3.37.成果


 俺とニアは特訓を終え、皆の居るところへと戻っている最中だ。

 光魔法の使い方は何とか修得したようなので、俺から教えることはもうない。


 あの時、闇魔法で威圧みたいなのをやってしまったのだが、完全に無意識だ。

 なんかとりあえず怖がらせようとしたら勝手に発動した。

 それについてニアはすごく怒っているようで、俺の頭に乗って耳をガジガジと噛んでいる。


『あの……痛いんだけど』

『ウゥー……』

『ごめんて』


 うん、やっぱりこれじゃれてないね。

 お怒りの御様子です。

 だって仕方ないじゃーん。

 こっちにもいろいろ事情があったんですから……。


 ま……これでニアは敵と戦うとなった時は、しっかりと味方をサポートしてくれるだろう。

 光魔法は俺も練習中だから、もっと教えれるように他の物も考えておかないとな。


 ニアに耳を齧られながら歩いていくと、拠点に戻ってくることが出来た。

 既にほかの子供たちもいるようで、四匹が固まって身を寄せている。

 俺はそこに近づいて、成果を聞くことにした。


『ただいま~。どうだったー?』


 すると、固まっていた子供たちが一斉にこちらを向いた。

 全員が目に涙を溜めていて、俺を見るや否や全速力で飛び掛かってくる。


『『『『オールお兄ちゃーん!』』』』 

『え!? なになっぐほぁ!? ふぐ!? がっ! ぐっは!!』


 ロケットが四発腹部に入る。

 俺はその勢いに負けて転倒してしまい、頭に乗っけていたニアも空中に放り投げだされた。

 子供たちは俺にくっついて大泣きしている。


『なになになに!? 一体どうしちゃったの!? 皆喋れるようになって!』

『『びえええええ!!』』

『オールお兄ぢゃんがよがっだぁ!』

『うわああん!』


 …………おん?

 え、これってどういう意味ですか?


 俺はすっと先生方の方に目を向ける。

 すると、一斉にそっぽを向いた。


 おいこらてめぇら。


『ロード爺ちゃん』

『……なんじゃ?』

『確かロード爺ちゃんはデルタと一緒だったよね。何したの?』

『んー……模擬戦じゃの』

『おいこらクソジジイ』


 魔法覚えたての子供に模擬戦やらせるやつがあるか!!

 そりゃデルタ泣くわ!

 こうなるのもわかるわまじで!


 って、もしかして全員こんな感じなのか!?


『る、ルインお婆ちゃん?』

『爺さんと同じよ?』

『ババァてめぇこの野郎』


 これは俺の人選ミスだーー!

 いや、人選じゃなくて狼選か?

 って、んなことはどうでもいいんだよ。

 つーかルインお婆ちゃん相手に模擬戦とか鬼畜すぎるわ!

 レインごめんなぁ!?


 まぁ問題はこっちですよ。

 流石に古い狼たちだからね、今のやり方はわからないことも多いでしょう。

 おい愚弟共。


『ベンツ? ガンマ?』

『……』

『お、俺は身体能力強化の魔法だけ教えてたからな!』

『じゃあなんでこんなことになってんだよ』

『いや、えーっとそれは……』


 確かガンマが教えていた子はシャロだったな。

 一体何しやがったか聞き出してやる。


『シャロはどんな訓練を受けたんだ?』

『うっ……うぅ……火傷した……』

『……っんーー?』


 シャロの体をよく見てみると、体が一部焦げていた。


『ガンマ貴様ぁーーーー!!』

『俺のせいかよっ!!』


 そう叫びながら、すぐに回復魔法を使ってシャロを癒してあげる。

 怪我は一瞬で良くなったようで、毛の焦げもなくなっていた。

 だがこうなった時の怖さをまだ覚えているのだろう。

 未だに俺に縋りついている。


『てめぇ自分が使えもしない炎魔法を教えるとはどういう了見だこらぁ!』

『いや! だ、だってシャロが使いたいって言ってたから……』

『お前が教えるのは身体能力強化の魔法だけっつただろうが阿呆!!』

『いやそうだけど……』

『だまらっしゃい!!』


 俺は水弾を作ってガンマにぶつけた。

 結構大きい玉にしたので、その威力は普通の状態のガンマであれば簡単に吹き飛んでいく。


『ふぶっはぁ!?』

『が、ガンマー!?』

『次は貴様だベーンーツー……』

『うひっ!?』


 闇魔法を使ってもいないのに、その殺気がベンツを突き刺していく。

 俺はベンツに教えてもらっていたラインに話を聞いた。


『……バリバリ嫌』

『お? バリバリ?』

『あのね、雷魔法使うと体がバリバリってするの』

『……あー……そう言う事か』


 これは昔ベンツも悩まされていたものだ。

 雷魔法を初めて使う時や、まだ慣れないときは自分にもダメージが入るという物。

 この魔法は調整が難しいと、以前ベンツから聞いたことがある。

 と、いうことは、ベンツは至って安全にやろうとはしてたけど、魔法の性質から、ラインは怖くなってしまったという訳だ。


『ベンツ。お前は許そう』

『……あ、うん』


 泣かせてしまったという事実に、ベンツは少し焦りを覚えてしまっていただけのようだ。

 だが、雷魔法をちゃんと教えようとしてくれていたようだし、これはラインの練習不足。

 これを乗り越えないと雷魔法は使えるようにならないのだから、雷魔法の練習は引き続きベンツに任せてもいいだろう。

 ま、この群れの中で雷魔法が使えるのは俺とお父さんとベンツだけだしな。


 しかし……まさかこんなことになっているとは思いもしなかった。

 新人育成へたくそか。

 これはちょっと俺の見通しが甘かったな……。


『ロード爺ちゃん、ルインお婆ちゃん、そしてガンマ! 三匹は子供たちの訓練に参加するの禁止!』

『子供の成長はささやかな楽しみなのじゃが……』

『うるさい! これは決定事項! 後は俺とベンツで見るからね!』

『しかたないのぉ』


 仕方ないじゃないわっ!

 これ以上子供たちを泣かせるんじゃない!

 それで怖がって魔法使えなくなっちゃったら意味がないだろうに!


 全く、こんなことなら俺も一緒に回っていくべきだったぜ。

 そう言えば……ベンツやガンマは俺が教えてたもんなぁ……。

 ベンツには複合魔法を教えていたから、その教え方を覚えていたのだろう。

 結果は泣かせてしまったようではあるが……。


『皆そろそろ落ち着いたかー?』

『……』

『……』


 まだ駄目みたいですね。

 もう少し落ち着いたら、何かご飯を取ってきてあげるとしよう。


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