないくせに!』

『土魔法って……土にどれだけ魔力を付与するかで主導権が変わるんだよ。だから、そもそもオール兄ちゃんには勝てないの』


 デルタの言う通り、土魔法は付与する魔力量が多い方が土を動かせる。

 数値的に見ることが出来ないので、俺とデルタとの魔力量の違いは分からないが、デルタの全力をもってしても、俺は土を動かす主導権を握り続けることが出来た。

 俺が異常なだけだろう。

 解せぬ。


『それ理由にしてたらいつまで経っても勝てないぞー!』

『僕には……闇魔法がある。土魔法に闇魔法を付与すれば、主導権は僕だけになるから、勝てないことは無いはず……』

『で? 勝ったことは?』

『………………』

『『『『ないよね』』』』

『………』


 なんか言えよ……。


『はいはい、じゃあ反省会は終わりだ。次は誰だ?』

『私!!』


 次の相手はニアの様だ。

 これは少し……気を張っておかないとな……。

 何故かって?

 空間魔法って見てないからね……。

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