5.17.迎え撃つ
ガンマ、シャロ、ライン、デルタ、そしてメイラムを連れて北西に向かう。
シャロ以外の子たちに、今から魔物を討伐しに行くぞと話すと、総じて「なんで?」という質問がぶん投げられた。
どうにも狼たちは、自衛本能があまりないらしい。
強いのになぁ。
とりあえず皆には、住処の安全を確保する為というのと、食料確保の為という名目で納得してもらった。
仲間の数も増えたのだから、これくらいの事は普通に出来るのだ。
少しくらい先鋒に出して狩りをしても問題はない。
そもそも負けるつもりないしな!
俺が負けるとでも思っているのか全く!
まぁ、心配して言ってくれてるんだとは思うんだけど、皆からなんで? って言われるのは結構堪える。
俺弱くないから!
しばらく歩いていくと、ガンマが話しかけてくる。
『大丈夫なのか?』
『何が?』
『いや、俺は頭が悪いからよくわからねぇんだけどよ。リーダーが子供たちを守らなくてもいいのかって話。一番強い奴が前に出ていいのか?』
『ガンマ……。お前だけだよなんで? って言わなかった奴……』
そう、俺はこういう反応を求めていた……。
でも趣旨をまだ理解できていないようなので、もう一度説明しておく。
『父さんも一番強かったけど、前に出てたよね』
『……ああ、そうだな』
『あれは子供たちを守る俺たちを信じてたからだ。今の俺もそれと同じなのさ』
『新しく仲間になった奴らも信じれるのか?』
『少なくとも反抗的な様子は見られない。それに、数が減ったら困るのはお互い様だろうしね』
一角狼たちはリーダーが俺になって心底嬉しそうだし、ヴェイルガは俺に懐いている。
スルースナーの群れは、俺がスルースナーを殺さなかったことに感謝しているみたいだし、恐らく敵には転じないだろう。
今更俺に戦いを挑んでも、勝てないってわかってるだろうしな。
俺強いからな! ムフフ。
『まぁ、それもそうか』
ガンマはそれで納得してくれたらしい。
先程の話を聞いていた他の狼たちも、なるほどなと言った様に頷いていた。
あの時、父さんも俺たちに近づけさせずに敵を狩りに行った。
俺はそれと同じことをしているだけ。
敗北条件が、俺たちが見つかってしまう事だったからな。
『……オール様……。匂いが強くなってきました……』
『おう、俺も気が付いてる』
メイラムはそう言いながら、俺の隣に来る。
紫色の毛並みは少し不気味で、喋り方もちょっと不気味。
典型的な毒使いっぽい性格をしている。
どうやらメイラムは鼻が良いっぽいな。
索敵が得意なのであれば、子供たちにも教えてやって欲しい物だ。
と、そんな事より今は目の前に集中しよう。
さて、敵はどれくらいいるのだろうか。
目を瞑って集中する。
匂いをかぎ分けて地形を頭の中に生成し、敵の位置、数、その姿形を把握する。
今俺たちは風下にいる為、状況を素早く把握することが出来た。
距離はここから五キロ。
そこには……確かに異形と呼ぶにふさわしい化け物たちが並んでいた。
しかしそれは数十体。
他の魔物は動物の姿をしているので、食用にはなりそうだ。
しかし、その進軍をみて、俺は疑問を抱いた。
『……隊列を成している?』
並び方が異様に綺麗だったのだ。
中型犬のような魔物を前線に並べ、その後ろに機動力の高い馬のような魔物。
そして、中央には大きな姿の異形が何体か配置されており、それを囲むようにして数百体の様々な魔物が配置されていた。
綺麗な正方形。
そして先鋒、次鋒を機動力の高そうな魔物に任せている。
今は進軍を止めているようで、各々がその場に休憩しているようだ。
魔物がこんなことするか……?
こいつら、何かの指示に従って動いてるはずだ。
誰がこんな事をするんだろうか……。
『……オール様……』
『気が付いたか?』
『はい。妙な陣形です……。狩りとは……違う』
こいつは俺が確認しに来て正解だったな。
魔物を従わせることのできる奴が、もしかするとこの森の何処かにいるかもしれない。
しかし……この陣形。
明らかに人間並みの知性がある奴が作ったに違いない。
それが何なのかはまだ分からないが、とりあえずあれを全て始末すれば、もしかしたらおびき寄せれるかもしれないな。
何にせよ、俺のやることは変わらない。
『よし、行くか!』
『『『!?』』』
『腕が鳴るぜ!』
『『『!?』』』
ごめんな子供たち。
俺たち脳筋なんだ。
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