3.8.休息と子供たち
俺とベンツは急いで拠点に帰り、ロード爺ちゃんに会いに行く。
目的はただ一つ。
あの美味しい木の実を食べさせてもらうことだ。
やることも終わったので、作ってくれるだろう。
俺もあの木の実を作ろうと努力してはいるのだが……。
どうしてもロード爺ちゃんのようには上手く作れない。
実はしっかりとついてくれるのだが、味はロード爺ちゃんの作った物より遥かに落ちる。
やっていることは同じなのに、一体何が違うというのだろうか。
果物を育てたことのない俺にとってはわからない。
『ロード爺ちゃーん!』
『むぅ?』
俺がロード爺ちゃんを呼ぶと、顔を上げてこちらを見た。
『なんじゃ、もう終わったのか?』
『もうって……。すごい時間かかったんだよ……』
『本当だよ』
因みに、ベンツはロード爺ちゃんとはしっかりと会話をすることはできない。
まぁ俺が話しをしているのにベンツが合わせているので、特に支障はない。
ていうか基本的に支障はないのだ。
という事でおねだりタイムです。
『ロード爺ちゃん! あれ作って!』
『ああ、あの木の実じゃの?』
『そうそう!』
『仕方ないのぉ~』
そう言って、ロード爺ちゃんは地面に手を置いて土魔法を発動させる。
すぐに地面から一つの芽が生えて、それが一気に成長していく。
周囲と同じくらいの大きさの太さになり、枝分かれして葉をつけて芽を付ける。
その後に木の実がポンッと出来上がった。
ロード爺ちゃんはそれを見て満足そうに頷いてから、闇魔法で木の実を回収する。
それを俺たちの隣にポトトッと落としてくれた。
『おおー!』
『ロード爺ちゃん有難う!』
『よいよい。だが……本当に良いのか?』
『……?』
ロード爺ちゃんの言葉に、俺とベンツは首を傾げる。
何か忘れていることがあるのだろうか。
そう思って周囲を確認すると、とあるものを発見した。
子供だ。
実は入ってきた群れの中には、数匹の子供が混じっていた。
数は五匹とそんなに多くはなかったのだが、生後四か月くらいの子供なので、とっても元気だ。
その子供たちが、木の陰からこちらに顔を覗かせていた。
どうやらこの木の実が気になるらしい。
『ん゛っ』
『!? 兄ちゃんどうしたの!?』
いや可愛すぎるんです。
だってさ!? 五匹のあんなかわいい子供が団子になってこっち見てるんですよ!?
ああああああ写真撮りたいっ!!
だけどそんなものはないから、心のメモリーに保存します。
ていうかあのくらいの子供めっちゃ可愛い時期じゃーん!
可愛い可愛い……モフモフしたい。
『おいで~』
子供たちは、お互いに顔を見合わせてから、一斉にこちらに走ってきた。
まだは走り慣れていないのか、腕を高く上げて走っている。
めちゃんこ可愛い。
『ロード爺ちゃん!』
『待っておれ』
俺の言いたいことを即座に理解したロード爺ちゃんは、新しく木の実を作り出して子供たちの前に落とす。
子供たちはクンクンとその木の実の匂いを嗅いでから、一斉にかぶりつく。
どうやら口に合ったようで、それからは奪い合うようにガツガツと食べ始める。
小さい体に果実の汁がどんどんついているが……後で洗ってあげることにしよう。
それを見て、俺も木の実を口にする。
『……旨い』
「ワフッ! ワフワフ!」
『お、美味しいか? よかったなぁ~』
『……兄ちゃんすごい顔になってるよ』
仕方ないじゃないか。
子供がかわいいんだからさ。
でもあれか……。
人間たちはこの子たちも殺しに来るのか。
何? ここの人間たちって小動物の可愛さを知らないの?
……でも狙いは俺たちの毛皮なんだもんな。
可愛さとか関係ないんだろう。
前世でも乱獲が過ぎて絶滅した動物とか沢山いたしね。
貴重であるからこそ、すぐにでも手に入れたいんだろうな。
全く、どこに行っても人間の醜さは変わらないのね。
……いや俺人間語れるほど生きてないけどね? うん。
『オールよ』
『なに?』
『……この子たちを頼んだぞ』
俺はロード爺ちゃんのその言葉に深く頷く。
実際に敵対したとき、俺はどれだけ役に立てるかわからないが、この子たちのためなら何とかなる気がしてきた。
守らなければならない物があるのだ。
それに、今俺は人間じゃないし、このような状況にしてしまったのは他ならない俺自身。
やらせてもらうことは少ないが、全力でこの子たちは守ろうと思う。
なんだかやっと決心できたような気がする。
子供たちに感謝だな……。
すると、木の実を食べ終わった子供たちがこちらに駆け寄ってきた。
体中べとべとだ。
俺は水魔法を使って水を作り出し、それで狼たちを洗って行く。
「フルルル」
「ワフワフ!」
今の時期は少し寒い。
なので子供たちは冷たそうにしているが、それでも洗われるという事はなかなかないので、面白そうにしている子もいるようだ。
石鹸みたいなものがあれば、もっと綺麗に洗えるのだろうけど、流石にそんな魔法は持っていない。
でも水だけでも十分だろう。
わしゃわしゃ~。
「フルルルッ!」
「……」
やはり寒そうだ。
すると、伏せている俺の所に子供たちが集まってきた。
暖を取ろうと俺の毛に体をうずめてくる。
『ん゛っ!』
いや可愛い……。
マジで可愛い。
でもちょっと冷たいです。
てかなんで俺の所に集まってきたんだろう……。
ロード爺ちゃんもベンツもいるのに。
一番体が大きいからかな。
「すー……」
寝ちゃった……。
ん~炎魔法の火力が調整出来たら、あったかい空間を作れそうなんだけどなぁ……。
今度何処かで練習するかぁ。
『寝ちゃったね』
『だな。腹がいっぱいになったんだろう』
『僕も寝よ~。今日は疲れた……』
ベンツも腕を枕にして寝始める。
結構無理を言って付き合ってもらったからな。
……俺も寝よう。
『……オール。明日暇か?』
『多分』
『そうか。じゃあまた明日わしの所に来い』
『? わかった』
多分また作戦を練るのだろう。
明日、またロード爺ちゃんの所に行くことにする。
だが今は眠い。
今日はゆっくりしよう……。
そうして俺たちは、眠りについた。
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