5.6.骨格変形魔法


 一定の間隔を保ち、俺とスルースナーは対峙する。

 体格差的には明らかに俺の方が有利なのではあるが、スルースナーは全く恐れていないように感じられた。

 何か策でもあるのだろうか。


 まぁ策がなければ俺と戦うなんてしないだろうしな。

 仮にも何匹ものリーダーを退けてきた個体だ。

 油断だけはしないようにしよう。


 スルースナーはまだ動く様子がない。

 出方を伺っているのかと思ったが、どうやら何か魔法の準備をしている様だ。

 何が飛んできても大丈夫なように、俺も魔法を展開しておく。


 俺が使うのは水狼だ。

 二匹の狼を隣に待機させる。

 それに加えて雷狼。

 初めて実戦で使用する魔法ではあるが、扱いはそんなに難しくない。

 雷の糸で繋がっているので、なんとなく操りやすい感じがするのだ。

 そんな感じがするだけかもしれないが。


 暫くそうして待機していると、スルースナーの体に変化が現れた。

 腕からバギィッっという何かが折れる様な音が聞こえたと思ったら、骨が体から飛び出してきたのだ。

 それに驚いていると、今度は背中から骨が飛び出した。

 背中から飛び出した骨は自らを守るように広がり、無数の棘のような姿に変わる。

 もしこの状態のスルースナーに素手で攻撃しようとすれば、自分が傷ついてしまうだろう。


 勿論出血しているのだが、その後に薄緑色の光がスルースナーを覆った。


『回復魔法か!』


 自らの魔法で自らを傷つけ、攻撃力と防御力を上げる。

 そして、変形で傷ついた体を回復魔法で癒す……。

 戦う度にこんなことしてたら普通死ぬぞ?

 回復魔法ってただでさえリスキーなのに……。


 こいつが声枯れてる原因ってこれだよな。

 大方喉辺りの骨でも変形させたんだろう。

 無茶苦茶だなおい……。


『いぐぞぉ』


 そのスルースナーの姿は、いつぞや見た狼に似ているような気がした。

 寄生されていたリーダー格だったな。

 ……まさかな。


 スルースナーはカシャカシャと骨を打ち合わせながらこちらに走ってくる。

 俺は水狼を向かわせて打って出る。


 水狼が近づいてくるや否や、スルースナーは腕を大きく振るって水狼の頭を斬り飛ばす。

 手加減していることもあってか、避けることが出来なかった。

 だが、水狼は爆発する。

 キュッと一瞬萎んだ後、破裂音がしてスルースナーを吹き飛ばした。


 だが、スルースナーはすぐにもう一匹の水狼に飛び掛かった。

 あの至近距離で水狼の爆発を喰らってどうして再び走ることが出来るのだろうか。

 そう思ってもう一度よく見てみると、スルースナーの背中から飛び出た骨が一点に集合していた。


 あの骨は動かせるのだろうか。

 次の水狼の動きを俺はよく観察した。


 まず、スルースナーが水狼の足を前足で吹き飛ばす。

 あの骨は意外と威力がありそうだ。

 生身で喰らっていい攻撃ではないな。


 次の瞬間、水狼は爆発する。

 スルースナーの位置は水狼の足元を攻撃したので、距離的には零距離と言ってもいいだろう。

 そこで水狼が爆発。

 スルースナーは吹き飛ばされたが、体勢を立て直して俺に向かって突撃してきた。


 俺はその爆発の瞬間を見ていた。

 すると、スルースナーの背中から飛び出した骨が、一気に水狼の方へを向きを変え、爆破の衝撃を和らげたようだ。

 普通に防ぐだけでは体にもダメージが入るはず。

 だが、スルースナーは足から飛び出した骨をバネの様に地面に突き出し、爆発とは反対の方向に跳躍。

 ダメージを逃がしているようだった。


『なるほど』


 勉強になるうっ。

 だが次は雷狼だ。

 これはどうするつもりなのだろうか。


 俺はすぐに雷狼をスルースナーに仕向ける。

 すると、スルースナーは一度距離を取って、腕から飛び出した骨を一本折った。


『?』


 スルースナーは咥えた骨を宙に投げ、背中の骨でそれを打ち、俺の方目がけて飛ばしてきた。


 器用だな!?

 あれ?

 だけど俺の方とは全く違う方向に……。


 飛んできた骨を見ていると、骨は俺と雷狼を繋ぐ雷の糸に当たった。

 バチッという音が鳴り、一瞬俺と雷狼の繋がりが断たれる。

 再度糸を繋げようとした瞬間、雷狼が弾けて消えた。


『!!?』


 見てみると、スルースナーが雷狼を腕で薙ぎ払っているところが見て取れた。

 雷攻撃なので流石に自分にもダメージが入っている様だったが、骨を何本も地面に差して、出来るだけ雷のダメージを軽減しているようだ。


 そんな知識何処で手に入れて来たん?

 てかそんなんで雷って防げるの!?

 無理じゃね!?

 こ、これもなんかの魔法なのぉ?

 っつーかこいつ結構やるやん!

 尚更殺したくなくなったわ!


 スルースナーはカカカッカッカと音を鳴らしながら、俺を見据えた。

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