5.26.魔物の群れ、もう一度
数分の拘束の後、ようやく動けるようになった。
全くとんでもない能力だな……。
自分に刺したのが悪かったのだが、まさかこんなになるとは思わなかったんや。
仕方がない。
その間ずっとヒラに突っつかれていたので、解除された後で風圧で吹き飛ばしておいた。
悪戯するのも大概にしなさい。
他の皆は自主練をしているようだった。
レインはまだ練度が足りないのか、水刃の発動速度はまだ遅い。
一番魔法の発動が物になっているのはレイのようだ。
時々氷の柱が出現しては崩れ去って、冷気が周囲に撒き散らされる。
冷気は周囲にあった草を凍らせたり、地面も凍らせた。
リッツは何とか複合魔法を使えるようになったようだ。
しかし、まだ拙い。
暫くの間は出来なかったようなので、ここまで出来るようになったのであれば上等だろう。
ヒラに関しては新しい光魔法が使えるようになった。
それだけでもいいだろう。
しかし、あれは完全に補助魔法だな。
魔法を強力にして吐き出してくれるんだもんなぁ……。
俺も出来るようになりたいけど、どうしても無限箱しかできなかった。
これはダメっぽいな。
『そろそろいい時間かな』
食事の時間だ。
これは俺が人間だった時の間隔だが、それでも問題ないらしい。
『帰るぞー』
『はーい!』
『はいなのー!』
今はガンマやシャロたちが狩りに出ている。
もしかすると新鮮な肉を持ってきてくれているだろう。
今のレイたちは丁度食べ盛りだからな。
消費がすごい。
まぁそれでもあの時狩った魔物は全然減ってないんだけどな。
その時、匂いがした。
『……?』
足を止めて、それが何かを確認するために集中して匂いを辿る。
匂いのした方角は西。
渓谷のある方角だ。
水場が多いので、把握できないところも結構あるが、とりあえずは問題ない。
そのまま渓谷を通るように匂いを辿っていくと……。
魔物の……群れがいた。
とんでもない数だ。
山を一つ埋めてしまう程の数がいるという事が、匂いだけでもわかる。
草木の匂いがそこからは全くしないのだ。
するのは魔物が放つ悪臭だけ。
『おいおい……マジかよ……』
『? オール兄ちゃん、どうしたの?』
何も知らないリッツが、首を傾げながら話しかけてきた。
他の三匹も、俺が呟いた言葉の意味が分からないようで、首を傾げている。
とりあえず……早く返さなければ。
『お前たちはすぐに帰れ。俺は北に行く』
『北? そこになにかあるの?』
『付いてきては駄目だ。ベンツとガンマが来たら、北に来いと伝えてくれ』
『??』
あの数はちょっと……。
俺だけでは対処できそうにない数だ。
ガンマがいたとしても、あの規模の数の敵を倒すことはできないだろう。
食料とか考えている場合ではない程の数だ。
とにかく敵を滅する事を考えて行動しなければ、こちらが負けてしまうだろうと思える。
『ほら、行きなさい』
『わ、わかった』
鋭い口調でそう言ってしまった。
その言葉に四匹は何かを感じたようで、すぐに帰っていく。
んー、本気出して戦いたいなとは思っていたが、流石にこの規模で戦いたくは無かったなぁ。
まぁ仕方がない。
いつもガンマやベンツに任せていたからな。
今度こそ、俺のできる技を全力で使ってみたいと思う。
ベンツはすぐに来るだろうけど、到着する前に暴れ始めてしまうとしよう。
俺は纏雷と身体能力強化の魔法と風魔法を使って、今持てる全力の速度でそちらに急行する。
足がもつれそうになるが、その時は風魔法で体を浮かせて走った。
タタッ……タタッっという感じで足を動かす。
先に行っていた四匹の子供たちをあっさりと通り過ぎたのだが、俺の事は見えなかったようで顔をこちらに向けることは無かった。
これだけ速く走っても、ベンツよりは遅いんだから驚きだよな。
走って二分。
ようやく匂いがした場所に到着することが出来た。
そこには既にベンツがいて、俺が来たことに気が付いてこちらに歩いてくる。
『兄ちゃん』
『どうだ?』
『とんでもなく数が多いよ……』
『地形も地形だ。ガンマのごり押しだけじゃ無理だろうな。俺たちが危ない』
遠目から相手の様子を見る。
以前は北西から進行してきており、平地で待機していた。
だが今回は山を進軍中だ。
俺たちにいる場所からまだ距離はあるが、三十分もすればここに来てしまうだろう。
渓谷は少し離れている。
地形を利用して倒せるかもと思ったが、誘導しなければそれは難しそうだ。
地形を壊すと土砂崩れの危険性もある。
自然を破壊するのはあまり好ましくない。
出来ればもっと広い所に誘導させてから迎え撃ちたいのだが、進軍方向からすると、北西のあの平地には向かわなさそうだ。
『どうするの?』
『今回は細々とした戦いになるな。ガンマでは少し厳しいだろう』
『地形を壊さずに戦うって事?』
『その方が安全だ。ガンマには巨大な敵の相手をしてもらうことにしようと思う』
『僕もそれでいいと思うよ』
ま、なんにせよ後はガンマを待つ。
久しぶりに三匹で戦うなぁ。
あの時の狩り以来ではないか?
後ろからガンマの匂いがした。
そろそろ来る様だ。
『っしゃ、じゃあ作戦を決めてから突撃しますか!』
『……もしかして、兄ちゃんって戦いたいだけじゃないの?』
『お、バレたか』
『……!? ……!!?』
何故そんなに驚くんだ……。
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